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第一話 アルタイル・至宝の在処を求めて④

 それから数分間、雪の山道を走り続けた車はようやく研究施設『アルタイル』に到着する。

 外観はまるで病院のようで、壁一面の窓からいくつもの研究室があることが窺える。施設内部にある駐車場に車を停めるとパーシスさんは「うーん」と背筋を伸ばした。


「さてさて、到着したわよ。ようこそ、わたしたちの研究所『アルタイル』へ。さっそくだけど案内したい場所があるから、後ろで寝ているフィリアちゃんを起こしてあげて」

「ええ、そうですね。――おいフィリア、もう起きろ。着いたぞ」


 そう言いながらフィリアの肩をゆする。


「……う、ううん……。ここはどこ、わたしはだぁれ?」

「ここは研究施設『アルタイル』だ。あんたはフィリア。有名な巨大鏡職人だよ」

「鏡って、まだそれ引っ張る?」

「……ごめん。もしかして怒ってる?」

「これはアーネスト専用『手鏡』だから」

「懲りねえなぁ、あんた」


 そうして寝惚けているフィリアを覚醒させ、車から降りた俺たちはパーシスさんに連れられて研究所に入ることになる。

 真っ白な廊下をただひたすら進んでいき、時折すれ違う研究員に頭を下げた。


「それで、俺は今からどこに連れていかれるんだ?」

「それは到着してからのお楽しみよ」


 そんな感じで軽く流されていると、カラカラと車輪のころがる音が耳に入る。

 音の方を見てみると、台車に乗せられシートで隠された『何か』を研究員であろう白衣の人間が運んでいたのだ。

 シートの隙間からは赤黒い何かがはみ出していた。

 それが走ってきた方向は今まさに俺たちが向かっている方向だ。


「なあ、パーシスさん。俺は今凄まじく嫌な予感を持ってしまったんだけれど。あれはなんですか」

「だから到着してからのお楽しみよ。マーベルくんなら大丈夫。あなたならああはならないはずよ」

「激しく嫌な予感。大丈夫って、俺に何をさせる気だよ」


 そのままパーシスさんについていくと、今度は目の前に研究所にはそぐわない鋼鉄の巨大な扉が現れたのだ。


「……なんだよ、この大きな扉は」

「ここがお楽しみの場所。さあさあ入って」

「お、おう」


 扉は何重もの鍵がかけられていて、金庫を思い起こす。

 開かれた扉の中へパーシスさんに背中を押されて強制的に入らされる。

 真っ暗な部屋で何も見えない。広さも全く把握できないが、足音の反響さ加減から少なくとも小部屋というわけではないのだろう。


「それじゃあマーベルくん。ほんの数分だけ待っててちょうだい。今から準備してくるから。あとフィリアちゃんは借りていくわね」


 そして俺の返答も待たずに唯一の光が入る大扉が閉められた。

 数分立ちっぱなしのまま待っているとチカチカと白い光が灯されて、部屋全体が白一色に染め上げられる。

 予想通りそこに広がるのは数十メートル四方の白い部屋。目の前の壁には人の力ではびくともしなさそうな鋼鉄の檻。左上の壁にあったガラス窓からはパーシスさんを含んだ数人が俺を見下ろしている。


『聞こえる、マーベルくん?』

「ええ、しっかり聞こえてますよ。俺の声は聞こえてるのですか?」

『ばっちり聞こえてるわよ。それじゃあマーベルくん。さっそくだけれどわたしたちの用意したテストを受けてもらいます』

「だからさ、テストって何ですか?」

『それはこれからのお楽しみよ。さあ、目の前の扉をごらんなさい。その奥にいるのはわたしの最高傑作よ』


 するとごごごと重い音を鳴らしながら巨大な扉が開かれる。

 そして暗闇の奥から不気味に光る朱い双眸。ズシンと重量感のある脚音、そしてガシャガシャとした機械音を伴いながら、それはやってきた。


『我が研究所の誇る最新鋭の人形兵器、ライアット・ドラグネスよ。さあ、見せてみなさいマーベルくん。あなたの魔術師としての力を。このわたしが採点してあげるわ!』


 そこに存在していたのは全長数十メートルはあろう巨体。

 およそ日常、いいや魔術の世界でもまず目にかかれないほど異形の有翼の機械獣。


「――、へ?」


 それはまさに伝承に聞く竜の再現だった。



          ◇



「あー、疲れた。無駄に余計な魔力を使ってしまった……」


 いやいや、あれはない。ないだろ普通さ。しかも形は違えども五体連続だなんて正気を疑うよ。

 刀もスヴェンさんの所に預けたままだったし結局は水属性の力のみで戦ってしまった。


『あーもう。何なんだよ、いったいこれは。パーシスさん、一つだけ言わせてもらう。事情も知らせずにこんなやつの前に立たせたんだ。これに拒否権はないからな。あの機械獣とやら、修復不可能なほどに破壊し尽くしてやるよ!』


