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ここは森の奥の奥の小さな家である。
小さな家の小さなの部屋の隅っこで、和真の一見華奢だが、きちんと男の子な腕に挟まれている。
美由利が体育座りをした状態で壁ドンをされている。
先程の和真から離れようとする発言が堪えたのか、普段はピッシリとセットしてある黒髪がハラリと落ちた。少し震えている。
頬には美しく静かに涙がツーッと伝うのであった。
♢♢
その頃…。
『王城』では……。
♢♢
ある国の特産の赤い絨毯の上に猫足の赤いソファー。
そこで足を組みふんぞり返り上機嫌で鼻歌まじりに赤ワインを飲んでいるのは、この国。サルベニア王国の第一王子マントルだ。
ここ数年間、そう。学園に入学した辺りから、とても満足のいく日々を送っている。うまい具合に全部思い通りに事が進んでいくのだ。何も考えなくとも。どんなにサボっていようとも。それが事実であろうとなかろうとも。全てがまるで自分と聖女アンヌを中心に動いているかのように。
マントルは、そっと手で頬を触った。
少し前学園のダンスパーティーで突然頬が赤く腫れ上がったのだが、ようやく治った。あれは何だったのだ?実は涙が出る位痛かった。
今まではこのようなものは直ぐにラーナが治してくれたのだが、今回は何故だか治してくれなかった。
まあ、そんな些末なことどうでもいい。あのいまいましい悪女アイシャを断罪追放、婚約破棄し晴れて聖女と婚約したのだから。
サルベニア王国の由緒ある公爵令嬢、いけすかない女。アイシャとようやく婚約破棄をし、愛らしくこの国の唯一の聖女と婚約出来たのだ。
いつもすました表情の、まるで自分が優位であるかのような見下した冷たい表情の女。血筋だけがいい女。
あの女の表情が嫌いだった。
あの、人を見下した表情。……。以前は周りにいる者のほとんどが自分に向けていた表情でもあったのだが。
♢♢♢
この国の正妃には子が出来なかった。
…が、2人の側妃それぞれに子が出来た。それが第一王子マントルと第二王子アリストだ。
何をやらせても奴、一つ年下の第二王子のが上だった。平然と淡々とすかしたあいつが嫌いだ。
第二王子の側妃は帝国の王女だ。第二王子の母親が格上の事もあり、周りは影で散々マントルを軽視し冷笑したのだ。
が、どうだろうこの頃は。
今まで通り好きなことを好きなようにし振る舞っていても、全てが面白いくらいに上手くいったのだ。
少し前のダンスパーティーでも、俺の華麗なダンス。
アリストに唯一勝てるダンスをこれ見よがしに見せつけてやった。
あいつ、ダンスでは勝てないからって茫然としていたな。その後悪女の断罪追放。非常にスカッとした1日だった。
♢
俺には、学園の勉強のような無意味なものよりも、物の価値を見極める目があるのだ。見てくれや血筋が良いだけの物よりも、その物の本来の価値を見出だして、それらの物に囲まれて暮らすのだ。
平民出身の聖女も、また然り。
グラスを高らかにに上げ、クルクルと回す。
このワインも絨毯も装いも全てがとある国の物だ。この辺りには決してない俺が価値を見出だしたものだ。
数日後に大国の王族が来る予定だ。丁度良い。俺が先見の明で見出だした品物を披露するのにおあつらえ向きの日ではないか?
