42何か
薬都から出てまた、顔も無くさ迷う。
お別れはした。
もう師弟ではなく、他人。今度こそクラウは居ない。
多分都合が良い時は使うけど。
ああ、つまらない。
重くても、ゆらゆらと何かが有った。
それが、何か分からない。
分からないから面白くない。
自分は何がしたいのかも分からない。
自分は何を考えているか分からない。
人は嫌い。だって辛くなる。
それだけ分かった。
数十年とあちらこちらさ迷った。
〈体術〉は50を超えたし、〈隠密〉〈気配感知〉も50を超えた。
少し位町や街道から離れた魔物も大丈夫。
人は怖いが、人の作る安全地帯を頼る。
笑えない。
まだまだ独りで生きられない証拠。もう少し離れてみよう。
「……、誰?」
「!」
気付かなかった。
「グルルルゥ。気付かぬか?」
「そっちこそ、誰?」
「うん?……我は"存在する何か"と呼ばれている。さあ、我は名乗ったぞ」
「……自分は"移り変わる何か"と呼ばれるが、名前は別」
この数十年で、違う姿であちこちに現れる、けれど時期的に同一の存在だと知られて、名付きみたいな呼び名が付いた。
「ほう。では、何か同士少し語らっていかぬか?我が声をかけて気付く者も久しい」
〈隠密〉レベルが高すぎて、声をかけても気付かれないのか。人が普段、草木の囁き、小川のせせらぎを意識しない様に。
「"存在する何か"はなに?」
「ふむ。"移り変わる何か"は自分を正確に説明出来るのか?」
「!」偽装に気付いた?
「?我は混系、木影竜。だが、種族が分かった所で何に成ると言う?まあ、そう警戒するな、"存在する何か"と言う名にかけてそなた、名は?」
「……。コウ」
「我"存在する何か"は名にかけてコウを害する事はないと誓う」
「良いの?名に誓うと魂ごと縛られる」
「我は退屈して居たのだ。そなたが我を殺すのもまた、一興。それに、そなたも暇なのだろう?」
「……」
「くっくっ。我は5度の進化を経て、時間が有り余ってしまっての。年寄りに付き合っておくれ、コウよ」
「分かった。……5度の進化……ランク6!?千年生きるの?何年生きた?」
人魔はLvを上げたのでは無い特殊な進化だった。
「今、537歳だの。我は800歳を過ぎたランク6の魔物に会った事は有る」
「500……。そんなに長い間何するの?」
「……。我は特別臆病でなあ。弱い者ばかりを奇襲して居った。そうしていれば自然、死ぬことは無くここまで生きて来た。まあ時には人の巣の近くに行きすぎて名が付いたがの」
「……」
「名が付き、自我が出来てこれまで生きる事しか考えてこなんだ事に気付いたよ。今は沢山を思う。友とも出逢った。単調だった物に起伏の付くことの愉快さを知ってしまった。……そなたも同じか?」
「いや。その起伏を無くしてしまえばどんなに楽かと考えている。自分は生きたい。あなたが自分を害する事はないと分かっていればこそここにいる。ただただ、死にたくはない」
「……。若いの……。生きる事と死ぬ事は違う。名を持たぬ魔物は生きて居ると思うか」
「?魔物は生き物じゃない」
「くくっ。元魔物に対してよう言うわ」
「……"存在する何か"という名を持って生まれたのだろう?」
「成る程?そうだのう。魔物は生き物ではない、それを生き物にするのが……何だ?」
「生き物にするもの?名前」
「そうではない。名前をきっかけに本能以外の思考や感情、人格というものが生まれるだろう?」
「理性と感情。人格」
「そうだ。先にそなたが切り捨てたいと言った物だ。我がそれを持って生まれたと言ったな」
「え?」
「魔物は生きて居ない。そなたは死にたくない。では生きる、死ぬ、と言うのがどういう意味を持つのかよく考えよ。否定は簡単だが肯定は難しいぞ?」
「……」
「」
「……"存在する何か"?」
「」
「居なくなった」
自分にとって生きる、死ぬ。
死ぬ事は自分が無くなること。簡単だ、自分が続いていく事は生きる事。
自分って何?
自分って加己野空、これは名前。コウ、これは名前。ゆき、レイン、ダミー、ゴンーベー、ジョン、クラウ、天邪鬼、全部名前。自分にとってはただの記号。自分の一部?
人型もスライム状も魔物の姿でも自分。自分の一部。
人が嫌い。
自分が好き。
誉められたい。
無視しないで、こっちを見て。
否定されるのは嫌だ。
自分を認めて欲しい。
全部自分。自分の名前、身体、感情。
感情、そう言えば誉めて欲しい。どうして独りに成ろうと?
本当は殺される。死ぬ事よりも自分を殺される事が怖かった。
そうだ。
死ぬ、つまり殺される事は自分の否定。
生きる事は自分で有ること。なら、確かに自分を抑えて魔物に成るのは違う。
思うままに生きる!たぶん。
じゃあ、町に行こう。
そうだよ。自分は結構強くなった。人じゃあ敵わない位。否定の言葉は聞かなきゃ良い。うん。完璧。
町の方が自分を誉めてくれるかもしれない。
また、適当に称号持ちになって認めさせよう。
称号持ち。良い。とても優越感を覚える制度だ。
すみません。
何か、壊れました。
正直、人が独りと言うのもストレスだったのだと思います。
小混(幼虫)→葉虫→芽蛇→木蜥蜴→木影竜
葉虫、葉に擬態し、毒で弱らせる。
芽蛇、やっぱり植物の芽に擬態し、毒持ちの牙で奇襲。
木蜥蜴、木に擬態し、襲う。トレントじゃない。
木影竜、背中に木を生やした小山の様な竜。竜だと誰も気が付かない。主人公は背中で話した。




