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和真は玄関前の光景を見て、思わず固まる。
家の周辺に張り巡らされていた魔方陣が感知して、誰が来たかはわかっていたが、思いがけない行動をしていた為、驚いて固まってしまったのであった。
♢
玄関前にはヘルズマン公爵一家。
アイシャの両親と兄がいた。
そして、3人とも土下座をしていたのであった。
森の中の自然溢れる小さな家の前で、煌びやかな装いの公爵家の人々が綺麗に土下座をしているのだ。
和真が固まっていると後ろから「どうしたの?」と、ヒョイと肩越しに、その光景を見た途端、ヒョエとなり慌てて「な、何してるんですか?」と言いながら3人の傍に駆けつけた。
「お父様、お母様、お兄様?どうしたのですか。お立ち下さい。」
和真の方を見たが、わからないという風に首を横に振っている。
3人ともアイシャと同じ綺麗な金髪だ。
皆、深々と土下座をし、申し訳ないという表情が見て取れた。
ヘルズマン公爵が、顔を上げじっと美百合を見つめた。
「今まで、大変な思いをさせてしまい本当にすまなかった。」
「娘の…、アイシャの代わりに嫌な思いをさせてしまったね。」
(……!!!)
♢
取り敢えず3人には、家の中に入ってもらうことにした。
和真がアップルパイと紅茶を出す。
素朴な木の4人掛けのテーブルセットに、対面でヘルズマン公爵。母のサーシャ・ヘルズマン。
美百合の隣に長男のネリス・ヘルズマンが着席し、和真が給仕をする。
4人とも美しいプラチナブロンドに青い瞳、一見すると冷たい印象だ。美しく高貴だが、THE・悪役一家そのものである。
……が、表情は違った。乙女ゲームの補正が発動している時とは違いとても穏やかな表情だ。
まるで本当の美百合の両親のような暖かい眼差しを感じるのであった。
「キャッこれはわが家のアップルパイだわ。フフッここでも食べれるなんて嬉しいわ。」
公爵夫人が、嬉しそうに言った。
公爵がチラリと夫人を見た。
「あっ。やだ、ごめんなさい。嬉しくて……つい。」
コツンと頭を軽く叩き下をペロリと出した。
その仕草は高貴な公爵夫人の振る舞いではなかった。
公爵夫人は美百合の抹茶ラテを見ると更に会話を続けた、「あらあらあら!それは抹茶よね。アップルパイに抹茶は我が家では定番よね。フフフッ。」
夫人はニコニコと笑った。つられて美百合もにこりと笑う。
コホンコホンッ公爵が咳払いをした。
「母上、話したいお気持ちはわかりますが、今日はその前に、この方達に謝罪をしに来たのですから。」
そうよね、ごめんなさい、というとまたにこりと愛おしそうに美百合に微笑んだ。
美百合はつい尋ねる「あ、あの…。何故玄関の前で土下座をしていたのでしょうか?」
公爵が、またコホンと咳払いをし「本当にすまなかった。私達の気持ちを表したかったのだよ。」
「あれは、『ドゲザ』といって『ニホン』式の謝罪スタイルなのだろう?」
思いもよらない単語を耳にし、和真と美百合の黒色と青色の瞳が真ん丸になり、2人は顔を見合わせた。
「君は、チュウジョウ家の子供だね?」
美百合は目を真ん丸にさせたままコクンと頷く。
「そして、チュウジョウ ユキコさんは君の曾祖母だ。」
美百合の青い瞳は揺れていたが、それでもじっと公爵を見つめる。
「君の曾祖母は、実はヘルズマン家の者なのだよ。
そう、姿は確かに君の曾祖母たが、中身は……。魂は私の祖母ターニャ・ヘルズマンなのだよ。」
「あっ……えっ?」
「あぁ……。」
美百合は衝撃の告白に一瞬驚いたが、胸のつっかえが取れたかのように今までの疑問が腑に落ちた。
公爵は頷き優しく微笑んだ。
♢
中条 百貴子は、私の曾祖母である。
