縛られた過去と解けない尾 5
翌朝、ギルド《銀月の帳》に静けさが戻っていた。
⋯⋯いや、表面上は、というべきかもしれない。
リールとヴァルが正式にギルドから追放された――それはあっという間に広がった噂であり、数ヶ月ぶりに訪れた“喝采と沈黙”の混在でもあった。
「いやあ、さすがギルドマスター。最後の『わしが言ってもいいんじゃろな?』ってあの一言、鳥肌立ったわ」
ティナが目を輝かせながらカウンターで語る。
その向こうで、カルドが渋くコーヒーをすすっていた。
「ふん⋯⋯あれくらい当然だ。こっちは何ヶ月も目を光らせてたんだ」
「でもエリオンの巻き付き、綺麗に極まってたなぁ。いやあ、あれ映像で残ってたらギルド掲示板の人気トップだよ」
ティナがにまにまと笑うのを、カルドは肩をすくめて受け流した。
「ったく⋯⋯これだから若いのは。⋯⋯だが、悪くない」
その言葉は、確かに今の彼らのチームへ向けられていた。
一方その頃、チームメンバーたちはギルド裏の小訓練場にいた。
リリィが魔力の結界を展開しながら、ぽつりと呟く。
「⋯⋯まあ、少しはマシになったわね。人間関係、ってやつも」
その言葉に、ジークが苦笑する。
「おいおい、相変わらず毒舌だな。リリィさんよぉ」
「事実よ。私は“無駄な”仮面が嫌いなの。⋯⋯あの女の、嫉妬と偽善が一番鬱陶しかった」
フィリアが笑いながら頷いた。
「分かる~、リールってさ、“自分のことは棚に上げる”の天才だったよね」
「天才というより、病気」
「ぶっくくっ」
レイが笑いながら横から入ってくる。
「いやー、でもフィーちゃんマジでかっこよかったって。俺、ちょっと惚れたもん」
エリオンが横目でじろりと見る。
「⋯⋯やめろ」
「はいはい、すみませんでしたっと」
レイは両手を上げて降参のポーズ。だが、次の瞬間には真顔になる。
「でもさ。俺たちも、気を抜くには早すぎるかもよ?」
その空気の変化に、全員がレイの方を向いた。
「何かあった?」
フィリアの問いに、レイは頷く。
「ギルドの外で聞いた話。どうやら“差別主義者たちの残党”が、少しずつ別の都市に集まり始めてるらしい」
「⋯⋯リールやヴァルの背後にいたような連中か」
ジークの声が低くなる。
「うん。でも“そいつら全員がただの小物”ならいいんだけど⋯⋯中には《元暗殺者》や《対異種族戦闘特化の傭兵》も混ざってるっぽい。これは、ちょっと面倒になるかもしんない」
全員の表情が引き締まった。
静かな日常は、一瞬の嵐の前の静けさに過ぎない。
その夜、フィリアはエリオンの隣で小さな声を漏らした。
「ねえ⋯⋯あたしたち、また巻き込まれそうかな?」
エリオンはしばし黙ってから、尾をふわりと彼女の背に絡める。
「⋯⋯巻き込まれても、今度は離さない」
その言葉に、フィリアの目が細められる。
「“巻き付き”ってさ、本能ってだけじゃないんだね」
「⋯⋯ああ」
「じゃあさ、次は“あたしから”巻き付いてみてもいい?」
思わずエリオンの尾がぴくりと震えた。
――次の嵐が来る前に。
この“静かな繋がり”を、もっと強く、もっと温かく――




