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鉱山に囲まれたそこは採掘場がいくつも点在し、鉱員であろう屈強な者たちが顔を汚しつつも持ち場について汗を流している。トロッコに積まれた鉱石はどれも黒々とした煤にまみれているが、少しばかりの鉱石に光を放つものが含まれていた。地下にいる鉱員が掘り出した鉱石をトロッコに積み、地上にいる鉱員が不純物を取り除いてその少しばかりを分けていく。
こうした手作業での採掘は今じゃ珍しいが、それほど繊細に採掘しなければならない理由がここにはあった。
「雫型の魔法石だあ?」
「そう、それを探してるんだけど。出てきてないかな」
採掘場の近くに建つ酒場の店主はあまりにも不可解な質問に疑問を呈す。小さめのサングラスにじゃらついた耳の飾り、薄汚れたロングコートの男は思えば採掘場に似つかわしくない風貌の男。それもあって酒場の店主はまともに取り合う気もなくなっていた。
「おい、酒も飲まねぇ冷やかしなら帰ってくれ」
「あー! 待って待って! 注文する!」
追い出されそうになって男は慌ててメニューボードを見ると、あまりの金額の高さにすこし顔が強張る。その様子に店主は気が付くも睨みを利かせたまま。
「これはまあ、何というかすごいね……」
「なんだお前。頼むのか、頼まねぇのか!」
「頼みます! この、一番下の!」
そう言うとメニューボードにある一番安いドリンクを注文した。店主は何か言いたげだったが、とりあえずカウンターから離れ棚にある瓶とグラスを男の前にドンと置いた。
男はそれを苦笑いで受け取り、そそくさとカウンター近くのテーブル席へと移った。
「おい、兄ちゃん」
「んあ?」
「アンタ、魔法石探してんのか」
声をかけてきたのは鉱員だろうか。煤で汚れた作業着に頭にはタオルを巻いている。
こくりと男が頷くと、何食わぬ顔でその鉱員は同席してにまにまと笑う。
魔法石はこの採掘場屈指の鉱物であった。ほかの採掘場では滅多に目にかかることもできない、魔力が宿った石。その魔法石が、この採掘場では数多く採れると国内外から注目を集めていた。
「魔法石を探してるなら残念。ここじゃみつかんねぇな」
「どうしてさ?」
「魔法石がな、採れないんだよ」
しゃがれた声でひっそり耳打ちすると、それを聞いた男は目を丸くして大声を出しそうになる口をぱっと押さえた。声を低めてひっそり問いかける。
「採れないって、どういうこと?」
「理由はわからねぇ。しばらく前からぱったりだ。知ってるか? 東の方で良くない雲が渦巻いてたって話。その噂が立ってからだ、魔法石が採れなくなってきたのは」
「ふむ……。災いの雲、か?」
「同じ時期にあの“巡回型サーカス団”が港町の方に来たんだが、俺ァそいつらの影響もあると踏んでんだ」
しゃがれ声の鉱員は得意げに男に語る。
男は手を顎に当てたまま何かを考えるように首をかしげる。
「巡回型……って、最近人気の催しだよね。なぜ魔法石が採れないことと関係してると?」
「あのサーカス団にはな……天使がいるんだ」
「天使!」
突拍子もない単語に男は思わず声を上げた。
ちらりとカウンターの方に目をやると、店主が声を上げたことに対しての睨みを利かせている。男は手を縦に切り申し訳なさそうな顔を店主に向けると、すぐにしゃがれ声の鉱員に向き直った。
「……天使って、羽根の生えた天界に住まうっていう? どういうこと?」
「そうだ。……おっと、ここからは別料金だぜ兄ちゃん。情報ってのはな、高いんだ」
そう言うとしゃがれ声の鉱員はちょいちょいと手招きをする。どうやらいくらか要求しているようだ。
男は数秒考えた後、ぽんと手を打ってにこりと笑う。
「いや、いいや! そういうのは自分の目で確かめたい主義なんでね。その酒は話の礼にやるよ。飲んでってくれ!」
「あ、おい兄ちゃん! 待てよ、名前は!」
思いついた途端、即座に自分の荷物をまとめて男は席を立つ。その様子にしゃがれ声の鉱員も慌てて名前を聞いた。
すでに外へ飛び出そうとしていた男はくるっと向き直り、先ほどまでしていなかった仮面を付けた姿で小さくつぶやいた。
「カルム。でもきっとすぐ忘れるよ」




