36話 余韻
蒼真とのLINEが終わる。
スマホを置く。
寝よう。
そう思った。
しかし。
数秒後。
亜里沙は再びスマホを手に取っていた。
LINEを開く。
当然、新しい通知は来ていない。
それなのに。
なぜかもう一度確認してしまう。
「なにやってんだろ」
思わず笑った。
そして。
さっきまでのやり取りを読み返す。
カラーの話。
参考画像の話。
二十年以上前のヘアカタログの話。
そこから始まったどうでもいい雑談。
気付けば時間を忘れていた。
こんなに長くLINEしたのは久しぶりかもしれない。
亜里沙は小さく笑う。
「ほんと美容好きなんだな」
蒼真の長文を思い出す。
ハイライトの説明。
色味の話。
撮影の話。
読んでいるだけで熱量が伝わってきた。
美容師の卵。
そんな言葉が自然と頭に浮かぶ。
やり取りをスクロールする。
そして。
ふと違和感に気付いた。
「あれ?」
指が止まる。
画面を見返す。
もう一度見る。
そして思わず吹き出した。
「蒼真くんって呼んでる」
自分でも気付いていなかった。
ずっと米倉くんと呼んでいた気がする。
なのに。
いつの間にか名前で呼んでいる。
しかも自然に。
「まじウケる(笑)」
亜里沙は一人で笑った。
別に深い意味なんてない。
たぶん。
きっと。
そういうことにしておく。
スマホを置く。
そしてベッドへ潜り込んだ。
目を閉じる。
球技大会。
蒼真とのLINE。
そして。
もうすぐやってくるリタッチの日。
「楽しみだな」
小さく呟いて。
亜里沙はゆっくりと眠りについた。
翌朝。
亜里沙はベッドから出たくなかった。
眠い。
とにかく眠い。
原因は分かっている。
昨夜だ。
気付けば遅くまで蒼真とLINEをしていた。
そのせいで少し寝不足だった。
「やばっ」
時計を見て飛び起きる。
慌てて準備を始める。
髪を整える。
メイクをする。
朝食をかき込む。
そして家を飛び出した。
結果。
学校へ着いたのはかなりギリギリだった。
朝礼開始数分前。
なんとか教室へ滑り込む。
「亜里沙セーフ!」
「危なかったじゃん」
クラスメイト達が笑う。
「ほんと危なかったから」
亜里沙も笑いながら答える。
そして自分の席へ向かう。
途中。
瑠華と目が合った。
「おはよー」
「おはよ」
そう返した瞬間。
なぜか視線が少し横へ動いた。
蒼真。
そこにいた。
そして。
ちょうど同じタイミングだった。
目が合う。
一瞬。
本当に一瞬だった。
だが。
なぜだか少し気まずい。
蒼真もすぐに視線を逸らした。
「……?」
亜里沙は自分でも理由が分からない。
席へ座る。
すると朝礼のチャイムが鳴った。
先生の話が始まる。
だが。
亜里沙の頭の中には別のものが浮かんでいた。
昨夜のLINE。
ハイライト。
古いヘアカタログ。
そして。
『なんか本当に美容師みたい』
自分が送った言葉。
気付けば。
また思い出していた。
*
昼休み。
亜里沙はいつものように瑠華と昼食を食べていた。
すると。
瑠華がふと思い出したように聞く。
「そういえばさ」
「今度の撮影のカラーどうするの?」
「やっぱ秋だから暗め?」
亜里沙は少し得意気になる。
「それがね」
スマホを取り出した。
そして昨夜蒼真から送られてきた参考画像を見せる。
瑠華は画面を見る。
「おー」
「なんか亜里沙っぽい」
その言葉に。
亜里沙は少し嬉しくなる。
自分でもそう思っていたからだ。
「でしょ?」
自然と笑顔になる。
その時だった。
瑠華が画像を拡大する。
そして。
「てかさ」
「この写真めちゃくちゃ古くない?」
亜里沙が固まる。
その隣。
机へ突っ伏していた蒼真の肩が一瞬だけピクリと動いた。
本人は寝たフリを続けている。
「いや、その」
「なんか担当の美容師が昔のカラー好きなのかも?」
亜里沙は適当にごまかした。
瑠華は少し笑う。
「へぇ」
「その担当なかなかやるじゃん」
「亜里沙っぽいのちゃんと分かってる」
亜里沙の口元が少し緩む。
それを見逃す瑠華ではない。
「何ニヤけてんの?」
「ニヤけてないし」
「いやニヤけてる」
「気のせい」
即答だった。
瑠華は呆れたように笑う。
亜里沙は話題を変えるようにスマホをしまった。
そして。
ぽつりと呟く。
「まぁ」
「撮影もだけど」
「カラー楽しみなんだよね」
瑠華は一瞬だけ亜里沙を見る。
そして。
「はいはい」
それだけ返した。
どこか面白そうに。
一方その頃。
隣の席では。
寝ているはずの蒼真の心臓が猛烈にうるさかった。
読んでいただいてありがとうございます。




