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第一話 アルタイル・至宝の在処を求めて①

 エルスター魔術学院 アーネスト・マーベル殿

 魔術研究施設『アルタイル』より新技術開発のご案内


 拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

 平素は格別ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。

 さて、このたび当研究施設は「異能力開発計画」と題しまして新技術開発のために魔術師各位のご協力を仰ぐことを決定いたしました。

 詳しい内容については同封いたしました資料をご確認ください。

 ご多忙中恐縮に存じますがご光来賜りますようご案内申し上げます。


 敬具

 王歴九八一年 〇月〇日


 追而

 お手数ながら同封葉書にてご出席の可否を来る○月○日迄にご回答賜りたくお願い申し上げます。

 尚 ご来臨の節は恐縮ながら本状をご提出くださいますようお願い申し上げます。


 アルグレア地方ウルクス市 魔術研究施設アルタイル

 所長 ジン・パーシス



          ◇



「この度は誠にありがとうございます。わたし、まさかこの骨董品をお買い上げいただける人がいるとは思ってもいませんでした。なんとこれは大昔に錬成されたといわれる古代礼装のひとつ『青龍剣』なのです。さすがはあなた、お目が高いです。わたしの見込んだ稀代の魔術師です」


 と、俺よりも一回りは小さい白髪の少女が、俺の目前で大げさな仕草をしつつ売り込みをしてくる。


「あのなフィリア、こんななまくら、誰も買わんぞ」


 呆れた声で返した俺を見ながらも楽しそうにしている彼女はフィリア・パルムという。

 この俺アーネスト・マーベルという存在を救ってくれた最高の恩人。そしてこの世界の特異性、水属性の異能を操るおそらく唯一の能力者だ。

 彼女は俺のような魔術師とは違い魔術を使えない。

 使わないや鍛えれば使える、ではなくそもそも使えない。

 それは彼女たち能力者が魔力をその身に蓄えることができないことからくるものだ。

 この世界には魔力という物質があり、それは空気のようにこの世界に充満している。空気中に含まれる酸素と比較したら、その量は無いに等しいが。

 そんな魔力を用いる常軌を逸した人間。この世界には存在していないとされている種族。それが魔術師と呼ばれている。

 この俺アーネスト・マーベルもその一人だ。

 俺たちはそれぞれの目的を果たすために自らの意思で魔術師となり、日々鍛練している。

 それに対して何の目的もなく突然生じたとされている、異能を操る存在が能力者と呼ばれている。それが目の前の女の子フィリアだ。

 そんな俺たちは師のスヴェン・パルムさんから呼び出しを受け普段過ごしている魔術学院から休暇をもらい、はるばるこの工業都市ウルクスまで来ていたのだ。

 そして今いる場所はウルクスに新設された雑貨屋。

 表向きには誰でも気軽に入れる店なのだが、店主であるスヴェンさんが魔術師なこともあり店の奥には魔術工房がある。

 ちなみに今日は休業日であり店に客はいない。

 招待状を送ってきた魔術研究施設『アルタイル』の人間が迎えにやってくるのを待ち店内を散策していると、俺の前に青龍剣とかいう珍妙なモノを携えてやってきたフィリア。

 昨日からスヴェンさんの工房で何かをしていたようだがこれが理由か。

 スヴェンさん曰く、この剣は彼女一人の力で完成させたものらしい。

 が、それを古代の礼装だとか語って売りつけてくるのはいかがなものかと。


「酷いよアーネスト。使ってから言ってよね。アーネストの力で宝剣クラスの遺物に変化するかもよ。試し切りする? 無料だよ」

「うるせえ。そんなとんでも変化おきるかよ。なあスヴェンさん。フィリアをどうにかしてくれよ」


 と店の奥で作業をしているスヴェンさんに声を掛ける。

 しかし、


「すいませんが今は手が離せないんです。少しの間の辛抱です。せっかくの彼女の成果なんですよ。付き合ってやりなさい」


 と声を掛けてはくれるものの、彼は彼で作業に没頭しているのかこちらに出てきてくれやしない。


「そうかい。まあいいけどさ」

「ほらほら、スヴェンもそう言ってることだし。はい、アーネスト。スヴェンが君の刀を調整している間の代わりとしていかがかな?」


 言うとフィリアは無理やり俺の手を開かせ、流れるような動作でそのまま剣の柄を握らせた。


「おいフィリア。まだその剣を持つって言ってない――」


 フィリアが剣から手を放した瞬間、ズシリと剣の重さを感じた。

 妙に重くないか、これ?

