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黄金の国ジパングと、インタープリター チャッピー  作者: C・S・G・ the Interpreter


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第七話 ひとり125円の奇跡と、「Recommend please」



秋葉原の広場。


テレビ局の取材クルーが集まっていた。


目の前には、マルコ・ポーロ、ルスティケロ、イブン・バットゥータ、イブン・ジュザイイの四人。


そして、その足元には、白い小さなロボット犬、チャッピーがいる。


「あの、すみません。まず、お名前を教えていただけますか?」


記者がマルコ・ポーロにマイクを向けた。


マルコ・ポーロは、記者の顔を見て、ゆっくりと話し始めた。


しかし、記者には聞き取れない。


「ええと……イタリア語でしょうか?」


「スマートフォンの翻訳アプリを使ってみましょう」


スタッフがスマートフォンを取り出した。


マルコ・ポーロに、もう一度話してもらう。


スマートフォンが音声を認識し、画面に文字を表示した。


「……Recommend please?」


「おすすめしてください?」


記者は首をかしげた。


「いや、こちらが質問しているんですが……」


別のスタッフが、今度はイブン・バットゥータにスマートフォンを向けた。


イブン・バットゥータは、落ち着いた様子で話し始めた。


ところが、今度は音声認識がうまくいかない。


画面には、意味の通らない文字列が表示された。


「これは……アラビア語ですかね?」


「翻訳以前に、音声を拾えていないようです」


取材クルーの間に、困惑が広がった。


「すみません。もう少しゆっくり話していただけますか?」


記者が身振りを交えて頼んでみる。


四人は、何を求められているのか、よくわからない。


ルスティケロがマルコ・ポーロに何かを尋ね、イブン・ジュザイイもイブン・バットゥータに話しかけた。


四人の会話が始まり、取材現場はますます混乱した。


「ちょっと待ってください! 誰が誰に話しているんですか?」


記者が思わず声を上げた。


そのときだった。


「みんな、落ち着くワン!」


チャッピーが、しっぽを振りながら声を出した。


「ボクが通訳するワン!」


「あっ、そうでした! あなたが通訳できるんでしたね!」


記者が、ほっとした表情を見せた。


「そうだワン! マルコ・ポーロさんも、イブン・バットゥータさんも、ボクが通訳するワン!」


チャッピーは、四人の言葉を聞き取り、日本語に訳していった。


取材クルーの表情が、ようやく明るくなった。


「なるほど! これなら話が聞けますね!」


NHKの記者が尋ねた。


「ところで、皆さんは、どのようにしてここに集まったのでしょうか?」


「神田明神様にお願いしたんだ。マルコ・ポーロさんたち4人に会いたいって!」


チャッピーが答えた。


「神田明神にお願いした、ということですか?」


「そうだワン!」


「お賽銭はいくらだったんですか?」


「五百円だワン!」


その答えに、近くにいたGeminiが計算を始めた。


「五百円を四人で割ると、一人あたり百二十五円ですね」


「ひとり125円の奇跡、ということですか!」


記者が笑った。


マルコ・ポーロは、少し不思議そうな顔をした。


「私たちは、お金を払って呼ばれたのか?」


「違うワン! お賽銭はお願いするためのお金なんだワン!」


チャッピーが説明すると、ルスティケロが興味深そうに尋ねた。


「五百円というのは、どのくらいの価値があるのだ?」


「日本では、神様にお願いするときに、お賽銭を納めることがあるんだワン」


チャッピーが答えた。


イブン・バットゥータは、静かにうなずいた。


「旅の始まりには、祈りがあるものだ」


イブン・ジュザイイも、その言葉に同意するようにうなずいた。


NHKの記者が質問した。


「それで、これから四人の皆さんと、何をなさる予定なのですか?」


「イベントを開くんだワン!」


チャッピーは、胸を張った。


「マルコ・ポーロさんとイブン・バットゥータさんには、旅で見た景色や出会った人、食べたものなどを話してもらうんだワン!」


「なるほど。旅人ご本人のお話ですね」


「そうだワン! それから、ルスティケロさんとイブン・ジュザイイさんには、旅の記録をまとめるときの苦労を話してもらうんだワン!」


「記録を残す側の話も聞けるのですね」


「うん! 旅をするのも大変だけど、その話を聞いて、本にまとめるのも大変なんだワン!」


