二章
『この動画を見て下さっている皆様へ、
今までのたくさんの応援ありがとうございました。この動画は私が死んだ3日後に自動的にアップされる事になっています。
皆さんに支えられて、楽しくフィギュアをやれていた事、まるで宝物のような毎日でした。
それでも自殺に至った経緯ですが、数ヶ月前での怪我による影響が主な要因です。
思った通りに結果が出ない日々が続き、
出来る事なら、もう一度宝物に触れたいと
足掻くような毎日でした。
そしてフィギュアスケートを続ける事が苦痛になるのが嫌で、この決断に至りました。
最後に、今まで応援してくれたファンの皆様へ
長きにわたる応援、ありがとうございました。
その応援が、確かに私を救う事がなん度もありました。
関係者各位の皆様、最後に自殺という手段を無断で行った事、申し訳ございません。
それでは、今までありがとうございました。』
画面の中の親友は、何度再生しても同じ言葉を繰り返す。
水月の指はその動画のコメントを開いていた。
「結局なにがしたかったの?目立ちたいだけ?」
「自分可哀想話すぎてしんどいわ」
「なんで生きたくても生きられない人がいる中で自殺出来るのかが分からない。命の価値を考えろよ」
「まって00:03に人の影映ってない???」
「自殺前の動画としては冷静すぎね?やっぱ他殺か」
「まぁ美人だもんな。数年後に売られたりしてたらワロえないwww」
「流石に桜ちゃんが可哀想じゃないですか?
子供をこんなに叩いて何が楽しい??」
「このコメント欄グロすぎて草www」
「お前ら17の時何もしてないだろwww」
桜の行動を貶す声、まるでミステリーを見ているかの様に動画を考察する声、それらをまた別の誰かが嘲笑する声。
そんな薄汚れた匿名の波が桜への追悼を少数派にしていく。
(あの時の記者も、こいつらも、桜の死をエンタメとしか見てない。そんな奴らが真実を先に知るなんて...許せない!)
水月は右上のバツ表示を強く押し込んだ。
そして、机のノートに目を映す。
そこには桜の遺書の内容が事細かに書かれていた。
遺書の動画を見ていない人でも、読めばそれが再現出来る程に書き込まれたノート。
その上で水月はペンを走らせる。
(桜が私に何の相談もなしでこんな事するはずが無い...これは確信できる。そんな事する性格じゃないのは私が誰よりも理解してる。
...なら、何かを伝えようとしている?一体何を...?)
水月はもう一度、遺書の動画を再生し直した。
穴が開くほど見続けた動画では、新たな発見は得られない。
桜に関係する人にも話を聞いたが、期待していた答えは返ってこなかった。
(桜...あんたは何を...)
その時、水月は画面を止める。
ほんの少しの違和感。何度見返しても、道端の小石程にしか思えなかった一つの言葉に足が引っかかる
(宝...物...?)
水月の脳内に、あの日の記憶が蘇る。
夏のある日、外が暑すぎてコーチに無理言って
暗くなるまでリンクに残ったあの日....
『作文とか訳わかんなすぎて全然やる気出なかったから、助かった!』
『あー自分にとっての宝物...だったっけ?』
『そうそれ!何も思いつかなくってさぁ...
ねぇ、桜はなんで書いたの?』
『私は...』
水槽に入れた金魚の餌の様にバラバラに浮かんでいた思索が集まり、一つの形を成し始める。
水月は、それが形を得る前に駆け出した。
確かに覚えていた、あの答え。
宝物の眠る、あの場所へ。




