夜を這うもの兄弟の罠 4
“銀月の帳”ギルド本部――
朝焼けに染まるその扉が、ゆっくりと開く。
「おかえりなさーい! お疲れ様でしたっ!」
ティナの元気な声が、少しばかり涙ぐんでいたのは気のせいじゃない。
「⋯⋯帰ったぞ」
ジークが大盾を肩に、力強く頷いた。
「おー、全員無事とか最高じゃん。俺が天才だったからなー!」
レイはいつも通りチャラく手を振っているが、どこかホッとした顔。
リリィは無言でふわりとティナの横を通り抜け、
受付カウンターの下から出した冷えた果実ジュースを皆に差し出した。
「よくやったわね。特に“蛇くん”」
エリオンは無言で受け取り、視線だけを返す。
リリィもそれ以上は何も言わず、ただ静かに微笑んだ。
――控室。
ソファに座ったフィリアは、エリオンの隣でストレッチをしながらぽつりと言った。
「⋯⋯エリオン」
「ん」
「今でも、怖い?」
その言葉に、エリオンはしばし目を伏せ――それから、首を横に振った。
「⋯⋯お前の手に、俺の尾が触れてる。
それで、こんなに心が落ち着くのは、初めてだ」
「⋯⋯じゃあ」
フィリアは、自分の腰に回っていた尾にそっと手を重ねた。
「これ、怖くないよ」
「⋯⋯ああ」
しばしの静寂のあと、ふいにフィリアが笑い出す。
「なに? ふたりして静かにしてると、なんか照れるんだけど」
「⋯⋯俺は、落ち着いてるだけだ」
「ふふっ。あんたが“落ち着いてる”って言うと、逆にドキドキするのなんでだろうね?」
エリオンは黙っていたが、尾がわずかにぴくりと動いた。
「⋯⋯! ちょ、動いた!?」
「反応しただけだ」
「それがドキドキって言うんだよ、もう!」
その日の午後――
ギルド会議室にて。カルドが一同を前に腕を組み、どっしりと告げる。
「ギリウとメロウ、そして背後にいた者たちの情報はすでにまとめた。
ギルド評議会にも提出する。⋯⋯今後、銀月の帳に“偏見と差別”を持ち込む者は許さん」
全員がうなずく中、カルドは一瞬だけ、エリオンに目を向けた。
「お前は、よく耐えたな。⋯⋯ありがとう」
「⋯⋯俺は、ただ守りたかっただけです」
「そういうのが、一番強ぇんだよ」
どこか嬉しそうに笑ったカルドが、椅子に腰を下ろした。
「さて――次の依頼が来てる。新しい冒険だ」
その言葉に、レイが手を挙げる。
「どうせまた、トラップだらけのダンジョンでしょー? 俺、今回はお休みでも――」
「許可しない」
即座にリリィが突き刺した。
「はいっ、行きますっ」
一同が笑い、肩をすくめるレイの背を叩くジーク。
フィリアとエリオンが目を合わせる。
その瞳には、もう“仮面”も“本能の檻”も、ない。
――ただ、隣にいることの温もりだけがあった。




