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由緒あるヘルズマン公爵家の美しい娘、アイシャ。
ヘルズマン家は、昔から『物語』が始まると今までの生活はまるでなかったかのようになり、突然『悪役』に仕立て上げられるという事みたい。
で、物語の『区切り』がついて元の生活……。
元の婚約者と結婚???するってこと?
(一難去ってまた一難かな。)
そっと制約印を指でなぞった。その様子を隅々まで公爵は見ている。そしてフッと笑いながら「転移者を守る意味でもね。一族内で代々婚姻を結んでいた。」
私の喉がゴクリとなった。
「勿論、例外はあるよ。」
「ふふっそんなに神妙な面持ちにならなくても大丈夫よぉ~っ!愛し合う2人の邪魔はしなくってよ。カズマ君たらっそんな殺気だたなくても大丈夫♡あ・な・た・そんな風に言ったら勘違いしてしまうわよ。」
公爵の鼻をツンツンとした後、そんなに野暮じゃないわと、侯爵夫人は言うとバチンとウインクをした。
いつの間にか和真君に後ろからピタリと抱き締められていた私は顔から火が出てしまうくらいに真っ赤になり抹茶ラテを一口すする。
和真君はまだ私を抱きしめたままだ。眼鏡がキラリと反射した。
「2人は恋人でしょう?歴代のチュウジョウ家の子達も他の者と一緒にこちらに来る事もあったらしいしね。」
「恋人であったり、時には人でなく飼い犬だったりね。」
クスリと笑い「連れて来られる者は人は限らないみたいね。だけども皆、チュウジョウ家の子を思っているものばかりだったようよ。」
公爵夫人は分厚い本を指でトントンとして和真ににこりと微笑んだ。
和真君は私からススーッと綺麗な所作で離れて眼鏡をクイッと上にあげた。
公爵も子息もそれら一連の動きを生暖かい眼差しで見つめている。
「カズマ君も感じているように『連れてこられた者』は皆莫大な力を得てこちらに来ている。…」
突然この世界に転移し訳のわからぬまま酷い仕打ちをされ続ける。チュウジョウ家の子達は何かしらの才を持っており困難を乗り越えるのだが、『連れて来られた者』は、そんなチュウジョウ家の子達をあらゆる場面で救出する。
「今まで、2人で頑張ってくれてありがとう。」
「私達は血よりもずっと濃い関係で結ばれているのよ。今後は、何に対しても必ず力になりたいの。」
帰り際に夫人はギュッと美由利を抱き締め額にチュチュッと何度かキスをした。コホンコホンと後ろにいた伯爵は咳払いをし「奔放すぎてすまないね。」と言った。
侯爵夫人らしからぬ振る舞いは私達の世界の考え方などが混じっている影響もあるのかな?
美由利は人懐っこい笑顔でにこにこと微笑んだ。実の母といる時のように心が安らぐのを感じるのだ。
この地域で購入すると味噌や醤油などは大変高価なのだが、そのような食材を沢山持ってきてくれた。ヘルズマン家の歴史が記された分厚い本もくれた。「美由利さんは本を読んだり勉強熱心だよね。この世界で今後の生きる為のヒントになるかもしれない。」と。
実際は興味のある分野だけは寝るのも忘れて本をむさぼり読むだけなのだが。この本には大変興味があるため、ありがたく受け取った。
別れを惜しむように暫く目を潤ませた夫人に手を握られていたが、サクリと侯爵と和真に剥がされた。
公爵達は馬車に。美由利は家の中に戻り、玄関には長男のネリスと和真の2人が佇む。
ネリスは公爵子息らしく上質な衣装を身に纏っている。胸元にはヘルズマン一家を象徴するかのようなサファイアのチェーンブローチ。冷たくも品のある雰囲気をまとっているのだが、それとは反対に気さくに和真に話し掛けた。
「私は、元々は第二王子殿下の側近をしていたのだけれどね。何の脈絡もなく外国に留学することになり外国にいたのだよ。やっと物語の『区切り』がきてね、こちらに戻ってこれたのさ。」クスリと笑う。
「私の愛しく美しい妹。そして、我ら一族と深く魂の繋がりのある美由利さん。
そんな大切な2人に酷い仕打ちをした奴らをとことん復讐をしたい位には疎ましく思っているのだけれど…。」
「物語の制限がなくなった今…。第一王子殿下と聖女はどうなっていくのだろうね。怠惰で横暴な2人は…。私が復讐する前に、勝手に墓穴を掘って自滅していきそうだとは思わないかい。」
先ほどまでとは打って変わり、さながら悪役令息と呼ぶに等しい冷たく暗い表情だ。背景にはとぐろを巻いた蛇が見えた気がした。
和真の目の前のスクリーンにはネリスのステータスが表示される。
知力 A+ 魔力 A+ 体力 A+………
ほとんどの項目でA+ランク。どれを取っても非常に高いランクだ。
ざっと目を通していくと──。
(んっ?)
