仮面を脱いだ瞳と迫る魔力の兆し 4
ギルド《銀月の帳》の朝は、いつもより少しだけ早かった。
魔力暴走の鎮圧報告が上がったことで、各チームがざわついている。
その中で、カルドはただ無言で報告書に目を通していた。
「⋯⋯リールとヴァル、再犯確定。ギルド規約違反、魔法の悪用、危険魔術の使用⋯⋯フルコースか」
書類をバン、と音を立てて机に伏せる。
「ティナ、追放処理と監視強化、頼む」
「はいよ、マスター。まったく⋯⋯“もう来ないでね♡”ってくらい言いたいわね、あの女」
受付嬢ティナが肩をすくめつつも、素早く端末を操作していく。
カルドは背を預けながら、ぽつりとつぶやいた。
「⋯⋯やっぱり、あいつらをザレムに入れたのが間違いだったな。フィリアが巻き込まれて、エリオンが“抑えた”からいいようなもんの⋯⋯」
そう。
“抑えた”のだ、エリオンは。最後まで。
それは“理性”でも“戦い”でもない、彼自身の意思だった。
その頃、チームメンバーはギルド内の一室で、久々に揃っていた。
「⋯⋯あー、やっと落ち着いたな」
ジークが大きく伸びをして、椅子にどっかと座る。
「いや〜、マジでフィリアやばかったな。あれ、もう“騎士団の剣”じゃん」
レイがからかうように言えば、
「騎士団なんて、もっと仮面の下で腹黒いわよ」
と、リリィが毒を返す。
「⋯⋯でも」
そのリリィが、ふと真面目なトーンになる。
「“終わった”って、思わないでね。あれは始まりだわ」
全員の視線が彼女に集まる。
「私、予兆を見た。
“赤い目”と、“白い獣”が夜を割く。⋯⋯そのとき、銀月の帳が試される」
「⋯⋯それ、未来?」
フィリアが尋ねると、リリィはゆっくり頷いた。
「……おそらくは、そう遠くない未来。
“誰かが再び、仮面をかぶり、本能に飲まれかける”⋯⋯そんな風景が、ちらりとだけ、見えたの」
静寂が落ちる。
やっとひとつの戦いを超えたばかりのチームには、少し重たい言葉だった。
けれど、フィリアは笑った。
「⋯⋯大丈夫。今度は、ひとりじゃないし」
エリオンもまた、その隣で静かに微笑んでいた。
――本能を乗り越えて掴んだ、たった一人の“居場所”が、そこにあった。
そして、窓の外――夜がまた、訪れようとしていた。
銀色の月が空に昇り、優しく彼らを照らしていた。