 不思議な感覚でつい思考が止まってしまうもフィリアはお構いなしで俺に要求してくる。


「ほらほら、構えてみてよ。いつもの剣みたいにさ」

「いつもって。俺が使うのは剣じゃなくて刀だから」

「一緒じゃないの?」

「それ、武器を作ったあんたが言っていいセリフか? 一緒じゃないよ。全くな」


 言いつつ、多少の興味はあったのでフィリアの望み通り剣を構えてみた。

 けれど、やっぱり使い慣れた武器じゃないからしっくりこないな。


「ほら、構えたぞ」


 そんな俺を見て、逆にフィリアは感激しているのか目を輝かせる。


「おお。なかなかにカッコいいね。じゃあこんな感じに構えてみてよ」


 言ってポーズをとるフィリア。


「えっと、こうか?」


 フィリアに倣って俺も同じポーズをとってみた。


「そうそう、それだよ。じゃあ次はこんな感じで」


 そしてまたフィリアは違うポーズをとる。


「要求が多いな。……これでいいか」

「うわーっ、最高だね。すごく輝いて見えるよ、わたしの青龍剣」


 そっちかよ。まあ分かってたけど。どれだけこの剣にご執心だったかってことくらいはさ。


「部屋の光が反射してるだけだからな。それにしてもすごい鏡面仕上げだ。いい意味で余計に使いたくなくなるよ」


 俺の顔、普通に映ってるからな。

 これは剣じゃない。むしろ鏡だ。剣の形をした鏡だよ。


「ねえアーネスト。このまま剣からビームって放てない?」

「出来るか!」


 いますぐこの巨大手鏡を洗面所に置いて来い。


「なあ、もういいだろフィリア。このかが……剣はそのうちしっかり見てやるからさ。いったんはここで終わりにしないか?」


 気分の問題もあるが、それよりもこの剣は重たすぎる。蒔割りにならまだしも戦闘で使うには不十分すぎる。それになんだかおかしいんだよな、これ。持っていると妙に疲れる。少し悪い表現だが、まるで呪いをかけられたかのようだ。


「そお? 絶対に感想を聞かてよね。それじゃあこの青龍剣は魔術学院に送っておくから」

「お・く・る・なっ! 生徒に笑われるだろ」


 言って互いに笑い声を上げるのだった。


「なあ、フィリア。そろそろふざけるのも抑えようか。約束の時間が来そうだしさ」

「ほんとだ。ちょっと喋りすぎちゃったね」


 と言って青龍剣を鞘にしまい、繋がれたベルトを肩にかける。

「まあまあ、何はともあれだね。せっかく有益な情報を掴めるかもしれないんだから、怪しまれない程度に思いっきり調べつくそうよ」

「そうだな。でなければ俺たちがここに来た意味が無いからな」


 そして、店の奥で作業をしているスヴェンさんを呼びに行く。

「スヴェンさん。そろそろ説明してくれてもいいんじゃないか?」

「ああ、そうですね。もう時間ですし、それではちゃっちゃと始めてしまいましょうか」


 言って、スヴェンさんは作業を一旦ストップさせて奥から出てくる。

 紺色の外套に身を包む長身の男性で、あまりにも店の店主らしからぬ恰好。

 加えてかけているサングラスは余計に妖しい雰囲気を醸し出していた。

 しかし、それは俺たちにとっては見慣れた格好。

 つまりは彼のお気に入りであり、そして魔術師としての正装なのだ。

 加えて彼は昔『神器』と名付けた三つの礼装とひとつの試作礼装を用いて魔術世界に挑んだ経歴がある猛者だったりする。

 それが原因で世界に見切りをつけ、今のように魔術学院から離れ隠居生活をしているのだが。

 三つの『神器』は新たな所有者を求め散り散りとなり、残り一つの試作礼装もフィリアに引き継いでいた。

 今では魔術の師として奮闘するスヴェンさんだった。

 そんな彼も普段の開店日はワイシャツにスラックス、そしてエプロンをつけているものだから、最初に見たときはその異様さについ笑ってしまった。

 俺とフィリアはお客さんの雑談用に設けられている長椅子に座り、スヴェンさんの言葉を待つ。


「えー、それではまずですね、君たちには最初に言っておかなくてはならないことがあります」


 すーっと息を吐き、スヴェンさんは話し始める。


「今回私が手に入れた魔導十二至宝に関する情報。これは間違いなく君たちが求めているものでしょう」

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