表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/56

もう離さない


 春の風がザレムの街を撫でるように吹いていた。

 冒険者ギルド《銀月の帳》の扉が、朝の光の中で軽やかに開かれる。


 


 「おはよーございまーす!」


 元気なフィリアの声が響く。


 


 そのすぐ後ろを、ひときわ目立つ黒と紫の装いが静かに歩く。


 


 エリオンだ。


 


 ギルドの面々がちらりと目を向け、すぐに頷き合った。


 


 “ああ、やっと⋯⋯落ち着いたのね”


 


 受付のティナがカウンター越しに身を乗り出し、にやにやと笑う。


 


 「はいはい、おふたりさ~ん。ギルドでは尾は巻きつけ禁止ですよ~?」


 


 「巻いてないよっ!⋯⋯今日は」


 フィリアが膨れっ面をし、後ろを振り向くと――


 


 エリオンは無言で、尾の先をそっと自分の腰に巻き戻していた。


 


 「巻いてたじゃん!」


 「⋯⋯気づくな」


 


 そのやり取りに、ジークが肩を揺らして笑い、

 リリィは「⋯⋯無自覚って、怖いわね」とお茶をすする。


 


 レイが近づいてきて、両手を頭の後ろに組みながら茶化すように言った。


 


 「んで? どこまで進んだの~? もう同室? 同居? 同棲?」


 


 「生きて帰れると思うなよ」


 エリオンの低い声が落ちた瞬間、レイは即座に土下座。


 


 「冗談ッス! ごめんなさいッス!!」


 


 フィリアはくすくすと笑い、肩をすくめる。


 


 「⋯⋯ふふ。みんな、変わらないね」


 


 「⋯⋯変わったのは、俺たちだ」


 エリオンがぽつりとつぶやいた。


 


 彼の目は、確かに――あの日よりも、柔らかく、あたたかい。


 


 







 


 その夜。ギルドの屋上。


 


 星空の下、ふたりだけの時間。


 


 フィリアは、エリオンの尾に腰を預けていた。


 


 「ねぇ⋯⋯巻かれてると、なんか落ち着くよ」


 


 「本能だからな」


 「でも、ちゃんと“気持ち”も入ってるんでしょ?」


 


 エリオンは、少し考えてから頷いた。


 


 「⋯⋯お前の匂いがすると、落ち着く。

 あたたかいし、柔らかい。⋯⋯離れたくない」


 


 フィリアは小さく笑った。


 


 「うん。⋯⋯あたしも、そう思う」


 


 ふたりの影が重なり、鼓動が重なり、

 長かった旅のような恋が、ようやく“帰る場所”を見つけた。


 


 「なあ、フィリア」


 


 「ん?」


 


 「⋯⋯俺はお前を、二度と離さない」


 


 「じゃあ、あたしも⋯⋯ずっと、巻かれててあげる」


 


 その言葉に、エリオンの瞳がやわらかく細められた。


 


 彼は静かに、尾をふわりと持ち上げ――


 


 フィリアの指に、軽く、巻き付ける。


 


 「契約成立だな」


 


 「うん。“愛の契約”ってやつ」


 


 







 


 ギルドの片隅で、それを見ていたティナがふっと笑った。


 


 「⋯⋯あの子たち、もう完全に“巻きついてる”わね」


 


 リリィはそっけなく返す。


 


 「⋯⋯絡まれたら、最後なのよ」


 


 


Fin

――『蛇は1度噛んだら離さない』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