古遺跡の罠と解けない距離 3
石の破片が崩れ落ちる音とともに、外から光が差し込んだ。
「フィリア! エリオン!」
ジークの声が響く。
「ジーク! こっち!」
フィリアが反応すると、すぐにリリィとレイの姿も見えた。
無事な姿に安堵が走る。
「遅くなってごめん。こっちは抜け道見つけるのに手間取ってさ」
「へぇ、こんなに崩れてるのに、よく見つけたわね」
リリィは相変わらず淡々としていたが、その目はわずかに優しかった。
レイはエリオンとフィリアの距離を見て、ふっと眉を上げる。
「⋯⋯なんか雰囲気いいな。閉じ込められてイチャついてた?」
「い、イチャ⋯⋯っ、ちがっ⋯⋯!」
フィリアの顔が爆発しそうなほど赤くなり、エリオンは黙って目を伏せた。
代わりにジークがレイの頭を小突く。
「お前な、デリカシーってもんを少しは――」
「いてぇっての。いやでもさ、ほんとちょっと距離縮まった感じあるよな?」
「⋯⋯別に」
エリオンはぼそりと呟きながら、フィリアの背に視線を投げた。
――巻き付いた尾の感触は、まだ彼の手に残っていた。
遺跡からの帰還後。
ギルド《銀月の帳》の談話室にて。
全員が椅子に腰掛け、無事を喜びながら温かい飲み物を口にしていた。
「しかしまあ、あの崩落。罠ってレベルじゃなかったな」
ジークが重い盾を壁に立てかけながら言う。
「ねー、しかも精神操作系とか趣味悪すぎ。あたしも結構ギリだったもん」
フィリアはカップを持ちながらも、まだどこか落ち着かない様子だった。
「お前、エリオンに守られたんだろ」
レイがひょいと口に出す。
「ちょ⋯⋯な、なんで知ってんのよ!?」
「いや、あの空気見たら分かるって。お前の目、完全に“惚れてます”って言ってたぞ」
「~~~~っ!」
「レイ」
エリオンの声が低くなる。
「っ⋯⋯わかった、撤退します」
レイは手を上げてさっと引く。
その一連のやり取りを、リリィはふんと鼻を鳴らしながら見ていた。
「⋯⋯まったく。鈍感な女と暴走寸前の蛇。本当に手がかかるわね」
その夜。
フィリアは、自室のベッドで天井を見つめていた。
身体はもう大丈夫なはずなのに、どうしても眠れない。
「⋯⋯エリオン、あたしを守って⋯⋯」
あの時の腕の力。尾の温度。耳元で聞こえた低い声。
(“お前を守るのは、俺の役目だから”)
胸が苦しくなる。
恋なんて、怖い。
でも、心はもう、彼を選びかけている。
気づいてしまった。
あの尾に、巻き付かれるのを――もう、拒めない。
「⋯⋯怖くないよ。もう、あんたの尾も、瞳も⋯⋯全部」
ぽつりと呟いたその言葉は、誰にも届かない。
でも、確かにその瞬間。
どこかで、エリオンもまた、同じ夜を眠れずにいた。




