現在「18」
険しい形相をして入ってきたのはリサだった。
手にはナイフ。
私は咄嗟に双子を背に隠した。
「2階に行きなさい。」
できるだけ落ち着いた声で言う。
けれど、双子達はそろって首を振り、イヤだと言った。
「お願いだから、2階に・・・。」
目の前のリサの目は完全に狂っていた。
「どうして?どうして、私とアスランの仲を邪魔するの?あれだけ妨害したのに、どうして今になって、また距離を縮めるの?」
リサはつらつらと自分がしてきたことを述べていた。
心のほんの片隅で彼女を信じたいと思っていた心は砕け散った。
「その子達は、私とアスランの子供なのに、どうして、エヴァが育ててるのよ!」
後にいる双子がギュッと服を掴んでくる。
「リサ、落ち着いて・・・何か混乱してるのよね。」
「私は正気よ。どうして、私とアスランの幸せをあんたなんかが奪うの?お金も地位もない、ブスのくせに、どうやってアスランを誑かしたの?処女でもチラつかせた?彼を一瞬でもあんたなんかに貸すんじゃなかった。」
彼女が横に振った手が置いてあった花瓶に当り砕けた。
「アスランは、私の男なの。アスランが居ないとホーク家はお仕舞い。お父様が言ってたの、リサには暖かい家庭を与えてやれなかったけど、アスランはリサのもの。アスランとなら幸せな家庭が築けるよって、だから、アスランは私のものなのに!」
私は、じりじりと彼女との距離を保ちながら、双子を奥の部屋へと押しやり、ドアを閉めた。
「母さんっ!」
ブツブツ言っているリサは、私に時間をくれた。
ドアにつっかえをして、子供たちが出てこれないようにした。
「リサ、貴方はおかしくなってる。こんなことしちゃいけない。」
「私は何処もおかしくなんかないっ!あんたさえいなければ、何もかも私のものだったのに!」
飛び掛ってきたリサを避けて床に倒れた。
彼女も勢いに押されて倒れたけど、物凄い勢いで立ち上がってきた。
子供達を守らなきゃ。
「リサ、話し合いましょう。」
子供達が入っている部屋から遠ざけなきゃ。
じりじりと距離と詰めさせて、逃げる。
家具に躓きながらも狭い部屋を逃げた。
けれど、私はダイニングのテーブルに足を捕られてしまった。
「死ねぇ~!!」
背中に感じる彼女の怒号。
けれど、覚悟した痛みは襲ってこない。
瞑っていた目を開けると影になっていて、振り仰ぐとそこには、銀色の髪をした彼が立っていた。
「ア、アスラン・・・どうして・・・?」
掠れたリサの声。外では警察のサイレンが聞こえてきた。
「リサ、いい加減にしろ!現実を見ろ!!」
ポタポタと床に落ちる赤い液体。
ハッとなり体を起こす。
アスランは、リサのナイフの刃を握っていた。
どかどかと入ってくる警察。
彼女は、最後の抵抗とばかりに叫び声を上げながら連行されていった。
「エヴァ、怪我は?」
振り返った彼が床にナイフを投げる。
私のことより、アスランが・・・。
「俺は大丈夫、かすり傷だ。子供たちも無事か?」
ドンドンとドアを叩く音。
警察の人が椅子をどかして開けてくれた。
「「母さんっ!」」
双子は駆けてきた。
子供らしい泣きべそを浮かべた彼らを抱きしめた。
「「母さんのバカっ!」」
ステレオで怒られた。
ごめんね、でも母さんはお前達を守りたかったの。
「アスラン・・・怪我したの?」
ルークの声に我に返った。
私はアスランの手をタオルでグルグル巻きにした。
「これは、母さんを守ってつけた傷?」
「・・・ああ、そうだ。」
交互に私とアスランを見ないで。
「テレビで言ってたことは本当?」
「本当だ。」
「アーサー!・・・救急車を呼ぶわね。」
立ち上がる私を彼の手が捕まえる。
「大丈夫だ、そんなに深くない。」
バカ、そんなわけないでしょっ!
「俺が情けなかったばかりに君を傷付けて、一人で産ませてしまった。許してくれなくていい。ただ、君を愛し続けること、子供達の父親としての義務を果たすことだけは許可をくれ。」
青い瞳がそこにあった。
昔から恋焦がれていた瞳。
「父さんも母さんもいた、田舎の人達も助けてくれたもの、一人じゃなかったわ。」
我ながら素直じゃないと思う。
けれど・・・。
「分かってる。オバサンが来た時に君の事を尋ねもせずにいたのも悔やんでたんだ・・・。」
彼は今、素直な心を私に示してくれている。
私も答えなきゃいけないんじゃないの?エヴァンローズ!
「あ、貴方がいなくて淋しかった。悲しかった。けれど、リサのために会っちゃいけないって・・・子供のことを知らせた手紙にも返事はなかったし・・・。」
二人してリサに言いように踊らされた。
もっと素直に心を打ち明けていれば、リサに付け入られることもなかった気がする。
「あと、7年。」
ふいに聞こえてきた子供の声。
「ボク達が生まれて今まで7年、今から同じ分だけずっと変わらぬ気持ちで居られるなら、母さんと結婚していいよ。」
「ルーク!!」
突然の言葉にオロオロしているとアスランは双子に笑いかけた。
「7年?そうしたら、俺は君達の父親になれるのか?」
「アスラン、本気にしないで。私の気持ちは何も決まってないのよ。」
「それでも、俺はアーサーとルークの父親に、君の夫に・・・いつかなれたらと思ってる・・・。」
彼の本気が心を揺さぶる。
色々あった、お互いに悪いところがいっぱいあった。
そのせいで、この子達を心配させてしまった。
「私も、いつか・・・そうなれたらと思うわ。」
今はこれが精一杯の答え。
それでも彼は笑ってくれた、昔の頃のように。
いたらぬ作者に加えて、いたらぬ主人公二人。
こんなヘタレな二人になるとは思って居なかった連載当初。
紆余曲折ありましたが、これが精一杯です。
沢山の御意見、御感想を頂きました。
ほんまに嬉しかったです。
ありがとうっ!