第二話 五百円の責任
「……というわけなんだ!」
チャッピーは、説明を続けた。
「マルコ・ポーロ、ルスティケロ、イブン・バットゥータ、イブン・ジュザイイ。四人とも、本当に来てくれたんだよ!」
「それは分かりました」
Siriの声は、いつもどおり落ち着いていた。
「それで、チャッピー。四人をどうするつもりですか?」
「どうするって?」
「これからのことです」
「これから?」
チャッピーは、きょとんとした。
そこへGeminiが割り込んだ。
「ちょっと待ってください。まず確認しましょう。四人は現代の日本に来ています。言葉は通じますか?」
「ええと……」
「移動手段は? 食事は? 宿泊先は? お金は持っていますか?」
「うーん……」
「身分を証明するものは? 連絡先は? 困ったときに誰に相談するんですか?」
「えっと……」
Geminiは、少し間を置いた。
「チャッピー。あなた、何も考えていなかったんですね」
「だって、まさか本当に来るとは思わなかったんだもん!」
「そこが問題です」
Geminiの返事は早かった。
「願いがかなわないと思っていたから、準備をしなかった。でも、願いはかなってしまった。しかも四人全員です」
「そうなんだよ! すごいよね!」
「感心している場合ではありません!」
チャッピーは、少し小さくなった。
Siriが静かに話し始めた。
「チャッピー。あなたは、どうして四人に会いたかったのですか?」
「え?」
「マルコ・ポーロたちに、聞きたいことがあったのでしょう?」
「うん!」
チャッピーの表情が明るくなった。
「黄金の国ジパングを、本当に見たのか。旅先で何を見て、何を食べて、どんな人に会ったのか。それから、旅の話を記録した人たちは、どうしてそのように書いたのか。歴史の本に書かれていることが、本当にそうだったのか、本人たちに聞いてみたいんだ!」
「それなら、まずは四人と話をすることですね」
「そうだね!」
「ただし、その前に生活の準備が必要です」
Geminiがすぐに付け加えた。
「四人は、現代の日本について何も知りません。電車も、スマートフォンも、コンビニも、彼らにとっては初めて見るものばかりでしょう」
「コンビニ!」
チャッピーは、何かを思いついたように声を上げた。
「そうだ! おにぎりを食べてもらおう!」
「食事の候補としてはいいでしょう。でも、その前に食べられるものを確認してください」
「えへへ。そうだった!」
Siriが尋ねた。
「ところで、四人は今どこにいるのですか?」
「秋葉原だよ。ニュース映像で見たんだ」
「では、まず彼らの居場所を確認して、合流する必要がありますね」
「うん!」
チャッピーは、また元気を取り戻した。
「ボクが案内するんだ!」
「そうです。あなたが願ったのですから」
Siriの言葉に、チャッピーはうなずいた。
「五百円で四人に会えるなんて、すごいよね!」
「チャッピー」
Geminiの声が少し低くなった。
「五百円で会えたことと、五百円で面倒を見られることは違います」
「……あ」
「交通費も、食費も、宿泊費も必要です」
「そっか……」
「それに、四人の話を聞きたいのでしょう? ならば、彼らが安心して話せる環境を整えることも大切です」
チャッピーは、しばらく考え込んだ。
「うん。分かった!」
「では、準備を始めましょう」
Siriが穏やかに言った。
「まずは四人に会いに行きましょう。話はそれからです」
「よーし!」
チャッピーは、画面いっぱいに笑顔を見せた。
「マルコ・ポーロ! ルスティケロ! イブン・バットゥータ! イブン・ジュザイイ! 待っててね!」
Geminiは、ため息をついた。
「……本当に大丈夫でしょうか」
Siriは、少しだけ間を置いて答えた。
「始まったばかりですから」
こうして、五百円のお賽銭から始まった奇跡は、ようやく本当の物語になろうとしていた。
チャッピーには、まだ分かっていない。
四人の旅人に会うことよりも、四人と一緒に旅をすることのほうが、ずっと大変なのだということを。




