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陰の俺と、輝く彼女。リタッチから始まる天使が恋に落ちるまで。  作者: 酒本 ナルシー。
第二章 夏

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55話 班

「はいはい、まだ班決めはしませーん。」


 桃原先生がパンッと手を叩く。


 「まずは話を聞いてくださーい。」


 「えぇーー!」


 教室中から不満そうな声が上がる。


 「気持ちは分かるけど、説明終わってからね。」


 桃原先生は苦笑いを浮かべながらプリントを持ち上げた。


 「班は四人一組。」


 「宿泊中は、寝る時以外は基本この班で行動してもらいます。」


 「登山、スケッチ、飯ごう炊飯、キャンプファイヤーも全部班ごとね。」


 その言葉に、教室がまたざわつく。


 蒼真はプリントへ目を落とした。


 (寝る時以外……ずっと一緒か。)


 自然と緊張で喉が鳴る。


 一方。


 亜里沙も同じプリントを見つめていた。


 (ずっと……一緒。)


 その一文を見た瞬間、頬がほんのり熱くなる。


 思わず前髪を指先でいじりながら、小さくうつむいた。


 七宮はというと。


 (よしっ!)


 心の中でガッツポーズ。


 四人班。


 この人数なら十分チャンスはある。


 瑠華はそんな三人を順番に見て、小さく肩を落とした。


 (……はいはい。)


 (分かりやすすぎ。)


 心の中でそう呟きながら、苦笑いを浮かべる。


 「それじゃあ説明は以上!」


 桃原先生はプリントを机へ置いた。


 「班決め、スタート!」


 その一言だった。


 ガタッ!


 一斉に椅子が引かれる。


 「一緒の班になろー!」


 「先約だから!」


 「あと一人空いてる!」


 あちこちで声が飛び交い、静かだった教室は一瞬でお祭り騒ぎになった。


 蒼真は勢いに圧倒され、思わず立ち尽くす。


 (やっぱり……。)


 (こうなるよな。)


 すると――。


 ガシッ。


 突然、右腕をつかまれた。


 「米倉!」


 振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべた七宮がいた。


 「行くぞ!」


 「え?」


 「コミュ力改造計画!」


 「実践編だ!」


 七宮は蒼真の返事も待たず、その腕を引っ張って人混みの中へ飛び込んでいった。


「ちょ、ちょっと待っ――!」


 蒼真の声もむなしく、七宮は人混みの中をずんずん進んでいく。


 「七宮君! 引っ張るなって!」


 「細かいこと気にすんな!」


 「今はスピードが命だ!」


 「何の勝負だよ……。」


 蒼真は苦笑しながらも、その手を振りほどこうとはしなかった。


 教室では、すでにあちこちで班が決まり始めている。


 「あと一人!」


 「ごめん、もう決まっちゃった!」


 そんな声が飛び交うたびに、蒼真の胸は少しずつ焦り始めた。


 (また……余るのか。)


 その時だった。


 七宮がピタッと足を止める。


 「よし。」


 「まずは作戦会議だ。」


 「作戦?」


 「四人班だろ?」


 七宮は指を四本立てる。


 「俺と米倉で二人。」


 「あと二人集めれば勝ちだ。」


 「勝ちって……。」


 蒼真が呆れたように笑う。


 その笑顔を見た七宮も、つられて笑った。


 「ほら、その顔。」


 「前だったら今頃、机にしがみついてただろ?」


 「……。」


 図星だった。


 少し前の自分なら、きっと席から動くことすらできなかった。


 七宮が声を掛けてくれなければ、ただ時間が過ぎるのを待っていただけだ。


 「米倉。」


 「今日は逃げんな。」


 七宮は真っすぐな目で言った。


 「一歩だけでいい。」


 「自分から動いてみろ。」


 その言葉に、蒼真はゆっくりとうなずく。


 「……分かった。」


 一歩。


 ほんの一歩だけ前へ踏み出す。


 その瞬間だった。


 教室の反対側から、小さくこちらを見つめる視線があった。


 亜里沙だ。


 目が合う。


 ほんの一瞬。


 お互いに何かを言おうとして、言葉が出ない。


 すると、その様子を見ていた瑠華が額に手を当て、小さく空を仰いだ。


 「はぁ……。」


 「もう、見てられない。」


 瑠華はそう呟くと、二人の間に割って入るように歩き出した。


「ちょっと、米倉くん。」


 瑠華が二人の前で足を止めた。


 「え?」


 突然声を掛けられ、蒼真は少し驚く。


 「班、もう決まった?」


 「いや、まだだけど……。」


 「そっか。」


 瑠華は一度だけ頷くと、後ろをちらりと振り返った。


 視線の先には亜里沙。


 さっきからこちらを見ては、目が合うたびに慌てて視線を逸らしている。


 (……もう。)


