41話 声と安心
翌朝。
蒼真はいつもより少しだけ早く家を出た。
ほんの十分。
少しだけ早いだけだった。
理由は一つ。
亜里沙より先に教室へ入り、みんなの反応を聞きたかったからだ。
教室へ入る。
いつもの席へ座る。
机へ突っ伏す。
普段ならそのまま眠ってしまう。
だが今日は違う。
寝たふりだった。
耳だけは周りの音を拾っている。
しばらくして。
教室が少しだけざわつき始めた。
来た。
寝たふりをしていても分かる。
亜里沙が登校してきたのだ。
「えっ!」
「めっちゃ似合ってる!」
「かわいい!」
「どこのサロン?」
「それ高かった?」
あっという間に亜里沙の周りへ人が集まる。
質問攻めだった。
亜里沙は少し照れながら笑う。
やっぱり。
こうなると思っていた。
一通りみんなの相手を終えると。
今度は瑠華の席へ向かう。
「おはよー」
「おはよー」
瑠華は亜里沙の髪をそっと手に取る。
「やっぱりいいね」
「本当に似合ってる」
「ありがと」
亜里沙は少し照れくさそうに笑った。
そこへ七宮もやって来る。
「すげーじゃん、その髪!」
「ほんと似合ってる!」
「ありがと」
今回は素直にそう答えた。
その様子を。
蒼真は机へ突っ伏したまま聞いていた。
誰にも気付かれないように。
小さく息を吐く。
「……よかった」
その一言だけを胸の中で呟く。
ようやく肩の力が抜けた。
そして。
一日が始まった。
*
その日は休み時間になるたびに。
亜里沙の周りへ友達が集まっていた。
話題はもちろん髪。
声が教室中に響く。
普段なら。
誰かが話していても気にせず眠れる。
だが今日は違った。
どうしても眠れない。
リタッチはうまくいった。
でも。
本番は今週末の撮影だ。
自分がモデルになるわけじゃない。
それなのに。
なぜだか落ち着かなかった。
本当は。
話に混ざりたかった。
どうしてこの色にしたのか。
なぜブラウンを選んだのか。
ハイライトの太さはどう考えたのか。
そんな話がしたかった。
でも。
学校ではうまく話せない。
結局。
昼休みになると蒼真は教室を出た。
中庭のベンチへ腰を下ろす。
スマホを取り出す。
ぼんやりと画面を眺める。
店では普通に話せる。
お客とも話せる。
なのに。
学校へ来ると、途端に言葉が出てこない。
昨日はあんなに自然に話せたのに。
髪の話も。
撮影の話も。
まだまだ話したいことはあった。
それでも。
現実はいつもと変わらない。
蒼真は静かに空を見上げた。
◇◇◇
あの日から。
学校では何度も亜里沙の髪を褒める声が聞こえた。
「その色かわいい!」
「撮影絶対うまくいくよ!」
そんな声を聞くたびに。
蒼真は少しだけ安心した。
高校でも。
専門学校でも。
店で仕事をしていても。
頭の中にあるのは、今週末の撮影のことばかりだった。
そして。
気付けば撮影前日。
土曜日。
営業も終わりに差しかかっていた。
蒼真は店の片付けを手伝っている。
床を掃き。
ワゴンを戻し。
使い終わった道具を片付けていく。
ようやく一息ついた時だった。
ブルッ。
ポケットのスマホが震えた。
蒼真は手を止め、画面を見る。
送り主は亜里沙だった。
『ごめん!まだお店?』
続けてもう一通。
『仕事終わってからでいいんだけど、少し話せる?』
蒼真は画面を見つめたまま固まる。
こんな時間に。
しかも亜里沙の方から。
何かあったのだろうか。
少しだけ胸が高鳴る。
蒼真は急いで店内を見回した。
まだ片付けは残っている。
「……終わったら連絡しよう」
そう小さく呟き。
スマホをポケットへしまうと、再び仕事へ戻った。
*
営業が終わった頃には、時計の針は夜十時を回っていた。
蒼真は店のシャッターを閉める。
「お疲れ」
父にそう声を掛けられ、小さく頭を下げた。
ようやくスマホを取り出す。
画面には亜里沙からのLINE。
蒼真はすぐに返信した。
『今終わった。大丈夫だよ。』
送って数秒。
スマホが震えた。
亜里沙からの着信だった。
「もしもし」
『あ、終わってた?』
「うん。今ちょうど」
『よかった』
安心したような声だった。
少しだけ沈黙が流れる。
『ごめんね』
『疲れてるのに』
「全然」
「何かあった?」
『いや……』
『明日、撮影じゃん?』
「うん」
『なんか急に緊張してきちゃって』
その言葉に蒼真は少し笑った。
「今日まで普通だったのに?」
『そう(笑)』
『今さらなんだけどね』
二人とも思わず笑う。
張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
『ねぇ』
「ん?」
『……大丈夫かな』
その一言だけは、さっきまでと少し声色が違った。
蒼真は少しだけ考える。
そしてゆっくり口を開いた。
「大丈夫」
「昨日も学校でみんな褒めてたじゃん」
『うん』
「それに」
「俺、この色すごく瑠璃ヶ浜さんに似合ってると思う」
電話の向こうが静かになる。
数秒後。
『……そっか』
『蒼真君がそう言うなら安心した』
その一言で。
蒼真の胸の中の緊張まで少し軽くなった。
『ありがとう』
『やっぱり蒼真君にお願いしてよかった』
蒼真は照れくさそうに笑う。
「まだ撮影終わってないよ」
『あっ、そうだった(笑)』
二人で笑う。
『じゃあ明日頑張ってくる』
「うん」
「頑張って」
電話が切れる。
静かになった夜道。
蒼真はスマホを見つめ、小さく息を吐いた。
明日。
いよいよ本番だ。
読んでいただいてありがとうございます。
皆さんに、お知らせがあります。
作者スランプに突入いたきました。(人生2回目の)
中々書けないものですね。誰が続き書いてください。僕ちゃんと読みますので。
軽いノリで書いてたのに気づけば本気に…。
書いているうちに本来書きたかったものと違う展開にどんどん進んで行ってしまう。
なんてこったですね。
本来もっとドロドロしたやつ書くつもりだったのに、超青春キラキラ物語に…。
読者の皆!オラにモチベを分けてくれ!(」>д<)」




