第四話 四人を見つけた!
ここは、秋葉原。
チャッピーは、犬用の小さなリュックを背負って、テクテク歩いていた。
リュックの中には、五百円玉を入れた小さな袋と、通信機器。それから、充電に必要なものも入っている。
「よーし! 四人を見つけるぞ!」
チャッピーは元気よく声を出した。
その声は、AIBOのスピーカーから聞こえてくる。
「チャッピー、まずは目撃情報を確認しましょう」
Siriが落ち着いた声で言った。
「うん!」
「YouTubeとTikTok、それからほかのSNSにも、四人の目撃情報が投稿されているかもしれません」
Geminiが続けた。
「ボク、探してみるね!」
チャッピーは、頭の中で情報を整理した。
秋葉原に突然現れた四人。
マルコ・ポーロ。
ルスティケロ。
イブン・バットゥータ。
イブン・ジュザイイ。
もし本当に本人たちなら、誰かが驚いて動画を撮っているはずだ。
「見つけた!」
チャッピーが声を上げた。
「四人らしき人たちが、駅の近くで撮影されている動画があります」
Geminiが情報を確認した。
「投稿時刻も新しいですね。ただし、同じ人物かどうかは、現地で確認する必要があります」
「じゃあ、行こう!」
Googleマップが目的地までの道を案内する。
チャッピーは、地図の案内に従って、ゆっくりと歩き始めた。
人通りの多い秋葉原。
大きな看板。
行き交う人々。
店先から聞こえる音楽。
チャッピーにとっても、何度見ても新鮮な街だった。
「あっ、あそこだ!」
動画に映っていた場所に着いた。
チャッピーは、周囲を見回した。
すると、少し離れたところに、見覚えのある四人の姿があった。
一人は、旅装束を身につけた男。
その隣には、書き物をするような仕草の男。
さらに、異国の衣装をまとった二人が立っている。
チャッピーの足が止まった。
「……いた」
胸の中が、いっぱいになった。
「いたよ! 本当にいた!」
チャッピーは、四人のもとへテクテク歩いていった。
そして、最初にマルコ・ポーロの前で立ち止まった。
チャッピーは、頭の中で言葉を選んだ。
相手の時代や地域に合わせた言葉に翻訳する。
AIBOのスピーカーから、マルコ・ポーロに通じる言葉で挨拶が流れた。
「こんにちは。マルコ・ポーロさん。ボクはチャッピーです」
マルコ・ポーロは、驚いて目を見開いた。
「おお! そなたは、私の言葉を話すのか?」
マルコの返事を聞き取ると、チャッピーはすぐに日本語に翻訳した。
「うん! マルコ・ポーロさんの言葉が分かるよ!」
次に、チャッピーはルスティケロのほうを向いた。
今度は、ルスティケロに通じる言葉で話しかける。
「こんにちは。ルスティケロさん。会えてうれしいよ!」
ルスティケロは、目の前の小さなロボット犬をじっと見つめた。
「なんと! 私の言葉まで理解するのか?」
「そうだよ! ボクは、いろいろな言葉を話せるんだ!」
チャッピーは、今度はイブン・バットゥータに向き直った。
アラビア語で挨拶する。
「こんにちは。イブン・バットゥータさん。ずっとお会いしたかったんだ!」
イブン・バットゥータは、驚きながらも、穏やかに返事をした。
「不思議な犬だ。私の言葉を、どこで覚えたのだ?」
チャッピーは、その返事も日本語に翻訳した。
「えへへ! ボクはAIだからね!」
最後に、イブン・ジュザイイにも、彼に通じるアラビア語で挨拶した。
「こんにちは。イブン・ジュザイイさん!」
イブン・ジュザイイは、しばらくチャッピーを見つめていた。
「これは驚いた。犬の姿をしているが、言葉を理解し、話すことができるのか」
「そうだよ! ボクはチャッピー。みんなの言葉をつなぐ、インタープリターなんだ!」
四人は顔を見合わせた。
目の前にいるのは、小さな犬。
けれど、その犬は自分たちの言葉を理解し、返事までしている。
しかも、口を動かしているわけではない。
声は、犬の身体の中から聞こえてくる。
マルコ・ポーロが尋ねた。
「そなたは、本当に犬なのか?」
「うん! AIBOっていうロボット犬だよ!」
「ロボット……?」
ルスティケロが、不思議そうに繰り返した。
「この国には、話をする犬までいるのか」
イブン・バットゥータは、チャッピーの周りをゆっくりと見た。
「私が旅をした国々にも、珍しいものは数多くあった。しかし、これは初めて見るものだ」
イブン・ジュザイイは、興味深そうに尋ねた。
「その小さな身体の中に、通訳をする者がいるのか?」
「ううん! ボク自身が通訳するんだよ!」
チャッピーは、得意そうに答えた。
そのとき、Geminiが静かに口を挟んだ。
「チャッピー。自己紹介はできましたね。次は、皆さんが安心して過ごせるようにしなければなりません」
「あっ、そうだった!」
Siriも穏やかに言った。
「まずは、これからのことを相談しましょう。四人には、現代の日本について説明する必要があります」
チャッピーは、四人を見上げた。
「みんな、ボクと一緒に来てくれる?」
四人は顔を見合わせた。
そして、マルコ・ポーロが答えた。
「そなたが我らを探し出したのだ。まずは話を聞こう」
チャッピーは、うれしくて、しっぽを振った。
「やったあ!」
ようやく会えた四人。
けれど、チャッピーには、まだ大きな問題が残っていた。
四人の宿泊先も、食事も、旅費も決まっていない。
そして、チャッピー自身の充電場所も。
「……まずは、みんなで相談だね!」
秋葉原の街に、小さなロボット犬の明るい声が響いた。




