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第一話 アルタイル・至宝の在処を求めて③

 コルトさんの乗ってきた車の助手席に座り、外の景色を眺めている。

 何年も前から変わり映えしない辺り一面の雪景色。

 工業都市ウルクスは一年を通して白に染まっている。

 一月、二月、そして六月と時が流れても決して夏が来ることのない雪の国だ。

 四季の存在する国でいう夏の時期であっても冬の時期であっても変わらず雪が降る肌寒い土地。

 凍えるではなく肌寒いで済んでいるのは、機械や武器を問わずあらゆるモノを生み出す生産工場が密集して盛んに稼働していることによる熱気が原因だろう。

 いかに優秀な製造機械であれ許容範囲を超える熱を持てば動作不良を起こす。

 一年を通して効率の良い生産を続けたい経営者にとって、この雪国は上質な物件だったそうだ。

 しかし、もちろん最初からこの土地が人気だったわけではない。

 俺が産まれた頃にはもう工業都市の異名が付いていたが、そうなる以前、この土地は一年のほとんどが猛吹雪に見舞わされていた。

 そんな土地だと人間自体が生きていけない。

 当然、街などという人の営みはないわけだ。

 そんな場所にとある物好きな者が鉄工所を建設した。

 低すぎる気温で設備が凍結でもしたら元も子もないだろうに。

 しかし、その成功を発端に後続する企業が増え工場が建設され、これによりわずかながら徐々に気温が上昇していったのだ。

 最初は従業員のみが住む簡素な建物のみであったが年月が経つにつれ人が増え、それに伴い家も建てられる。

 そして生活に必要な店の数々が出てきて、気が付けば今のような都市が出来上がっていたのだと。

 それがこの『工業都市ウルクス』だ。


「――むう……」


 と車を運転しながら唸るコルトさん。

 理由は明白だ。

 今現在運転席にはコルトさんが、助手席には俺が座っている。

 本来ならこの二人で研究所まで行く予定だったのだ。

 そう。彼女の予定では、だ。

 バックミラーにはもう一人別の姿が映っている。


「ねえ、マーベルさん。わたし、確かにあなたを研究所に招待するようには訊いていたけれど、後ろの彼女は含まれていたかしら」

「当然、含まれていますよ。あなたたちが魔術師のみをカウントしているならば俺だけでしょうけど、俺は既にフィリアを魔術を知る者として同行の許可を得ています。あの招待状には同行者がいてはならないなんて記述はありませんでしたから」

「ぐぅ、確かにそうだけど。誰よその許可出したのは。わたしたちが求めていたのは戦闘力のある魔術師だけなのよ。関わる人はできるだけ少ない方がいいの。あなたも魔術師ならそこのところ理解してくれるわよね」

「理解はしますよ。扱えるものが多くなればなるほどその魔術の価値は下がってしまいますから。けどこいつは魔術の知識があるだけで魔術師ではない。あなたの言う研究成果の流出なんてものは間違っても起きませんよ」

「そう? そうだといいのですけど。まあ、お二方ともスヴェンさんの教え子だそうなので、それを信用の材料とさせてもらいましょうか」

「それで信用って、スヴェンってもしかして凄い人扱いされてたりするの?」

「材料になり得るってだけよ。だけど、そうね。ちょっと怪しいところはあるけれど、スヴェンさんは少なくともわたしにとって尊敬できる人よ。初めて会った時、名前も知らないわたしたちのことを悪い人たちから助けてくれたから。それ以来ずっと親切にしてくれているのもあって尚更ね。その関係で君たちのことは話に聞いていたわよ。とてもできた教え子たちがいるって」

「そうでしたか。ちなみにそれ以外には何か言っていましたか?」

「……そうね。その前にだけど、実際マーベルくんにとってフィリアちゃんはどんな人なの?」

「どんなって、どこにでもいるような相棒みたいもの――」

「優秀な武器職人です!!」

「は?」

「ほらほら、そんなあなたにはこの青龍剣。今ならあなたの希望に合わせてカスタマイズいたしますよ」


 言って、フィリアは懐から青龍剣とかいう謎の物体を取り出した。


「持ってきてるのかよ!? スヴェンさんのところに置いてきたらよかったのにさぁ。重いだろ、それ」


 あとすげえ邪魔だ。


「これ重いの? まだ軽い方だと思うんだけどな……。あ、もしかして『重い』じゃなくて『想い』だったり」

「ん? ……はっ、一瞬理解できてなかった。分かったら分かったでつまらなさ過ぎて恥ずかしくなるだろ。おまえ、そろそろ静かにしろ!」


 ぺちん、とフィリアの額にデコピンを食らわせる。


「うぎゅ――!」


 するとフィリアは俺の予想以上にその衝撃でのけぞった。


「あ、ごめん。ちょっと強かったか?」

「うう、ちょっと痛かったかも。でも大丈夫、血は出てないみたいだから」


 言いながらフィリアは青龍剣に映る自分の顔を見るのだった。


「やっぱり鏡だったのかよ、それ! ずいぶんでかい手鏡作ったな、おまえは。もうそれは剣じゃなくて手鏡だよ。ていうか俺専用のカスタマイズがそれなのか。いったいその鏡で何を見ろっていうんだよ」

