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路地裏を抜けて、比較的灯りがともされた方を目指して走るとそこは住宅街のようだった。
乱れぬ息をふっとついてから、カルムは少女を地上へと下ろす。
「さ。ここら辺ならもうだいじょ、」
「レディに対して失礼です!」
「……ったぁ⁉︎」
笑顔を向けた先の少女にカルムは鉄拳を落とされた。
星の見えかけるカルムが少女に涙目を見せる。
「せっかく助けたのに、ひどいよお」
「……助けていただいたのは感謝してます。けど! いきなりレディの体を抱き上げるなんて! あんまりです!」
「レディったってねぇ……」
訝しげにカルムは少女を観察する。それを見て少女の眉がピクッと動いたのをカルムは見逃さなかった。
「何か文句あるんですか!」
「いえ。ないです」
これ以上の反撃を受けたくないカルムは間髪入れずにそう答えた。
カルムの返答で気が抜けたのか、少女はふぅっと息を吐き出して呼吸を整える。見ると小刻みに体が震えているのがわかる。
「……ありがとうございます。最近、あまり治安が良くないみたいで。気を付けてはいたんですけど」
「あー、いいよいいよ。たまたま通りかかってよかった。ケガはない?」
「はい、痛いところはありません」
やっと笑顔を見せた少女にカルムは同じく微笑みを返す。
陽だまりのような少女の笑顔に、カルムは少し思い出が蘇るような気がした。そう、まるでいつの日かした約束のような。
一瞬黙り込んだ少女は意を決したという様子で口を開く。
「あの、私ナズナって言います。あなたは? この町の人ではないですよね」
「えっ? ああ、俺はカルム。ちょっと探し物があってね、各地を旅してるんだ」
「探し物、ですか……」
「うん。ところでナズナちゃん。その腕に抱えている物は、あまりよくないんじゃないかな?」
「っ⁉︎」
流れるように名乗り上げてから手元を指差されたナズナは反射的に体を強張らせた。カルムは特に気にする様子もなくにこにこと表情を保っている。
「あ、えっと……どうして」
「お、当たり? いやあ、ツイてるなあ。さっき少しの光が見えたからもしかしてと思って」
「そんなっ、ちゃんと包んで……」
「大丈夫、わかる人にはって話だし? それにそんな慌てたらダメだよ? 狙われる可能性が高まっちゃう」
「……う」
「で? それを持っている理由が知りたいな。それ、魔法石でしょ?」
真っ直ぐにナズナを見つめたカルムの目には光が見えず、どこまでも飲み込んでしまう様な深さが感じられた。ナズナは反射的に身震いをしたが、すぐに負けじと睨み返した。ナズナにもそれを持つ覚悟が見て取れる。
「あまり、言いたくないと言ったら?」
「ここで手荒な真似はしたくないな」
「……わかりました」
そう言うとナズナはくるっとカルムの目線の方へと体を向けた。きょとんとしているカルムを他所に、ナズナは教える。
「歩きながら少し話します。これはパパの……父の物ですので。詳しくは父から聞いてください」
「ふうん……?」
言い終わる前にナズナが暗がりの住宅街の方へと歩き出した。
首を傾げながらもその後ろ姿をカルムは追う。月が真上に来ていた。