シスコン SS 腹黒 SSと表示されている。ギョッとしたがひどく納得をし、この目の前にいる物語の中の王子のような風貌の青年を眼鏡越しに少しの憐れみの目で見つめた。
(A+でもかなり上のランクなのに、そのまた上のSの、また上のSSランクだ。彼は、──非常にシスコン。……。
愛しい妹が自分が外国にいる間に王子達から酷い仕打ちをされ悲しみの中、別世界に転移してしまった。超シスコンの兄としては身を切るような至極つらい出来事であろう。それなのに、淡々と俺と話して…。見た目は辛さの微塵も感じない。これはヘルズマン一族の運命でもあるからだろうか。この高貴で有能な人は、非常に美しいがとても気の毒な人だ。)
兄と妹だからか?自らの傍らにおき愛でなくとも、遠く離れていても幸せであるならば良いのだろうか。
確かに中条家ならば、とても温かい家庭で幸せに過ごせれるだろうね。
広く深い愛?
俺のは、狭くて深い。
(愛する人と離れ離れになる。そんなの絶対に堪えれられない。だから俺は、どんな手を使ってでも愛する人を手放したりはしない。)
「アイシャはチュウジョウ家の子として幸せに暮らしているのだろうね。」
「美由利さんにもこれからは幸せな暮らしを送ってもらいたいのだよ。」甘美な笑みを浮かべ首を傾げると金色の髪が肩に触れる。
和真の肩をポンポンと軽く叩き「また来るよ。」
と言った。
「お待ちしております。」
丁寧にお辞儀をして、豪華な馬車が見えなくなるまで見送った。
(超シスコン。腹黒で有能な公爵子息が、第2王子の側近に戻った。…ということは。…。彼はきっと奴らを綺麗に処分するのだろうね。)
とうに見えなくなった馬車の方を見つめ続ける。サァーッと風が吹き頬を撫でた。
♢♢
〈和真がネリスと話している頃〉
美由利は自分の部屋の片隅で小さく体育座りをし悶々と考えていた。
(えっと…。と言うことは…つまりこう言うことだよね。私の…。中条家の事情に和真君を巻き込んでしまったのだよね。私のせいでこっちの世界に引き込んで和真君にはとてもとても苦労させてしまった。)グルグルと考えが頭の中をまわり、ブツブツと言いながら無意識に床に『の』の字を書き続ける。
向こうの世界では生徒会長で、勉強もすごく出来て何事にも一生懸命だった和真君が私の魂の都合?でこちらに一緒に飛ばしてしまった。
私が、家族からも友達からも全てから引き離してしまった。
その上…。私には制約印がある。この家から半径5メートル以上は出ることが出来ない。
私のせいで私の都合でこの先も振り回していいの??イヤ…。ダメでしょ。
未来ある優秀な(そして格好よくて色気があって優しい色気がムンムンの)若者を縛り付けてはダメでしょ?
私に縛られることはないのだ。こんなの私だけで充分だよ。
俯きながらブツブツと呟いていると、いつの間にか目の前に和真がこちらと同じ目線でしゃがんでいた。
ジーッとこちらを穴があくほど見つめている。涼やかな瞳の奥に熱いものが見える。
「あっ!」ビクリとなる。
「ごめんね?ノックはしたんだよ。」
あっ、あー。
全部聞いちゃった。
懇願するように「俺から離れようとしないで。」
そう言うとジリジリと距離が近づき美由利を閉じ込めるように、両手を壁についたのであった。
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