古遺跡の罠と解けない距離 1
ザレム南の外れ、深い森の中に隠された古代の遺跡。
「ふむ⋯⋯石造りの通路、湿度高め、そしてこの“鈍い魔力の残留”⋯⋯予想通りだな」
レイが魔力探知の呪符を手に、前方を照らす。
「油断しないで。見えない罠が仕掛けられているわ」
リリィの冷静な声が響く。
今回の依頼は、遺跡内に眠る“古代魔導具”の調査と回収。
だが、この遺跡、過去に探索者が複数“行方不明”になっている。
「ジークは後衛に気を配って。俺とリリィで前方の探知、レイは魔力感知――」
「おーい、指示出すのはリーダーに任せなって。
⋯⋯で、リーダー? 今日の調子は?」
レイがニヤリと笑って、フィリアに視線を送る。
「へ? ⋯⋯え、リーダーってあたし?」
「だって一番軽快に動けるし、空気も読めるし、かわい――」
「そこまで! かわいいは関係ない!」
「俺は同意する」
「黙って、エリオン!!」
一行にいつもの笑いが戻る。
だけど、遺跡の中は――確かに“何か”が潜んでいた。
しばらく進んだ先、分かれ道。
右は光が差し込むが、左は完全な闇。
「どっちに行くかだな⋯⋯フィリア、どっちに“嫌な感じ”がする?」
ジークの問いに、フィリアはじっと目を閉じる。
「左。空気が“よどんでる”⋯⋯というか、気配が静かすぎる。何かが待ってる」
「⋯⋯なら、左だ」
エリオンが即答する。
「危険を回避するより、先に潰しておいた方がいい」
「わかった。みんな、気を引き締めて!」
フィリアが短剣を抜き、先頭に立つ。
暗がりの中――ふと、足元が沈んだ。
「――あっ!」
がしゃん!
フィリアの足元の床が崩れ、彼女の姿が下へと消える。
「フィリア!」
エリオンが即座に尾を伸ばした。
――間に合わない。
「クソッ⋯⋯!」
だんっ!
飛び込んだ。迷いはなかった。
彼女が落ちていった闇に、自らも滑り込む。
「⋯⋯んっ、いってぇ⋯⋯」
フィリアが目を覚ますと、硬い石床の上に寝転がっていた。
足元は軽く捻ったようだが、致命傷はない。
「無事か?」
その声と同時に、ぬるりと滑るような感触。
見れば、エリオンの尾が腰に巻き付き、体を支えていた。
「⋯⋯また、巻き付いた」
「お前が無事かどうか、確認しただけだ」
「言い訳が雑っ」
だが――その巻き付きは、どこか安心できた。
(あったかい⋯⋯)
ふたりきり、そして暗闇。
「⋯⋯ここ、上とは完全に分断されてるみたい。
魔法の通信も、さっきの崩落で切れた」
「⋯⋯抜け道を探そう。無理なら、合流できる地点まで戻る」
その冷静さが、逆にフィリアを不安にさせた。
(このまま、ふたりきりなのに――なんで、平然としてられるの)
ふいに、口を開く。
「ねえ、エリオン。⋯⋯あたしのこと、どう思ってる?」
「⋯⋯どう、とは」
「⋯⋯もうっ、だから、そういうとこ!」
叫んだ声が、遺跡に反響する。
「好きなら好きって言えばいいじゃん!
嫌いなら嫌いって⋯⋯って、いや、嫌いじゃないってのはわかってるけど、でもっ!」
エリオンは、しばし黙っていた。
そして、ゆっくりと――尾の力を緩めて、フィリアの体を包むように巻き直した。
「⋯⋯言葉より先に、こうしてしまうのが俺なんだ」
「⋯⋯」
「それでも、許してくれるか?」
その声に、フィリアは静かに頷いた。
「うん。⋯⋯だって」
「⋯⋯?」
「巻き付かれてるときの、あんたの顔⋯⋯すっごく優しいんだもん」




