一緒に戦う覚悟もう離さない尾 4
封印種の咆哮が静まり、
遺跡には戦いの余韻だけが漂っていた。
崩れた石柱の影で、エリオンとフィリアは肩を寄せ合っていた。
無傷ではない。だが、心は――どこか穏やかだった。
「⋯⋯静かだね」
フィリアがぽつりと呟いた。
「静かすぎて、逆に落ち着かない」
エリオンの声は、珍しく柔らかかった。
フィリアは笑いながら、彼の尾をちらりと見る。
「ねぇ、さっき⋯⋯ちょっと痛かったかも」
冗談めかして言うと、エリオンは目を伏せた。
「悪かった。力、入りすぎた」
「ううん。⋯⋯嬉しかったんだよ?」
フィリアは、自分の胸に手を当てた。
「本能じゃなくて、“気持ち”であたしを守ってくれたの、わかったから」
尾がそっと揺れる。
エリオンの目が、フィリアを真っすぐに見つめていた。
「⋯⋯フィリア」
「ん?」
「怖いんだ」
「うん。知ってるよ」
「俺は、お前を巻き込む。本能がある。種の壁がある。⋯⋯それでも」
――それでも、手放せない。
言葉にできず、エリオンは尾でそっとフィリアの手首をなぞった。
「⋯⋯じゃあ、あたしも言うね」
フィリアは一歩、彼に近づいた。
「エリオン。あたし、“空気が読める”の。心の奥まで、けっこう見えるの」
「うん」
「だからね、あなたが“どれだけ我慢してたか”も、知ってる」
「⋯⋯っ」
「誰にも触れられないようにして、巻き付きたい衝動をずっと抑えて、
本当はずっと⋯⋯苦しかったんでしょ?」
「⋯⋯⋯ああ」
絞り出すように、エリオンは答えた。
フィリアは、その胸に顔を埋める。
そして、小さく囁いた。
「もう、我慢しなくていいよ。⋯⋯巻き付いて」
次の瞬間、エリオンの尾が彼女の腰に巻き付き――
抱きしめるように、そっと彼女を包み込んだ。
「離さない」
その言葉は、まるで誓いのように。
「⋯⋯うん。離れない」
鼓動が重なり、鱗の感触が肌に触れる。
けれど、もう怖くはなかった。
ギルド《銀月の帳》に戻ると、ティナがカウンター越しに笑顔で迎えた。
「おかえりなさーい。⋯⋯って、あら? なんか“空気”が違うわね?」
「⋯⋯黙って見守れ。大事な時期だ」
リリィが囁くようにティナを牽制した。
「おぉぉ⋯⋯なるほど。巻き付き済み、っと⋯⋯」
後方で聞いていたレイが思わず吹き出す。
「はっはっは! もう付き合ってんの? なに? ギルド公認でいいの?」
「煩い」
エリオンが低く言う。
「おわっ!? ごめんなさい! 命が惜しいんで!!」
レイが手を挙げて下がる。
「でも⋯⋯」
彼は少し真面目な顔になった。
「羨ましいよ。⋯⋯“怖い”のを超えて、一緒にいられるってさ」
フィリアは微笑み、エリオンの腕をさりげなく握る。
「“怖くない”って言ったの、あたしが最初だからね」
ジークも笑っていた。
「⋯⋯なら、俺たちは誓うしかないな」
「“銀月の帳”は、どんな異種族でも、どんな絆でも受け入れる。
そうだろ、カルド?」
「⋯⋯ん、聞こえてるぞ」
奥から現れたギルドマスター・カルドが腕を組んでうなずいた。
「正式に報告しておく。チーム・エリオン一行、今後もギルドの誇りとする」
小さな拍手がギルドに響いた。
ふたりの、ひとつの恋が――ようやく、認められた。




