28話 アクセル
亜里沙からもらったジュース。
冷たい缶を握るたびに、さっきの自販機での出来事が頭に浮かぶ。
気付けば何度も思い返していた。
――俺、自分から話しかけたんだよな。
考えても答えは出ない。
そんなことをしているうちに時間は過ぎていった。
*
気が付けば蒼真達は準決勝まで勝ち進んでいた。
ここまでの相手は、どちらかと言えばスポーツが得意ではないペアが多かった。
しかし。
今度の相手は違う。
見ただけで分かる。
スポーツ経験者同士のペアだった。
試合前のアップから動きが良い。
ラケットの振り方も慣れている。
七宮もそれを感じたのだろう。
ラケットを肩に担ぎながら笑う。
「米倉!」
「これ勝って決勝行こうぜ!」
蒼真は苦笑しながら頷いた。
「うん、分かった」
球技大会も終盤。
試合を終えた生徒達が続々と体育館へ集まってくる。
観客は今までで一番多かった。
その中でも七宮への声援は特に大きい。
だが蒼真は周囲を見る余裕がなかった。
試合のこと。
そして亜里沙からもらったジュースのこと。
頭の中はまだ少し混乱していた。
*
試合が始まる。
今までとは全く違った。
点を取る。
取られる。
また取り返す。
どちらも譲らない。
長いラリーが何度も続いた。
蒼真の足はすでに限界に近い。
七宮も息が上がっていた。
それでも二人とも諦めない。
観客の応援にも熱が入る。
「七宮ー!」
「頑張れー!」
歓声が体育館中に響く。
そして。
あと一点。
取った方が勝ち。
そんな場面まで来ていた。
ラリーが続く。
相手も必死。
こちらも必死。
そして相手が放ったシャトルがライン際へ落ちる。
蒼真は反射的に飛び出した。
届かないと思った。
それでも足は止まらない。
ラケットを伸ばす。
ギリギリで追いついた。
「――届けっ!」
蒼真は全力でラケットを振り抜く。
その瞬間。
バシィッ!!
今までと違う感触が伝わった。
「あれ?」
一瞬遅れて気付く。
隣には同じようにシャトルを追ってきた七宮がいた。
そして。
蒼真のラケットは思い切り七宮のお尻を叩いていた。
「ぎゃああああああっ!!」
体育館に七宮の悲鳴が響く。
その場が静まり返った。
観客。
審判。
相手チーム。
全員が固まる。
そして。
ポトリ。
シャトルは蒼真達のコートへ落ちた。
試合終了。
敗北だった。
数秒の沈黙。
やがて誰かが吹き出した。
「ぶっ……!」
それをきっかけに。
体育館中が笑いに包まれた。
「何やってんだよ!」
「七宮ーアウトーーー!」
「最後それかよ!」
大爆笑だった。
七宮はお尻を押さえながら床にしゃがみ込んでいる。
蒼真は青ざめた。
「ご、ごめん!」
「ごめんじゃねぇ!」
七宮が叫ぶ。
その言葉にまた笑いが起きた。
七宮も最初は悶絶していたが、
「痛ぇ……」
と言いながら苦笑した。
結果は敗北。
それでも後味は不思議と悪くなかった。
むしろ最後の最後で七宮らしい終わり方だった。
*
試合後。
蒼真はラケットを片付けながら大きく息を吐いた。
疲れた。
本当に疲れた。
そんな時だった。
「米倉くん」
声がした。
振り向く。
亜里沙だった。
その瞬間。
さっきまでの試合とは別の意味で心臓が跳ねる。
だが。
亜里沙の顔を見ると、そんな緊張も少しだけ吹き飛んだ。
笑いを堪えていたからだ。
「……なに?」
蒼真が聞く。
すると亜里沙はとうとう吹き出した。
「ごめん」
「笑っちゃダメなんだけど」
「最後ひどすぎ」
蒼真は顔を覆った。
「言わなくていい」
「俺が一番反省してるから」
「だって」
亜里沙はまだ笑っている。
「あと一点だったのに」
「まさか七宮くんのお尻狙うなんて思わないじゃん」
「狙ってねぇし!」
蒼真が即座に否定する。
それがまた面白かったのか、
亜里沙はさらに笑った。
蒼真もつられて苦笑する。
気付けば。
さっきまであった変な緊張は消えていた。
自販機で話した時よりも。
今の方がずっと自然に話せている。
そのことに二人とも気付いていなかった。
ただ。
同じ出来事を思い出して笑っている。
それだけだった。
読んでいただいてありがとうございます。
*
ここまでついてきてくれた皆様へ。
今回の話はけしてふざけた訳ではありません。
作者は蒼真と亜里沙がどのような展開になったら、学校で違和感なく自然に話せるようなきっかけがないかな?と必死で考えた結果が28話です。
ふざけた話を書くのは好きなのですが、我慢できなかったわけではなく、この話がきっかけでこれからの展開がワンテンポアップしていけるように書きました。
本気で笑ったあとって、恥ずかしいとか周りの目とか、一瞬気にならなくなりませんか??
事件を起こした本人とかは言葉に素が出るとか。
七宮くんには、本当に申し訳ないと思っています。
いつか、かっこいい七宮君、を書いて今回ネタに使ってしまったことを挽回させるよう努力して行きます。




