49話 俺を知れ
昼休み。
勢いだけで七宮に相談を持ちかけてしまった。
だが今になって思う。
(迷惑だったかな……。)
そんなことを考えながら席を立とうとした時だった。
「なぁ。」
七宮の方から声を掛けてきた。
「相談って何?」
「恋愛系とか?」
「……!」
蒼真の肩がびくっと震える。
相変わらず。
七宮は遠慮がない。
思ったことを、そのまま口にする。
でも。
今の蒼真には、その真っ直ぐさが少しだけありがたかった。
自分から話しかけるのは苦手だ。
けれど七宮は、そんなことは気にせず、ずかずかと心の中へ入ってくる。
蒼真は少し照れくさそうに笑った。
「恋愛っていうか……。」
「七宮くんって、コミュ力高いじゃん。」
「どうしたら、みんなと仲良くなれるのかなって。」
一瞬。
七宮は目を丸くした。
「え。」
「俺?」
その表情が、みるみる嬉しそうに変わっていく。
口元がゆるむ。
「マジ?」
「なんか今日の俺、めっちゃ頼られてるじゃん。」
どこか得意げに胸を張る。
「要はさ。」
「自分をもっとさらけ出さないと。」
「相手だって警戒して、本音なんか見せてくれないじゃん。」
「だから俺は、最初からありのままで接する。」
「それで合わない奴は合わない。」
「でも、合う奴とは自然と仲良くなる。」
蒼真は真剣な表情で頷く。
すると七宮は、少し考えるように蒼真を見つめた。
「……てかさ。」
「米倉って、話しかけづらいオーラ出してるぞ。」
「え?」
「いつも眠そうな顔してるし。」
「『俺に話しかけんな』って顔してる。」
「しかも前髪で顔隠れてるから、余計近寄りづらい。」
蒼真は思わず苦笑いする。
「そんなつもりないんだけどな。」
「いや、本人はそうなんだろうけどさ。」
七宮は笑いながら続けた。
「今日の髪、いいじゃん。」
「昨日までより全然話しかけやすい。」
「今の方が米倉って感じする。」
その言葉に。
蒼真は朝、瑠華に言われた一言を思い出す。
『髪、そっちの方がいいね。』
二人とも同じことを言った。
偶然なのか。
それとも、本当に少しだけ変われたのか。
蒼真は照れくさそうに笑いながら、小さく頷いた。
そして、さっき七宮に言われた言葉を何度も頭の中で繰り返していた。
自分をもっとさらけ出す。
(さらけ出す……。)
蒼真は考える。
考える。
そして、さらに考える。
「実は……!」
七宮が振り向く。
「俺、好きな人がいて……。」
そこまでは勢いよく言えた。
だが。
そこから先は、みるみる声が小さくなっていく。
「実家が美容室で……。」
「今は美容学校も通ってて……。」
「それでカラーのモデルをお願いして……。」
「撮影があって……。」
「そのあと……。」
ぶつぶつ、ぶつぶつ。
まるで長い魔法の詠唱でも唱えているようだった。
七宮は真剣な顔で聞いている。
……ように見えた。
だが実際は。
「美容室。」
「美容学校。」
「好きな人。」
そのくらいしか頭に入っていない。
長すぎて、途中から何を言っているのか全く分からなくなっていた。
そして数秒後。
七宮は大きく頷く。
「なるほど。」
「……。」
「…………。」
「………………。」
「要するに!」
七宮は蒼真の肩をバンッと叩いた。
「俺みたいになりたいってことだな!」
「任せろ!」
「道は厳しいけど、俺がついてる!」
「心配すんな!」
蒼真は一瞬きょとんとした。
(……全然違う。)
そう思った。
でも。
その真っ直ぐな笑顔を見ていると、不思議と笑えてきた。
「……うん。」
素直に頷いた。
(七宮って……。)
(ほんと、いいやつだな。)
友達が多い理由が、少しだけ分かった気がした。
蒼真は尊敬の眼差しで七宮を見つめる。
その視線に気付いた七宮は、満足そうに胸を張った。
「安心しろ!」
「今日から俺が、米倉コミュ力改造計画を始めてやる!」
「……え?」
「まずは昼飯、一緒に食うぞ!」
蒼真は苦笑いしながら頷いた。
「……よろしく。」
その後。
二人は中庭へ向かった。
昼食を取り出し、向かい合って席に座る。
七宮は一口食べるなり、満足そうに頷いた。
「よし。」
「じゃあ、コミュ力改造計画第一回、始めるか。」
「え、本当にやるの?」
「当たり前じゃん。」
「まずは俺を知れ。」
「……え?」
「コミュ力が高い人間を研究すること。」
「これ、大事。」
そう言うと七宮は、自信満々に語り始めた。
「俺さ、小学校の頃から友達作るの得意だったんだよ。」
「初対面でも普通に話しかけるし。」
「知らない人でも、とりあえず話してみる。」
「だいたい何とかなる。」
「失敗したら?」
蒼真が聞く。
「気にしない。」
七宮は即答だった。
「だって、一回気まずくなったくらいで人生終わらないじゃん。」
「なるほど……。」
蒼真は真剣にメモでも取りそうな勢いで頷く。
七宮は止まらない。
「あとさ。」
「人って、自分のこと話すの好きなんだよ。」
「だから相手の話を聞いてるだけでも、結構仲良くなれる。」
「へぇ……。」
「あと笑う。」
「笑ってる奴には話しかけやすい。」
「なるほど……。」
「あと、名前。」
「ちゃんと名前で呼ぶ。」
「あと、困ってそうなら声掛ける。」
「あと……」
七宮の"俺とは論"は止まらなかった。
十分。
二十分。
三十分。
昼休みの終わりが近づいても、七宮は楽しそうに話し続ける。
蒼真は相づちを打ちながら思った。
(……七宮くん。)
(本当に人と話すのが好きなんだな。)
そして。
友達が多い理由が、少しだけ分かった気がした。
*
そして放課後。
ホームルームが終わり、蒼真は専門学校へ向かおうとしていた。
教室を出ようとした、その時。
「米倉くん。」
後ろから声が掛かる。
振り返ると、以前、前髪のことで話しかけてきた女子たちだった。
「今日の髪型、似合ってるね。」
一瞬。
蒼真は立ち止まった。
こんな風に話しかけられるとは思っていなかった。
どう返せばいい。
頭の中が真っ白になる。
その時。
昼休みに七宮が言っていた言葉を思い出す。
『笑ってる奴には話しかけやすい。』
(……よし。)
少しためらう。
でも。
褒めてくれたことだけは間違いない。
蒼真はぎこちなく笑顔を作った。
「ありがとう。」
たった一言。
それだけだった。
「うん!」
「やっぱりその髪型の方が似合ってるよ!」
女子たちは笑顔でそう言うと、そのまま友達同士で話しながら教室を出ていった。
蒼真はその背中を見送り、小さく息を吐く。
(……できた。)
たった一言。
それだけなのに。
少しだけ。
昨日の自分より前に進めた気がした。
読んでいただいてありがとうございます。
今回の話書きやすかったぁ〜。ようやく一山抜けた感じです。(笑)




