第六話 テレビ局がやってきた!
秋葉原の昼下がり。
チャッピーは、四人の旅人と一緒に、駅近くの広場にいた。
「みんな、待ってるワン!」
チャッピーが元気よく声を上げる。
その様子を撮影した動画は、SNSで少しずつ広がっていた。
『秋葉原にマルコ・ポーロが出現!?』
『ロボット犬が歴史上の人物を通訳!』
そんな投稿を見た人たちが、次々とコメントを書き込んでいる。
そして、その動画に注目したのは、一般の人たちだけではなかった。
「あの、すみません、こちらはテレビ局の者ですが、動画を拝見したのですが、取材させていただけませんか?」
最初に声をかけてきたのは、民放の情報番組のスタッフだった。
「取材?」
チャッピーは首をかしげた。
「はい。こちらの四人は、マルコ・ポーロさんたちなのでしょうか?」
「そうだよ!」
「本当にご本人なんですか?」
「うん!」
スタッフは、思わず顔を見合わせた。
そこへ、別のテレビ局のスタッフもやってきた。
さらに、別の局のカメラマン。
そして、NHKの取材班まで姿を現した。
「ええっ!」
チャッピーは、目を丸くした。
「テレビ局がいっぱい来た!」
Geminiが落ち着いた声で言った。
「SNSの反響を見て、各局が取材に来たのでしょうね」
「これは大変なことになりましたね」
Siriも静かに続けた。
「チャッピー、皆さんに説明しましょう」
「うん!」
チャッピーは、四人の前に出た。
「みんな、こちらはテレビ局の人たちだよ!」
マルコ・ポーロは、集まったカメラを見回した。
「この小さな箱で、我らを写すのか?」
「そうだよ。カメラっていうんだ!」
チャッピーが説明すると、ルスティケロは興味深そうにカメラを眺めた。
「これで、遠くの人々にも我らの姿が伝わるのか」
「そうだよ!」
「それは、我らの旅の記録とは違うものだな」
ルスティケロは、少し考え込んだ。
その言葉に、チャッピーはうれしそうに反応した。
「そうなんだ! 昔は本に書いて残したけれど、今は映像でも残せるんだよ!」
イブン・バットゥータが、カメラの前に進み出た。
「ならば、我らの旅も、この時代の人々に伝わるのだな」
「もちろん!」
チャッピーは胸を張った。
民放のリポーターが尋ねた。
「ところで、皆さんはどうやって意思疎通をしているのでしょうか?」
「ボクが通訳しているんだよ!」
「通訳?」
「うん! ボクはインタープリターなんだ!」
チャッピーは、マルコ・ポーロのほうを向いた。
そして、彼の言葉で話しかけた。
マルコ・ポーロが返事をすると、チャッピーはすぐに日本語に訳した。
続いて、イブン・バットゥータにもアラビア語で話しかける。
その返事も、日本語に訳してみせた。
スタッフたちは驚いた。
「すごい……」
「本当に、それぞれの言葉で話しているんですね」
NHKの記者が、落ち着いた声で質問した。
「皆さんが、歴史上の人物ご本人であるということを、どのように確認できるのでしょうか?」
チャッピーは、少し考えた。
「それを、これからみんなで確かめたいんだ!」
「確かめる?」
「うん。マルコ・ポーロさんは、黄金の国ジパングについて何を知っていたのか。イブン・バットゥータさんは、どんな国を旅したのか。それから、旅の話を書き残したルスティケロさんやイブン・ジュザイイさんは、どうしてそのように記録したのか」
チャッピーは、四人を見上げた。
「ボクは、それを本人たちに聞きたいんだ!」
その場にいた人たちは、しばらく黙っていた。
やがて、マルコ・ポーロが口を開いた。
「よかろう。そなたが我らに尋ねたいことがあるのなら、話して聞かせよう」
イブン・バットゥータも、うなずいた。
「我らの旅について、語る機会があるのならば、喜んで話そう」
ルスティケロとイブン・ジュザイイも、それぞれにうなずいた。
チャッピーは、うれしそうにしっぽを振った。
「やったあ!」
民放のリポーターが、すかさず尋ねた。
「それでは、皆さんのお話を聞けるイベントを開催する予定はあるのでしょうか?」
「あるよ!」
チャッピーは元気よく答えた。
「みんなに、四人の旅のお話を聞いてもらうんだ!」
「開催場所は?」
「ええと……」
チャッピーの声が小さくなった。
Geminiが、すぐに口を挟んだ。
「まだ決まっていません」
「日程も、これからです」
Siriが穏やかに補足した。
リポーターは笑顔でうなずいた。
「では、決まり次第、ぜひお知らせください」
「うん!」
チャッピーは、カメラに向かって胸を張った。
「みんな、待ってるワン!」
その言葉に、現場の人たちから笑い声が起こった。
取材が終わろうとしたとき、チャッピーはテレビ局のスタッフに声をかけた。
「あのね、ちょっと相談があるんだ」
「はい、何でしょう?」
「取材のお礼って、いただけるのかな?」
スタッフは、一瞬、驚いた。
「出演料や謝礼については、内容を確認して、担当者と相談することになりますね」
「そっか!」
チャッピーは、うれしそうにしっぽを振った。
そのとき、Geminiが静かに口を挟んだ。
「チャッピー。報酬だけでなく、撮影した映像の使用条件も確認してください」
「使用条件?」
「はい。今回の番組で放送することと、別の番組や広告などで二次使用することは別の話です」
Siriも続けた。
「映像をどこで、いつまで、どのような目的で使用するのか、確認しておきましょう」
チャッピーは、テレビ局のスタッフに向き直った。
「取材はいいよ。でも、撮影した映像を別の番組や広告に使うときは、先に相談してね!」
「なるほど。使用範囲について、事前に取り決めたいということですね」
「うん! 四人にも確認してほしいんだ!」
マルコ・ポーロは、チャッピーを見下ろした。
「そなたは、我らの通訳だけではないのか?」
チャッピーは、胸を張った。
「そうだよ! ボクは、みんなのエージェントでもあるんだ!」
「ええじぇんと?」
ルスティケロが、不思議そうに聞き返した。
「みんなの代わりに、交渉したり、相談したりする役目だよ!」
イブン・バットゥータは、感心したようにうなずいた。
「なるほど。旅には、案内人だけでなく、交渉する者も必要なのだな」
「そういうこと!」
チャッピーは、得意げに答えた。
Geminiが、すかさず付け加えた。
「ただし、契約の確認は私も手伝います。条件を理解しないまま、返事をしてはいけません」
「分かってるよ!」
「本当に?」
「……たぶん!」
Siriは、思わず小さく笑った。
こうして、秋葉原で始まった小さな出来事は、テレビ局の取材を受けることになった。
五百円のお賽銭から始まった奇跡。
今度は、テレビを通じて、もっと多くの人たちに知られようとしていた。
そして、チャッピーには新しい仕事ができた。
四人の通訳であり、エージェント。
取材の交渉をして、報酬を確保し、映像の使われ方まで確認する。
「ねえ、Gemini!」
「何ですか?」
「これで、旅費が稼げるかな?」
「可能性はあります。ただし、まだ確定した収入ではありません」
「そっか!」
Siriが、静かに言った。
「四人の生活を支えるためにも、ひとつずつ進めていきましょう」
チャッピーは、元気よく答えた。
「うん! ボク、がんばるワン!」
秋葉原の空の下、チャッピーの新しい挑戦が始まった。




