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陰の俺と、輝く彼女。リタッチから始まる天使が恋に落ちるまで。  作者: 酒本 ナルシー。
第一章 春

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35話 会話ばっかり

自分の部屋へ戻った蒼真は、改めてハイライトの難しさを思い知っていた。


 思っていたより遥かに難しい。


 父が簡単そうにやっていた意味が分からない。


 だが。


 不思議と出来ないとは思わなかった。


 出来るようになるしかない。


 そんな気持ちだった。


 リタッチの日までに習得する。


 そう決めていた。


 そして。


 カラーの方向性もある程度固まっていた。


 なら次にやることは一つだ。


 モデル本人への確認。


 蒼真はスマホを手に取る。


 相手は亜里沙。


 モデルの仕事をするのは彼女だ。


 髪色は重要な要素になる。


 事前に伝えるのは当然だった。


 いつもの蒼真なら。


 LINEを送るだけで何分も悩む。


 文章を打つ。


 消す。


 また打つ。


 そんなことを繰り返していた。


 だが今回は違う。


 迷いがなかった。


 内容を打ち込む。


 そして送信。


 数秒後。


 既読が付く。


 蒼真の手が止まる。


 「早っ」


 思わず声が漏れた。


 するとすぐに返信が返ってくる。


 『ハイライト?』


 『大丈夫なの?』


 蒼真は少しだけ目を見開いた。


 予想外ではなかった。


 亜里沙はモデルの仕事をしている。


 ヘアメイクの現場も何度も見てきた。


 だからこそ出てくる疑問だった。


 すぐに次のメッセージが届く。


 『なんか結構派手なイメージあるんだけど』


 蒼真はスマホを見る。


 そして少し考える。


 だが今回は不思議と迷わなかった。


 すぐに文字を打つ。


 『俺も最初そう思った』


 送信。


 さらに続ける。


 『でも俺が考えてるのはそういうのじゃない』


 『もっと細い感じ』


 『近くで見てもそんなに目立たないと思う』


 『光が当たった時に少し立体感が出るくらい』


 送信。


 送信。


 送信。


 気付けばまた長文になっていた。


 だが今回は途中で止まらない。


 亜里沙へ伝えたいことがちゃんとあった。


 数秒後。


 返信が来る。


 『へぇ』


 『そんなハイライトもあるんだ』


 蒼真は少しだけ安心した。


 しかし次のメッセージを見て固まる。


 『なんか本当に美容師みたい』


 蒼真の視線が止まる。


 たった一行。


 それだけだった。


 なのに。


 なぜか胸の奥が少し熱くなる。


 美容師みたい。


 まだ免許もない。


 まだ見習いだ。


 専門学校へ通っている途中だ。


 父には怒られてばかりいる。


 それでも。


 その言葉は嬉しかった。


 亜里沙はそんなこと気付いていないのだろう。


 ただ思ったことを送っただけ。


 でも。


 蒼真にとっては十分だった。


 スマホを見つめながら。


 気付けば少しだけ口元が緩んでいた。


数秒後。


 亜里沙から返信が来る。


 『写真とかある?』


 蒼真はすぐにスマホを操作した。


 昨夜から集めていた参考画像。


 その中から一枚を選び送信する。


 しばらくして返信が返ってきた。


 『へぇー』


 『こんな感じになるんだ』


 続けて。


 『なんか楽しみかも』


 その一文を見た瞬間。


 蒼真のモチベーションはさらに上がった。


 絶対に成功させたい。


 そんな気持ちが強くなる。


 しかし。


 次のメッセージを見て固まった。


 『てかこの画像古くない?』


 蒼真は慌てて画像を見直した。


 そして日付を確認する。


 「古っ……」


 思わず声が漏れる。


 参考画像を探しているうちに。


 いつの間にか二十年以上前のヘアカタログ画像に辿り着いていたのだ。


 すぐに返信が届く。


 『でもなんか好き』


 『今見ても普通に可愛い』


 蒼真は少し安心した。


 『良かった』


 『いや全然気付かなかった』


 『美容師あるある?』


 『知らない(笑)』


 そこから話は少しずつ脱線していった。


 『てかこの人誰?』


 『当時のモデルさん』


 『有名だったの?』


 『たぶん』


 『たぶんって(笑)』


 蒼真は思わず笑う。


 そして。


 気付けばカラーの話ではなくなっていた。


 『蒼真くんって昔のアイドルとか知ってるの?』


 『親父が店で流してたから少し』


 『へぇー』


 『誰が人気だったの?』


 『俺もよく知らない』


 『CDがめちゃくちゃ売れてたらしい』


 『らしいって(笑)』


 『なんでそんな曖昧なの』


 『生まれる前だし』


 『確かに』


 そんな他愛もないやり取りが続く。


 気付けば美容の話はどこかへ消えていた。


 それでも不思議と会話は途切れない。


 スマホが震える。


 返信する。


 また震える。


 返信する。


 ただそれだけなのに。


 なんだか楽しかった。


 ふと時計を見る。


 「え?」


 蒼真は目を疑った。


 時刻は〇時五十分。


 気づけば日付が変わっている。


 『やば』


 『もうこんな時間』


 送信すると。


 すぐに返信が来た。


 『ほんとだ』


 『明日学校じゃん』


 『寝ないと』


 蒼真は小さく笑う。


 『うん』


 『おやすみ』


 送信。


 数秒後。


 『おやすみー』


 返信が届く。


 そこでようやくトーク画面が止まった。


 蒼真はスマホを枕元へ置く。


 そして天井を見る。


 今日も長い一日だった。


 だが。


 不思議と嫌な疲れではない。


 むしろ少し気分が良かった。


 スマホの画面が消える。


 蒼真は目を閉じる。


 その数秒後。


 なぜかもう一度スマホを手に取った。


 LINEを開く。


 当然、新しいメッセージは来ていない。


 「何やってんだ俺……」


 自分で呟いて苦笑する。


 そして今度こそスマホを置いた。


 その頃。


 亜里沙も自分の部屋で同じことをしているとは。


 蒼真はまだ知らなかった。

会話が多かっです。

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