ひいおばあちゃんは、美百合が小学校6年生の時に亡くなった。
確か、友達とカラオケに行ってそこで亡くなったのだ。
それを象徴するかのように、毎日楽しく過ごしていたひいおばあちゃん。
同世代の人に比べると、非常にハイカラな人だった。そのひいおばあちゃんが、よく作ってくれたのがアップルパイであった。
「ひいおばあちゃんのアップルパイ…。」
美百合がボソリと呟く。
公爵もそれに続けた。
「ヘルズマン公爵家直伝のアップルパイだよ。」
「何故だかわからない、いつからかもわからない。……恐らくずっと昔からであろう。
ヘルズマン家の者の魂とチュウジョウ家の魂が似ている、すなわち入れ替わりやすいのだろう。」
「我々の娘アイシャもチュウジョウ家の子と入れ替わってしまったのだ。」
美百合は目を見張った。
しかし、そうなんだろうと納得もした。姿形は全く違うのだけれど、感覚的にとても馴染んでいる気もするのだ。
パチンと公爵が指を鳴らすと何処からともなく分厚い本が現れた。
「ヘルズマン家の歴史が納められている本だよ。」
「これによると、アイシャの場合も精神的に壊れ掛けている状態の時に、何かの衝撃で魂が入れ替わってしまった事になる。そして、貴方も貴方の住んでいた所で何らかの衝撃が偶然同時にあったと考えられるのだ。」
(……。私はトラックにひかれていた。魂が入れ替わった直後アイシャさんはトラックにひかれてはいないのだろうか?)
問うように公爵の青い瞳を見た。
「恐らくとしか言えないが、無事であろう。歴代の転移者達は転移に成功しているようだ。」
美百合は、ほっと胸を撫で下ろした。ずっと、気になっていた。
公爵はじっと美百合を見つめた。
「今更で非常に申し訳ないが、貴方達の名前を伺ってもいいだろうか?」
「私の名前は中条 美百合です。」
「素敵な名だね。」
にこりと微笑み「貴方は?」「中黒和真です。」人差し指で眼鏡をクイッとしペコリと頭を下げる。
「改めて、美由利さん。和真君。今まで辛い思いをさせて申し訳ない。」
三人とも深々頭を下げた。
「我がヘルズマン家では度々このような現象になるのだ。何の前触れもなくまるでそこが舞台のワンシーンになってしまったかのようになり、そして我々一族は決まって悪役になるのだ。」
「時には語り部の物語、時には舞台の物語。お婆様の時は小説の物語だった。」
私は和真君と目を合わせた。「乙女ゲームと思ってました。」
公爵は首を傾げる。「乙女ゲーム?初めて聞くものだな。」分厚い本にも新たに記載された。『乙女ゲーム』と。
なんだか少し笑えた。
公爵はコホンと咳払いをし、「一通り出来事が起き物語の『区切り』を終えると今まで訳のわからなかったことやどうしようもなかった事が不思議となくなりまた以前のような普通の暮らしに戻れるのだよ。」
「遅くなったのだが、私たちもようやく自分達の意思で動けるようになり君達の元へ来れることが出来たのだ。」
そう言うと、今まで穏やかな表情だった公爵がコホンと咳払いをし先ほどまでとは変わり少し堅く真剣な表情で「このような数奇な役割のある我がヘルズマン家は代々一族同士で結婚をしているのだよ。」
和真の眉がピクリと動いた。
「えっと……それはどういう…」
「そう、元々王族などと婚約などしてなかったのだ。だが、ある時、事実が大きくねじ曲げられアイシャは王子の婚約者となっていた。一通り事が終え『区切り』がつき元通りとなった。」
「アイシャは従兄弟のロベルトと結婚する事となっていたのだ。全てが元通りとなった今、婚約者も元通りとなる。」
一通り話しをすると、公爵はジーっとこちらを見ると美由利の心臓がドクンとした。
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