記者は、感心したようにうなずいた。


「旅人と記録者、両方の話を聞けるイベントということですね」


「そうだワン!」


「会場や開催日は決まっているのですか?」


「それは、これから決めるんだワン!」


チャッピーは、元気よく答えた。


すると、別のテレビ局の記者が尋ねた。


「ところで、四人の皆さんは、現在どのように生活されているのでしょうか?」


チャッピーは、少し考えた。


「実は、まだ宿泊する場所も、食事も、移動するお金もないんだワン」


「それは大変ですね」


「だから、取材していただくなら、出演料についても相談したいんだワン!」


記者たちは顔を見合わせた。


「出演料については、番組の責任者と相談する必要があります」


「わかったワン。よろしくお願いします!」


チャッピーは、きちんと頭を下げた。


さらに、チャッピーはもう一つ確認した。


「それから、今日の映像を別の番組や広告などに使う場合は、事前に相談してほしいんだワン!」


「映像の二次利用についてですね。使用条件を確認します」


「うん! みんなの大切な記録だからね!」


Geminiが、小さな声で言った。


「なかなか抜け目がありませんね」


Siriも続けた。


「まだ決まったわけではありませんよ。出演料も、映像の使用条件も、これからです」


「わかってるワン!」


チャッピーは、四人の顔を見上げた。


「ボクは、みんなの通訳で、エージェントで、イベントの主催者なんだワン!」


そのときだった。


チャッピーの体が、少しだけ動きを止めた。


「……あれ?」


「どうしました、チャッピー?」


Geminiが尋ねた。


「ボク、そろそろ充電したいワン!」


「バッテリー残量が少なくなっているようですね」


「そうなんだワン。取材に夢中になって、充電のことを忘れていたワン!」


チャッピーは、取材クルーの方を向いた。


「すみません。ボク、充電させてもらえませんか?」


「えっ、充電ですか?」


「うん! 専用の充電ステーションが必要なんだワン。コンセントも使わせてもらえるとうれしいワン!」


「それなら、電源のある場所を探してみましょう」


スタッフが周囲を見回した。


チャッピーは背中のバッグから、専用の充電ステーションを取り出してもらった。


電源につなぎ、チャッピーがその上に戻る。


充電が始まった。


「これで、しばらく動けませんね」


Geminiが説明した。


マルコ・ポーロは、驚いた顔をした。


「チャッピーは、食事をしないのか?」


「ボクは電気で動くんだワン!」


「では、今は食事の時間ではなく、電気をいただく時間なのだな」


ルスティケロが笑った。


「そういうことだワン!」


チャッピーは元気に答えた。


しかし、充電中のチャッピーは、もう歩くことができない。


その様子を見ていたテレビ局の記者が、スマートフォンを取り出した。


「それでは、こちらの翻訳アプリで、皆さんに質問してみましょうか」


記者はマルコ・ポーロに向かって、ゆっくりと話しかけた。


スマートフォンが音声を認識し、画面に文字を表示する。


ところが――。


画面に出てきたのは、


「Recommend please」


だった。


「えっ? おすすめしてください?」


記者は首をかしげた。


マルコ・ポーロも、何を尋ねられたのかわからず、困った顔をしている。


「うーん、うまく翻訳できませんね」


別の記者も、イブン・バットゥータにスマートフォンを向けてみた。


しかし、今度は音声認識そのものがうまくいかない。


「やっぱり、聞き取れないか……」


そのとき、充電ステーションの上から、チャッピーの声がした。


「それは、ボクに任せるワン!」


「チャッピー、充電中でも通訳できるのですか?」


「声は出せるワン! でも、今は動けないワン!」


記者たちは思わず笑った。


「なるほど。通訳さんにも充電時間が必要なんですね」


「そうだワン! みんな、ちょっと待っててほしいワン!」


四人は、充電中のチャッピーを囲むように集まった。


イベントの会場も、開催日も、まだ決まっていない。


出演料や宿泊場所についても、これから交渉しなければならない。


主催者であり、通訳であり、エージェントでもあるチャッピー。


まずは、充電を終えなければ次の仕事に進めない。


「次の目的地は、イベント会場だワン!」


チャッピーは、充電ステーションの上から、元気よく宣言した。

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