 と、いきまいて倒したはいいけれど、パーシスさんはなんで俺じゃなく機械魔獣の心配をしに行くんだよ。

 科学者気質ってのはあるんだろうけれど、まずは俺を心配しろよな。

 再度大きなため息を吐く俺だった。

 そんな俺に声を掛ける人が一人。


「お疲れ様、アーネスト」


 言って、隣に座るフィリアは冷たい缶コーヒーを差し出してくる。


「ああフィリアか。わざわざありがとう。頂くよ」


 蓋を開けてごくっと一口飲む。

 その冷えたコーヒーは火照った身体を瞬時に駆け巡る。


「ていうかさ、あれはないだろ。予告なしであんな機械獣を差し向けてくるなんて滅茶苦茶だ。下手したら死んでたぞ」


 たぶんだけど、ここにきてすぐに見てしまった台車に乗せられシートで隠された『何か』はここでやられてしまった魔術師なのかもしれない。そう思うと、この研究所のやっていることが途端に恐ろしくなってしまう。

 まあ、魔術師にも少なからずそういうことをしている奴らがいるから、ここが限定的にダメってわけじゃないのだけれど。

 そういうところは同じ魔術師として目を背けたくなるような事実だ。


「はは、それでもやっつけちゃうんだから、アーネストはすごいよ。高圧の水流で機械獣を貫くなんて。水属性ってわたしが得意な回復が基本だと思ってたけどあんな使い方もできるんだね。わたしもできるかな」

「出来るんじゃないのか。水は使い方次第でなんにでもなれる。その点に関しては俺よりフィリアの方がうまくできると思うけどな」

「そうかな。けど覚えておくね。ああいう攻撃方法もあるんだってこと」


 すると、視界の外からパチパチと手を叩く音がする。

 そちらに振り向いてみると、そこにいたのは黒のスーツで身を固めた長身の男性。柔和な表情であっても何故だかずいぶんと威厳の在りそうな雰囲気を持っていた。


「お疲れさま、アーネスト・マーベルくん。私はここ『アルタイル』の所長ジン・パーシスという。そしてまずはお礼を。はるばるこの地まで来てくれてありがとう」

「それはどうも。ですけど礼を言うのは早すぎるんじゃないですか? まだ俺、何にもしてませんよ」

「ふふ、そうでもないさ。君の様子は私も見させてもらったからね。あの結果じゃ問題なく合格。君はこれから正式に我が研究所の臨時研究員兼護衛として働いてもらうことになるだろう。だからと言って余計に気負うことなく君本来の立場で振る舞ってくれればいい。一ヶ月後に『ベガ』との協議が控えているんだが、その時のためにこの研究所の知識を得てくれれば幸いかな」


 もう結果が出たんだ。判定が早いな。

 もう少しかかるものかと思ってた。


「はい。善処します」

「ふふ、それでいい」


 そして所長さんはフィリアの方に視線を移す。


「ところで君は付き添いだそうだね。……ふむ。私からは余計なことを言うつもりはないけれど、もしものことがあれば君にも手伝ってもらうかもしれない。普段からそのつもりでいてくれると助かるよ」

「えっと、はい。わかりました」


 とフィリアは丁寧に頭を下げる。


「そうだ、所長さん。一つだけ聞かしてほしいのですけど、俺以外も試験を受けている人はいるんですよね。他に合格した人っているんですか?」

「そうだね。いるにはいるが私たちの眼鏡にかなう者は一人だけだった。君を含めると二人になるね。それ以外は何人も呼びはしたけれどその全員に帰ってもらったよ。あの機械獣に手こずるような実力では戦えるはずもなく、逆に『ベガ』に利用されて不利になる可能性もある。加えて言うと外部の者に頼らずともライアット・ドラグネスを除けばあの機械獣程度撃退は可能だ。私たちが求めていたものはそれすらをも圧倒する力だったのでね」

「では俺とそのもう一人は十分な実力があると思えてもらったわけですね」

「ああ、そういうことさ。こうして優秀な人材に出会えたんだ。もう少し話したい気分だが、すまないね。私は数分後に次の予定があるんだ。勝手ですまないが先に行かせてもらうよ。研究所の説明と今後の予定はシェリーにしてもらうといい。シェリー・レイヴァース。君たちの知り合いなんだろ?」


 その言葉を聞いて、俺はさっきまでの所長さんの話が全て吹き飛んでしまった。

 シェリー・レイヴァースだって?


「え? シェリーのやつ、ここにいるんですか?」

「ああ、一週間くらい前かな。研究所の近くで生き倒れていたから拾ってやったんだ。とりあえず受けさせたテストも軽々クリアしたのでね。当分はここに置いてあげるつもりさ」

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