夜を這うもの兄弟の罠 3
巻き付く尾が、鋭い音を立ててギリウの腕を絡め取る。
「ぐっ⋯⋯!」
思わず呻いたギリウの足元、結界の魔力が乱れ、バランスを崩す。
「メロウ!!」
ギリウの叫びに応じて、暗がりから滑るように現れたもう一つの影。
「ヘイヘイ、待ってましたぁ!」
メロウの刃がフィリアに向かって飛ぶ。
だがその間に立ち塞がったのは――
「お前らの薄汚い偏見⋯⋯ここで終わりだ!」
ジークの盾が突き上がり、メロウの攻撃を受け止めた。
「う、うそ⋯⋯」
攻撃を逸らされたメロウの目が見開かれた瞬間、
後方から、レイの放った魔法が降り注ぐ。
「さぁ、踊れよ、【雷刃槍】!」
雷の槍がメロウの足元を撃ち抜き、魔力を封じる。
「兄ちゃん、魔術がッ⋯⋯!」
「⋯⋯クソが!!」
ギリウが、咆哮のように魔力を爆発させる。
瘴気が渦巻き、地下全体が軋む。
制御を失った魔術陣が暴走し、壁が崩れ始めた。
「エリオン、もう下がって! こいつ、自爆覚悟だよ!」
リリィが叫ぶ。だが――
エリオンは動かない。
「⋯⋯逃げていいなら、もう逃げてる」
その声は、静かで、冷たくて、そして――
あたたかかった。
「フィリアを⋯⋯俺の大切なものを、踏みにじろうとした奴を、俺は許さない」
その瞬間――
彼の身体に、黄金の紋様が浮かび上がった。
鱗。尾。瞳。牙。
半蛇化。
「お前たちが“化け物”と呼んだこの力で、俺は“守る”」
ギリウの眼前、獣のごとき咆哮が響いた。
蛇が地を這う。尾が風を裂き、鎖のように絡み、ギリウの全身を締め上げる。
「がっ、あ⋯⋯!!」
骨が砕ける音が、淡く響いた。
――そして、静寂。
崩れかけた天井の下。
フィリアは、巻き付いていた尾にそっと手を重ねた。
「終わった、ね」
エリオンは、かすかに頷いた。
「⋯⋯本能のままに怒った。でも⋯⋯暴走はしてない。できなかった」
「⋯⋯ふふっ。じゃあそれって――“理性が勝った”ってこと?」
「違う」
彼は、フィリアの手を取り、ぎゅっと包んだ。
「“愛したから、壊せなかった”んだ」
その言葉に、フィリアはほんの少しだけ頬を赤らめ、そっと笑った。
「巻き付かれても、もう怖くないよ。
⋯⋯だって、あんたの尾は“優しい”って知ってるから」
仲間たちが駆け寄る中、エリオンの尾が自然とフィリアの腰に触れる。
決して離れない。
だが、束縛ではない。
それは――
誓いだった。




