古遺跡の罠と解けない距離 5
「⋯⋯会いたかったんだ」
フィリアの言葉が落ちた瞬間、エリオンの尾がぴくりと跳ねた。
長い蛇尾の先が、まるで彼自身の動揺を映すように、控えめに揺れている。
「⋯⋯そうか」
彼は低く呟いて、フィリアに視線を戻す。
朝日が差し込む中、その金色の瞳には、夜の残り香のような戸惑いが残っていた。
けれど、それでも一歩、フィリアに近づく。
「⋯⋯怪我、ないか?」
「ない。エリオンが守ってくれたから」
「それは⋯俺の勝手だった。あの時は⋯」
「本能でしょ?」
エリオンが言葉を詰まらせた瞬間、フィリアがそっと笑った。
「⋯⋯あたしね、本当は怖かったの。エリオンの尾が巻き付いたとき。
でも、それ以上に、嬉しかった」
フィリアは胸に手を当てる。
「だってあれ、本能だけじゃなかったでしょ? ⋯⋯“守りたい”って、そう思ってくれた」
「⋯⋯!」
その言葉に、エリオンの瞳が揺れた。
そして、彼の尾がまた小さく動く。今度は、フィリアに向かって。
「俺は⋯お前を巻き込みたくない。俺の中の“蛇”は⋯⋯欲深い。
一度噛みついたら、離さない。それは“愛”なんかより、ずっと――」
「だったら、噛みついてよ」
エリオンの言葉を遮るように、フィリアは強く言った。
「離さないなら、それでいい。⋯⋯あたしも、もう離れる気ないから」
小さな沈黙。
その間に、尾がするりとフィリアの足元に伸びて、彼女の足首に巻き付く。
「⋯⋯勝手に、巻き付くなよ」
エリオンが自嘲するように呟く。
「いいよ。⋯⋯巻き付きたくなるくらい、好きになってくれたんでしょ?」
もう、冗談でもなんでもなく。
フィリアは素直なままに、それを言った。
エリオンの表情が、崩れる。
「⋯⋯ああ。もうずっと前から、どうしようもないくらい、好きだった」
そして彼の尾が、もう一巻き、優しく、しかし逃さないようにフィリアの腰へと回る。
フィリアの頬が紅く染まったけれど、そのまま彼の胸に額を預けた。
「やっと言った。⋯⋯長かったなぁ」
「⋯⋯待たせて、悪かった」
「ううん。嬉しい。エリオンがちゃんと、“本音”で触れてくれて」
尾に包まれたぬくもりは、もはや本能ではなく、感情の証。
互いの体温が、境界を溶かしていく。
「⋯⋯フィリア」
「うん?」
「まだ巻き付き足りない」
「――んもう、好きにして」
フィリアの声は、照れくささと甘さが混ざっていた。
彼の尾が、彼女の腰をしっかりと包む。
優しく、でも絶対に、離さないように。
それはもう、“本能”だけじゃなかった。
“好き”という気持ちが、巻き付きの形で、ようやく言葉になった瞬間だった。
そしてその場面を、遠く木陰から見ていたのは――レイだった。
「⋯⋯うん。俺、生きててよかった。あれ以上競わなくてマジ正解だった」
隣にいたリリィがぼそっと呟く。
「恋って巻き付きなのね。⋯⋯勉強になるわ」
レイがちらりと視線を向ける。
「怖いなー。ああいう巻き付き、マジで命取るわ。いろんな意味で」