 (ほんと分かりやすい。)


 瑠華は心の中で苦笑した。


 「じゃあさ。」


 「一緒の班にならない?」


 その一言に、蒼真も七宮も目を丸くする。


 「え?」


 「私と亜里沙。」


 「米倉くんと七宮。」


 「ちょうど四人じゃん。」


 一瞬。


 教室の音が遠くなった気がした。


 蒼真は思わず亜里沙を見る。


 亜里沙も驚いたように目を見開いていた。


 「えっ……。」


 小さく声を漏らす。


 嬉しい。


 でも、自分からは何も言えない。


 そんな気持ちが、その表情にそのまま表れていた。


 七宮は一瞬だけ亜里沙を見つめる。


 (よし。)


 (同じ班になれる。)


 心の中で小さく拳を握る。


 だが次の瞬間、いつもの笑顔に戻った。


 「いいじゃん!」


 「四人なら楽しそうだ!」


 「俺、賛成!」


 その勢いに押されるように、蒼真も口を開く。


 「……俺も。」


 「よろしく。」


 少し照れくさそうにそう言うと、亜里沙はぱっと笑顔になった。


 「う、うん!」


 「よろしく!」


 その笑顔を見た瑠華は、小さく息を吐く。


 (はい、これで一件落着。)


 そう思った矢先だった。


 「ちょっと待って!」


 教室の後ろから、大きな声が響いた。


 四人は同時に、その声のした方へ振り向いた。


「亜里沙!」


 女子グループの一人が、大きく手を振りながら近付いてきた。


 「えっ?」


 「うちらと班組む約束してたじゃん!」


 「え……?」


 突然の言葉に、亜里沙は目を丸くする。


 「ほら、昨日も話してたでしょ?」


 「林間学校、一緒がいいねって!」


 周りの女子も「そうそう!」と頷く。


 亜里沙は困ったように瑠華を見る。


 次に蒼真を見る。


 蒼真と目が合った。


 だが蒼真は何も言えない。


 (引き止める資格なんて……ないよな。)


 別に付き合っているわけでもない。


 ただ同じクラスメイト。


 自分の都合で亜里沙を困らせるわけにはいかなかった。


 「大丈夫。」


 蒼真は小さく笑った。


 「せっかく誘われてるんだから。」


 「そっちに行っても――」


 「やだ。」


 その一言に、蒼真の言葉が止まる。


 教室も、一瞬だけ静かになった。


 亜里沙は、自分でも驚いたように目を瞬かせる。


 「あ……。」


 思わず本音が口からこぼれていた。


 頬がみるみる赤く染まっていく。


 「ち、違っ……その……。」


 慌てて言葉を探す亜里沙。


 瑠華は額に手を当て、小さく天井を見上げた。


 (出ちゃった……。)


 (本音。)


 七宮はきょとんとした顔で亜里沙を見つめる。


 そして隣の蒼真を見る。


 蒼真は何が起きたのか分からず、ただ固まっていた。


 教室中の視線が、四人へ集まり始める――。


「あ……。」


 亜里沙は自分の口を両手で押さえた。


 しまった。


 そう思った時には、もう遅かった。


 教室中の視線が自分に集まっている。


 「ご、ごめん!」


 慌てて首を横に振る。


 「やっぱり……瑠華と一緒がいい!」


 そう言うと、亜里沙は照れ隠しをするように笑った。


 「ほら、私たちいつも一緒だし!」


 その言葉に、一瞬静まり返っていた教室から、


 「あぁ、なるほど。」


 「それなら分かる。」


 「確かに、あの二人いつもセットだもんね。」


 そんな声があちこちから聞こえてくる。


 瑠華と亜里沙。


 クラスでは有名な仲良しコンビだ。


 今さら別々の班になる方が、不自然なくらいだった。


 「じゃあ仕方ないか。」


 女子たちも顔を見合わせ、納得したように頷く。


 その様子を見て、亜里沙は胸をなで下ろした。


 (あぶなかった……。)


 心臓はまだ、ドキドキと音を立てている。


 一方、その隣では瑠華が小さくため息をついた。


 (フォローは上手だったけど……。)


 (最初の『やだ』は、もう取り消せないよ。)


 瑠華は苦笑いを浮かべながら、そっと亜里沙の肩を軽く叩いた。

読んでいただいてありがとうございます。

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