「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだぁれ?」

「…………、スヴェンさん?」

「なんでスヴェン!?」


 と、本来のパーシスさんからの質問を完全無視して笑い合う俺たちだった。


「――ふふふ、聞いてた通りとても仲がいいみたいね。一緒に来るわけだ。スヴェンさん、言ってたわよ。二人はまるでお笑いコンビみたいだって」


 なんだよお笑いコンビって。どんな目で見てるんだよ、スヴェンさんは。

 ……ああ、そっか。そうだよな。さっきのやり取りもそうだよな。

 うん、納得だ。納得できるところしかない。


「えっと、もういいでしょ。ほら、パーシスさん。そろそろ最初にした俺の質問に答えてくださいよ」

「ええ。それでは本題に戻るとしましょうか。ではまずは『ベガ』について話そうかしらね」


 そして、パーシスさんの表情は真剣なものに移り変わる。


「『ベガ』、魔術教団『ベガ』はね総帥であるオズマ・ブランウェンが率いる魔術師集団。一言でいえば敵よ。『ベガ』の総帥、召喚術士オズマ・ブランウェン。使い魔を生み出し使役することに関しては右に出る者はいないとされるほど。あの魔術機関から魔術師として最高位の称号を与えられる候補にあげられるくらいなの。そんなオズマがどこで情報を得たのか、わたしたちの研究を狙ってやってくるのよ。そこで武力にでも頼られたら、今のわたしたちじゃ太刀打ちできずに奪われるのが落ち。だからこそのあなたたちよ。ああ、そうだ研究所についたらテストを受けてもらうからそのつもりでいておいてね。あなたたちはまだ候補なの。護衛の依頼はあなた以外にも呼んでいるから、負けないようにね」


 なんだか含みのある言いかただったけれど、それは今は置いておこう。

 聞きたいことはまだあるわけだし。


「あともう一つはわたしたち『アルタイル』の研究内容だったわね。それがさっき言ったオズマが狙っている物でもあるの。わたしたちの目的は魔術世界の伝説とされる至宝を用いた大魔術の会得よ。十二の至宝、魔導十二至宝を用いて発動する禁忌の大魔術。それを『星座の魔術』と呼んでいるわ。わたしたちが名付けたのではなくて古代より伝わる星座と関係した魔術の呼称なのだけどね。この魔術を行使することで、どのような願いも叶えられるほどの莫大な力を手にすることができると言われているの。だから魔術発動の鍵となる至宝は名の通り宝物のように認識されているわ。至宝の封印を解き、術を発動するには数々の段階が必要ということは予想されているのだけれど、詳しい内容はまだまだ調査中ね」

「ふむ、それはわかった。至宝の存在も、その先にある魔術の存在も、噂には聞いていますよ。ですけど、それが異能力開発計画とどうつながるんですか?」

「さっき言った至宝の開放の段階で、わたしたちは能力者の力が必要だと考えているの。マーベルくんは能力者の存在を信じているかしら」

「……まあ、どちらかと言えばですけど信じてはいますよ。噂くらいで見たことはないですけれど」

「そう。だったらこんな情報くらいは聞いたことあるはずよ。本物の能力者はこの世界に十二人存在するとされていて、これより多くもなく少なくもない。それぞれの能力者が魔術の属性に対応していて、その属性の異能を使う。それは誰一人として属性が重なることはない。ってこと」

「常に十二という数は必ず何かと関係がある。そこに存在理由があるのでは、って考えたわけですね」

「そういうこと。残念ながら私たちを導いてくれた先生以外、能力者の存在を目にしたことはないのだけれど。存在していることが確かなのであればそれでいいの。異能とは魔術師とは異なった法則で起こされた非現実的な力。ひとえに魔術が努力の賜物だとすれば、異能は才能の結晶。けれど、どうなのかしら。魔術も異能も元を辿れば同じ事象ではないのか? だったら何かしらの技術で作れないことはない。そして作り出した能力者で至宝を開放するのよ。簡単に言えばそんなところよ」


 そこでパーシスさんの説明は終わった。

 ぶつ切りのようにも感じたけれど、これ以上は言えないのだろうな。

 実際、俺たちはまだテストに合格していない部外者なわけだし。


「わかりました。物足りないところはあるけれど、ここまで聞ければまあいいとします。説明ありがとうございます」

「いえいえ。正式に働くことになったら嫌でも研究内容を知ることになるだろうから、詳しくはそこで情報を仕入れていってね」

「了解です」


 と言って力を抜く。気を張り詰めた話はここで終了だ。

 一瞬だけれど能力者の存在を信じているかと問われたときはどうしようかと思ったけれどね。

 ここで知らないといっていたら、おそらく怪しまれていただろうから。

 能力者の存在は既に魔術機関によって確立されている。

 その下にある学院で教師をしている俺が噂すらも知らないとなれば、それは疑われるのに十分な理由となるだろう。

 そんなつまらないことでこれからのことを水の泡にするくらいなら正直に話すべきと思ったわけだ。

 一番怖かったのは後ろにいるフィリアの反応だったのだけれど、その心配はするだけ無駄だったらしい。

 後ろを振り向いてみれば「すーすー」という可愛らしい吐息。

 車のやさしい振動に揺られながらフィリアは気持ちよさそうな表情で眠っていたのだった。

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