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③外崎透は出来れば避けたい

 真っ先に思いついたのは、窓を開けることであった。鍵が掛かってしまっているから開けられないようだが、諦めるのはまだ早い。


 先程は窓を横に引いて開けようとして動かなかった。ならば窓全体を上下に揺するのはどうだろう。掛かっているのはクレセント錠である。クレセントという名の通り、よくある三日月形の鍵だ。つまみを下から上へ持ち上げて回転し、留め具に引っ掛かる仕組みである。

 つまり、上下の運動で鍵が掛かっているのだ。

 ならば、窓を上下に揺らすことで錠を外すことは出来ないだろうか。

 私は両手を窓のフレーム(ガラスをはめ込んだ、框や桟と呼ばれる部位)に添えて、上下に動かそうと試みる。

 びくともしない。建て付けが悪いから、完全に閉まると窓が窓枠にはまり込んでしまうらしく、僅かにも動いてくれない。だから窓自体を外すことも、どうやら出来ないらしい。軽く叩いたり、試みにノックしてから再び試してしてみても、状況は変わらない。やはり建て付けが悪いからだ。憎い。建て付けの悪さが憎い。


 窓から脱出するのは不可能だ。


 では違う方法はあるだろうか。


 左右の隔壁板は論外である。繰り返しになるが、隔壁板を破った時点で弁償が発生するだろうし、隣の住民に助けを求めても警察に通報される恐れすらあり、そうなると「穏便に済ませたい」という私の方針と真逆の結果に辿り着いてしまうだろう。

 助けを求めるにしても、最少人数かつ安全確実に実行する必要がある。勿論、大声で助けを呼ぶのは憚られる。


 そこで気が付いた。私は思わず手の平で顔を覆い、自分はなんて馬鹿なんだと自嘲する。


 スマートホンを使えばいいじゃないか。


 スマートホンで、外部に助けを求める。管理会社に電話するか。あるいは友人を使う手もあるだろう。友人を使うなら今波がいい。英語の宿題を見せてやることになっているから。

 …しまった。

 先程、今波と電話をした私はどうしたか。晩酌中に電話が掛かってくると鬱陶しいと思い…スマートホンを枕元に置いてしまったのだ。


 スマートホンは封じられた。窓と左右の隔壁板も破れない。


 ということは、残された手段は外への脱出しかない。




 私はベランダの手すりに捕まり、空を見上げる。田舎の空は星がくっきりと浮かび、こんな時でも私の心を楽しませてくれる。

 星空から視線を下げていく。電柱、道路を挟んで対面の住宅、そして駐車場。


 私の部屋はアパート3階。ここから地上まで5~7m程度だろうか。仮に落ちたとしても、死にはしないだろう…当たり所が悪くなければ。しかし落ちたら大怪我は避けられない。骨折する可能性もある。

 当たり前だが、ただ落ちるだけではいけない。

 ではこのベランダからどうやって脱出すれば良いだろうか。

 例えば…手すりを掴んで腰壁に上る。懸垂の要領で腕を思い切り伸ばして2階ベランダの腰壁を目指す。私の身長は170cm。腕を限界まで伸ばせば2階の腰壁上辺(というか手すり)に足が届くだろうか?…届かない気がする。その場合、腕の筋力で体を振り子の如く揺らし、2階のベランダに上手く着地しなければならない。今の時間なら、2階の住人が外を覗いている可能性は低いだろう。2階ベランダに侵入した私は、そのまま同様にして、1階を目指す。地上に到達し、晴れてハッピーエンドというわけだ。


 …上手くいくとは思えない。私はスポーツ選手やスタントマンではないからだ。


 しかし発想自体は悪くないかもしれない。そう、こうやってベランダから外へ脱出する方法は、映画やアニメで見たことがある。警察に追い詰められた犯人はベランダから外へ脱出しようとして。


 ロープを使っていた。


 当然、私はロープなど持っていない。ならば、ロープに代わる物はないだろうか。


 映画の泥棒は、カーテンを結んでロープ代わりにしていた気がする。カーテンは部屋の中だからその手は使えないが…


 私はベランダを見回した。あるのは室外機、その上に置かれたトレイ。トレイには飲み干したビールの缶と、空の皿、箸。他にあるのは、洗濯物を干すための、物干し竿のみ。


 物干し竿は使えない。せいぜい2m弱しかないから地上まで届かないだろうし、仮にこの物干し竿が10mの長さを誇っていても、物干し竿を固定する紐がないのである。


 そう、あるのは物干し竿のみだ。


 …先程までそこには、洗濯物が干してあった。

 しかし、晩酌をする前に「興を削ぐから」という理由で部屋の中へ取り込んでしまった。

 …もし洗濯物が干してあったままなら、それら洋服を結んで繋げ、ロープのようにすることも出来ただろう。今の時期は長袖長ズボンだから結んでいけば長いロープを作れたはずである。


 そう、例えば、長袖長ズボンの洋服3着程度と、物干し竿を結びつければ、3階ベランダから地上へのロープを作れそうなのだ。


 洋服3着程度…


 私は酔いの回った頭を垂れて、自らの体を見下ろした。

 私はジャージを着ている。上下2着と、そしてジャージの中には長袖のシャツを1枚。

 ()()3()()




 …今着ているジャージとシャツを脱いで結び、さらに物干し竿を繋げれば、地上まで届くかもしれない。手すりに服を撒きつけて、一番先には物干し竿を結んで、地上へ垂らせば。


 馬鹿な。


 何を考えているんだ。それでは私は裸になってしまう。服を全て脱いでロープを作って脱出するなんて…裸でロープにしがみついて地上まで降りろというのか?

 いや、ありえない。

 私のモットーは何事も「穏便に済ませること」である。

 仮に私が裸でロープを使って地上まで降りるとして、誰かに見られたらどうするのだ。「変な奴がいる」じゃすまないだろう。不審者として警察に通報されるのがオチである。というか実際そんなことをする奴がいたら不審者である。

 見られなければいい?今は夜だから?

 確かに今は夜で、ここは田舎だ。人通りも皆無だろう。

 しかしである。ベランダの対面には住宅が並んでいる。また、道路には街灯があり、このアパートを照らしているのだ。たまたま誰かが通りかかったり、対面の家の住人がふと窓を覗いただけで、私が裸でロープにしがみついている姿が見られてしまうではないか。

 そう、これはリスクが大きすぎる。私のモットーは「穏便に済ますこと」である。こんなリスクを負うくらいなら、翌朝まで待って住民に助けてもらう方がよほど「穏便」に違いない。

 私が、何もしないという選択に納得しようとしていた時、目の前が暗くなった。


 …街灯が消えたのだ。この辺りの()()()()()()()()1()2()()。今、12時になったところなのだろう。決して眩しい街灯ではなかったが、光源が一切なくなると、街の景観はガラリと変わる。対面の住宅に明かりはなく、唯一の光源である街灯が消えた今、このアパートを照らすものは何もない。




 …()()()()()

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