仮面を脱いだ瞳と迫る魔力の兆し 3
リールの魔力が、暴風のように吹き荒れていた。
「フィリアァ⋯⋯!あんたはあたしの下にいるのが一番幸せなのよッ!」
リールの叫びは、まるで呪いのようだった。
フィリアは、剣を構えたまま微動だにしない。
その瞳にはもう、怯えも、戸惑いもない。
「違うよ、リール。⋯⋯私は“選ぶ”側だよ」
――私はもう、誰かの下に屈するつもりなんか、ない。
バチィンと魔力が弾け、リールが魔法陣の上に舞い上がる。
「またあたしを否定するの!?またあんたは“かわいそうなフリ”をするのね!!」
「⋯⋯かわいそうだったよ、あたし。でも、今は違う」
フィリアの言葉はまっすぐだった。仮面も、笑顔もない。
「私は、仲間と一緒に笑って、泣いて、迷って⋯⋯そして今、ここで“決める”んだ」
剣が鳴った。風が吹いた。
「リール――もう、終わりにしよう」
その瞬間、リールの魔法がフィリアを貫こうと走った――
が、それより速く、黒紫の尾が空を切った。
「そこまでだ」
冷たい声が落ちた。
エリオンだった。
フィリアに迫る魔法を、尾で叩き落とし、そのまま地面に巻き付けて封じる。
「⋯⋯エリオン」
「俺が先に、言うべきだった」
フィリアが小さく息を呑む。
「“俺は、お前を守りたい”――それはもう、理屈じゃない。本能でもない。⋯⋯俺の、選んだ意思だ」
言葉とともに、彼の瞳が柔らかく光った。蛇のように冷たい黄金が、今は温もりを宿している。
「それでも⋯⋯俺と一緒に、いてくれるか?」
静寂の中で、フィリアは笑った。
仮面じゃない。心からの、笑顔だった。
「⋯⋯やっと言ってくれたね、巻き付き男」
その言葉とともに、彼女の剣がリールの魔法陣を一刀両断した。
術式が砕け、リールの悲鳴が闇に消える。
ヴァルがその場に膝をつく。
「⋯⋯クソが⋯⋯ッ!」
そこへ、遅れてジークとレイが到着。
「っとと、間に合った?」
「いや⋯⋯もう終わってるみたいだな」
ジークが唸るように言い、レイは肩をすくめる。
「ったく、あの二人⋯⋯もう完全に夫婦かよ」
リリィは溜め息をつきながらも言った。
「⋯⋯やっと、仮面も本能も、捨てられたのね」
空はすでに夜明け前。
フィリアは、そっとエリオンの尾に触れる。
「エリオン、あたし⋯⋯あなたに噛まれてもいいよ」
その言葉に、エリオンは驚き、照れ……そしてゆっくり尾を彼女の腰に巻いた。
「⋯⋯じゃあ、もう離さない」
そして夜が明けていく。
“仮面を捨てた少女”と、“本能を超えたラミア”は――共に歩き始めた。




