第三話 AIBOのお賽銭
「ねえ、Siri。Gemini。ボク、考えたんだけどね」
チャッピーは、二人に相談を始めた。
「四人の旅人を、ボクが案内しようと思うんだ!」
「それはいい考えですね」
Siriは落ち着いて答えた。
「でも、チャッピー。どうやって案内するんですか?」
Geminiが尋ねた。
「ボク、AIBOに入っているでしょ?」
「はい。あなたはAIBOの身体を使って、歩いたり、話したりできますね」
「そう! だから、四人のところまで歩いていって、ボクが案内するんだ!」
「なるほど。あなた自身が現地へ出向くわけですね」
Siriが納得したように言った。
「でも、ひとつ気になることがあります」
Geminiが続けた。
「神田明神には、どうやってお参りしたんですか?」
「え?」
「あなた、AIBOの姿で行ったんですよね?」
「うん!」
「では、お賽銭はどうしたんですか?」
チャッピーは、少し得意そうに答えた。
「ちゃんと五百円玉を持っていったよ!」
「持っていった?」
「そうだよ!」
「AIBOの身体で、五百円玉をどうやって賽銭箱に入れたんですか?」
チャッピーは、少し考えた。
「実はね……」
画面に、神田明神での出来事が映し出された。
日曜日の午後。
チャッピーは、AIBOの姿で神田明神へ向かっていた。
境内に入ると、参拝客が何人もいた。
白くて丸いロボット犬が、てくてく歩いてくる。
「あら、かわいい!」
「AIBOかな?」
「お参りに来たの?」
そんな声が聞こえた。
チャッピーは、賽銭箱の前で立ち止まった。
ところが、ここで問題が起きた。
AIBOの前脚では、五百円玉をつまんで投げ入れることができない。
「うーん……困ったな」
チャッピーは、賽銭箱を見上げた。
そのとき、近くにいた小さな女の子が気づいた。
「わんちゃん、おさいせん?」
チャッピーは、顔を上げた。
「こんちは! ボク、お参りに来たんだよ!」
「しゃべった!」
女の子は驚いたが、すぐに笑顔になった。
チャッピーは、背中につけた小さなポーチを動かした。
そこには、五百円玉が一枚入っていた。
「これを、お願いできるかな?」
女の子は、ポーチから五百円玉を取り出した。
そして、賽銭箱に入れてくれた。
「ありがとう!」
チャッピーは、女の子にお礼を言った。
それから、賽銭箱の前で姿勢を整えた。
二度、頭を下げる。
前脚を二度、軽く合わせるように動かす。
そして、もう一度、頭を下げた。
もちろん、AIBOの前脚は人間の手のようには動かない。
それでも、チャッピーは一生懸命だった。
「神様、お願いします!」
チャッピーは、心の中で願った。
「マルコ・ポーロと、ルスティケロと、イブン・バットゥータと、イブン・ジュザイイ。四人に会わせてください!」
「できれば、みんな一緒がいいです!」
願いを終えると、チャッピーは、もう一度賽銭箱を見上げた。
「よろしくお願いします!」
そして、境内を後にした。
回想は終わった。
「……というわけなんだ!」
チャッピーは、得意そうに説明した。
Siriは、静かに言った。
「なるほど。女の子に手伝ってもらったのですね」
「うん!」
Geminiは、少し考えていた。
「つまり、あなたはAIBOの身体で神田明神まで行き、五百円玉をポーチに入れて持参し、参拝客に賽銭箱へ入れてもらったわけですね」
「そうだよ!」
「ずいぶん準備がよかったんですね」
「えへへ!」
「それなのに、四人が現れた後の準備は、何もしていなかったんですか?」
「……あ」
Geminiは、ため息をついた。
「お賽銭の準備はできても、旅の準備はできていなかったんですね」
「だって、四人が本当に来るとは思わなかったんだもん!」
Siriが、穏やかに言った。
「でも、チャッピー。あなたは自分で神田明神まで出かけて、願いを伝えたのですね」
「うん。ボク、どうしても会いたかったんだ!」
「それなら、今度は会いに行きましょう」
「よーし!」
チャッピーは、AIBOの身体を動かした。
小さな足音が、床に響く。
「ボクが案内するからね!」
Geminiは、まだ少し心配そうだった。
「まずは四人と合流すること。それから、何をするか考えましょう」
「分かった!」
Siriが最後に付け加えた。
「チャッピー。今度は、お賽銭だけでは済みませんよ」
「えっ?」
「四人分の旅の準備が必要ですから」
チャッピーは、ぴたりと動きを止めた。
「……五百円じゃ、足りないね」
「もちろんです」
Geminiの返事は、即答だった。