いくら第二王子の母親の出自の大国とて、あんな面白味のない男よりも物の価値を理解している社交的な俺のがいいに決まっている。これがきっかけで大国とより親しくなるはずだ。
グイッと一気にワインを飲み干し、急に立ち上がり笑い出すのであった。
♢♢
その頃、聖女ラーナは……。
がたいの良い騎士の男と熱い眼差しを交わし情熱的なひとときを過ごしているとも知らずに。
♢♢
聖女ラーナ。
サルベニア王国からおよそ100年振りに聖女が誕生した。それが、ラーナである。
ラーナは孤児院で暮らしていた。
…ある日平民ではあるが裕福な商人家族に引き取られる。
商人夫婦の実の子供の長女と同じ位の愛情を注がれ育った。
いや…。いつしか長女以上に可愛がられていた。それはとても異常なくらいに…。
ある日の事。聖女の力が目覚めてからはそれがさらに顕著なものとなっていく。
「お姉様ばかりいつもズルい。」「お姉様が譲ってくれない…。」「お姉様のいいな。」
「お嬢様のものは全てワ・タ・シ・ノ・モ・ノ♡」
「姉なのだから、妹に譲りなさい。」「それでも姉なのか?」「ラーナはかわいいな。それに比べてお前は…。」
「ラーナにあげなさい。お前のもの全てを。」
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いつしか我が子を毎日罵倒し、ラーナに深く泥沼のように心酔していく。
♢♢
聖女になり学園に入学してからは、更にそれらが加速していった。
入学する前に『荒ぶるドラゴン』を封印したのも大きかった。学園中…いや…、この国中の全ての者が『聖女』の思い通りに出来た。
皆、聖女をちやほやしてくれた。特に男たちの中には恋慕を抱くものも多かった。
ウフフフフ。他人のものは私のもの。私のものは私のものよ。特に美しい男はね。
ついには、この国の第一王子の婚約者の座までのぼりつめた。行く末は王妃となるのだ。
この国の富も名声も…。男たちも、全て私のもの。
打ちひしがれたときの他人の顔は、甘い蜜のようで私を高揚させる。すかした顔の義妹もしかり、王子の元婚約者もしかり。
分相応なものを、求めた憐れな女たちの末路。
私が全部もらってあげる。
♢
〈薄暗い部屋のベッドにて〉
ギシギシとベッドが軋む音がする。
「いいわ~!」なまめかしい声で。、
今日の相手の逞しい身体の騎士と一緒にはてた。
♢
今までは、そうあの男。
王子の元婚約者の執事以外は、皆私に夢中になったのだが、あの執事はどんなに私が目を掛けてやっても一切こちらに見向きしなかった。まぁ、それが物珍しく何度かこちらかわざわざ誘ってやったのだけど、冷たい眼差しを向けてくるだけだった。
執事ごとき、私のような特別な存在には合わないから良いのだけれどね。
♢♢
最近は一時のような熱烈な…、誰彼もがラーナに求愛することはなくなった。
特に王族や王族に準じる貴族からは熱烈なものはなくなった。
まぁ…。それも仕方ない事だとは思う。将来の王妃においそれと声をかけずらくなったのだろう。こちらも面倒に巻き込まれるのはごめんだわ。
しかし、私の元へ来るのを遠慮している男とその身の程知らずの女達の幸せそうな表情を見るのはものすごく気に食わないけど。
しかし…。丁度良い頃合いね。
近々大国の王族がこの国へと来る予定だ。
出会えば、今まで同様。男は皆私を望む。
大国の王族と出会えばそのまま王妃に迎え入れられる筈…。
少し見目が良いだけの執事よりも大国の王族の方が私と釣り合いが取れるわ!あの女にだけ優しい奴なんて、こっちからお断りだわ!
今までの愚かな行い、あの女を優先した愚かな行いを後悔し、謝罪するならば、私の夫になるのは無理でも、あの執事を…。私に屈服させ跪かせ、そうして男娼にならば、してやらなくもないけれど。ウフフフフ。
聖女とは程遠い歪んだ表情で笑うのであった。
♢♢
聖女にとんでもない妄想をされている執事カズマは…。
♢♢♢♢♢♢
未だしゃがみこみ壁ドンをした状態で僅かに震えながら涙を流していたのであった。
(ヒィィッ。男の子がこんなに泣くのを初めてみたよぉ、しかもそれは、私の発言のせいで泣かせてしまった訳で…。)
だけど、私は私が好きな人の幸せを遮りたくないよ。
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