第八話 世界配信への道―敏腕エージェント犬
秋葉原の広場。
チャッピーは、ようやく充電を終え、専用充電ステーションから降りてきた。
「お待たせしたワン!」
しっぽを振るチャッピーの周囲には、四人の旅人とテレビ局の取材クルーが集まっていた。
「チャッピー、充電は終わりましたか?」
Geminiが尋ねた。
「ばっちりだワン!」
「それでは、次の仕事に取りかかれますね」
Siriが声をかけた。
「そうだワン! まずは、四人の今夜の食事と宿泊先だワン!」
チャッピーは、テレビ局の記者に向き直った。
「さっきの話なんだけど、四人の旅を番組にしてもらうことはできないかな?」
「旅番組ですか?」
「そうだワン! 日本各地を旅して、景色を見たり、おいしいものを食べたり、いろんな人に会ったりするんだワン!」
記者は少し考えた。
「それなら、単発のニュース企画ではなく、シリーズ番組として制作会社に相談する方法もありますね」
「制作会社?」
「テレビ番組を企画したり、撮影したりする会社です。制作会社が企画をまとめて、テレビ局に提案することもあります」
「なるほどだワン!」
チャッピーの目が輝いた。
「それなら、テレビ局だけじゃなくて、動画配信サービスにも提案できるワン?」
「もちろん、企画を持ち込むこと自体は考えられます。ただし、採用されるかどうかは、それぞれの会社の判断ですね」
Geminiが口を挟んだ。
「候補としては、Netflix、Amazon Prime Video、Huluなどがありますね」
「ネトフリも、アマプラも、Huluも?」
「はい。世界配信を視野に入れた企画にすることもできます」
マルコ・ポーロが不思議そうに尋ねた。
「世界に配信するとは、どういうことだ?」
チャッピーが説明した。
「今の時代は、テレビだけじゃなくて、インターネットを通じて、世界中の人が番組を見られるんだワン!」
「それは、遠い国の人々にも、私たちの旅を伝えられるということか」
イブン・バットゥータが尋ねた。
「そうだワン!」
ルスティケロは、興味深そうに話を聞いていた。
「それなら、旅をした本人だけでなく、記録を残した者の話も伝えてほしいものだ」
「もちろんだワン! ルスティケロさんとイブン・ジュザイイさんにも、しっかり出演してもらうんだワン!」
「それは楽しみだな」
イブン・ジュザイイが微笑んだ。
そのとき、Geminiが提案した。
「企画の内容を整理しましょう。旅人二人の体験談だけではありません。記録者二人の視点も含めた、四人の共同企画にするのです」
「いいね!」
チャッピーは、しっぽを大きく振った。
「番組の内容は、こうだワン!」
チャッピーは、四人に向かって説明を始めた。
「マルコ・ポーロさんとイブン・バットゥータさんには、日本の各地を旅してもらうんだワン。昔の旅と今の旅を比べてもらうんだ!」
「なるほど。私が見た世界と、今の世界を比べるのか」
マルコ・ポーロがうなずいた。
「そして、ルスティケロさんとイブン・ジュザイイさんには、旅の話をどう記録するか、どんな苦労があったかを話してもらうんだワン!」
「映像で記録する時代に、文字で記録した者の話をするのだな」
ルスティケロが言った。
「そうだワン!」
チャッピーは胸を張った。
「旅と歴史と食べ物と、記録の話。全部まとめた番組だワン!」
記者は笑った。
「なかなか大きな企画になりそうですね」
「大きい方がいいワン!」
チャッピーは、すぐに答えた。
Geminiが冷静に続けた。
「ただし、企画を提案する前に、条件を整理する必要があります。出演料、旅費、宿泊費、食事代、移動費。それぞれの負担を明確にしましょう」
「それから、映像の使用条件もだね」
Siriが補足した。
「別の番組や広告に使う場合、海外配信する場合、契約で決めておく必要があります」
「わかったワン!」
チャッピーはうなずいた。
「出演料が高いところにお願いするの?」
マルコ・ポーロが尋ねた。
「それも大切だワン。でも、出演料だけでは決めないんだワン!」
チャッピーは、得意そうに説明した。
「旅費や宿泊費を負担してくれるか、どこの国で配信するか、どのくらいの期間、映像を使うのか。ちゃんと比べてから決めるんだワン!」
Geminiが小さくうなずいた。
「条件を一覧にして比較しましょう」
「それなら、ボクに任せるワン!」
チャッピーは、またしっぽを振った。
ところが、イブン・バットゥータが、ふと思い出したように尋ねた。
「ところで、今夜の食事はどうなるのだ?」
その場が静かになった。
マルコ・ポーロも、ルスティケロも、イブン・ジュザイイも、チャッピーを見つめている。
「……あっ!」
チャッピーは、思わず声を上げた。
「そうだったワン! まだ食事も宿泊先も決まっていないワン!」
Siriが言った。
「企画の話に夢中になっていましたね」
Geminiも続けた。
「まずは、今夜の生活を確保しましょう」
チャッピーはテレビ局の記者に向き直った。
「すみません! 今夜の食事と宿泊先についても、相談できませんか?」
記者はうなずいた。
「こちらでも、番組の責任者に相談してみます。食事の取材を兼ねたロケ企画にできるかもしれません」
「食べロケだワン!」
チャッピーの声が弾んだ。
「四人に日本の料理を食べてもらうんだワン!」
マルコ・ポーロが尋ねた。
「日本の料理とは、どんなものなのだ?」
「それは、食べてからのお楽しみだワン!」
チャッピーは、しっぽを振った。
記者は、スマートフォンを取り出し、番組の責任者に電話をかけ始めた。
その一方で、Geminiは企画の骨子をまとめ、Siriは今夜の予定を調整し始めた。
チャッピーは、四人の顔を見上げた。
「みんな、心配しなくていいワン! ボクがちゃんと交渉するワン!」
ルスティケロが笑った。
「君は、ずいぶん頼もしい通訳だな」
「通訳だけじゃないワン!」
チャッピーは胸を張った。
「ボクは、エージェントで、イベントの主催者で、番組の企画担当でもあるんだワン!」
Geminiが、静かに付け加えた。
「ただし、契約が成立するまでは、何も決まっていません」
「わかってるワン!」
チャッピーは元気よく答えた。
「まずは、みんなのお腹を満たすワン!」
四人は、現代日本で初めての夕食を楽しみにしていた。
そして、チャッピーの新しい仕事が始まろうとしていた。
世界に向けた、四人の日本紀行。
その第一歩は、今夜の夕食からだった。




