第三話 勇者、完全にやらかしたと気付く
第三話です。
勇者パーティ、
じわじわ「誰を追放したのか」を理解し始めました。
でもレイン本人だけは、
まだ「自分はちょっと力持ちなだけ」くらいに思っています。
たぶん一番危ないタイプです。
よろしくお願いします。
パチ……ッ。
焚き火の音だけが響く。
誰も喋れない。
空気が重い。
重すぎる。
勇者アレスは、
冷や汗を流しながら目の前を見ていた。
魔王エルセリア。
世界最強。
国家崩壊級。
その存在が。
「師匠、今夜は冷えますのでこちらを」
「お、ありがと」
毛布をかけていた。
「師匠、お腹は空いてませんか?」
「ちょっと空いた」
「すぐ作ります」
世界最強の魔王が。
料理を始めた。
アレスの脳が理解を拒否する。
(なんなんだこれは……!?)
しかも。
エルセリアの動きが妙に慣れている。
手際が良い。
野菜を切る速度も異常に速い。
ミリアが震えながら呟く。
「……魔王、料理できるんだ……」
「当然です」
エルセリアが真顔で答えた。
「師匠に叩き込まれましたので」
「いや普通に生きるなら必要かなって」
レインは苦笑する。
その会話だけなら平和だった。
だが。
アレスたちは気付いてしまう。
魔王。
料理。
師匠。
つまり。
(こいつ……魔王育成してないか?)
リリアが青ざめる。
終わっている。
色々終わっている。
「はい師匠、できました」
「うわ、美味そう」
差し出されたのは、
湯気の立つシチューだった。
良い匂いが広がる。
ぐぅぅ……
その瞬間。
アレスの腹が鳴った。
最悪だった。
死ぬほど恥ずかしい。
空気が止まる。
エルセリアが、
スゥ……っと視線を向けた。
赤い瞳。
完全にゴミを見る目。
「……虫にも空腹という概念はあるんですね」
「おい待て」
アレスの顔が引きつる。
「いやでもその……」
「エル、ダメだって」
レインが止める。
「仲間だったんだから」
その言葉。
エルセリアの眉がピクリと動いた。
「師匠」
「ん?」
「その方々、本当に仲間でしたか?」
静かな声。
だが。
怒りが滲んでいた。
「師匠が寝込んだ時、
看病していたのは誰です?」
「え?」
「師匠が毒を受けた時、
薬草を探していたのは誰です?」
「えーっと……」
「装備の修理。
荷物整理。
食事。
魔物知識。
魔力制御の助言」
エルセリアが冷たく言う。
「全部、
師匠がやっていたのでは?」
アレスたちが固まる。
言い返せない。
なぜなら。
全部事実だった。
「いや、でもレインは戦えないし……」
アレスが苦し紛れに言った。
その瞬間。
エルセリアが笑った。
ゾッとするほど冷たい笑み。
「戦えない?」
次の瞬間。
ズドンッ!!!!!!
空気が爆発した。
「がっ……!?」
アレスたちが地面に叩き伏せられる。
威圧。
ただ立っているだけで、
呼吸ができない。
「師匠は、
あなた達程度なら視線だけで消せますよ」
「え……?」
レイン本人が一番驚いていた。
「俺そんなことできるの?」
「できます」
「できません」
「できます」
「えぇ……」
レインが困惑している。
だが。
エルセリアは真顔だった。
「昔、
師匠が欠伸しただけで山脈が崩れました」
「それ絶対偶然じゃない?」
「偶然で山は消えません」
リリアの顔色がなくなる。
ミリアは半泣きだった。
アレスは。
ようやく理解し始めていた。
自分たちは今まで。
とんでもない化け物に守られていたのだと。
そして。
その化け物を。
自分たちの手で追放したのだと。
読んでいただきありがとうございます!
今回はエルセリアによる
“師匠自慢&公開処刑回”でした。
勇者パーティ視点だと、
後から全部繋がっていくのが恐怖です。
「あれ全部レインがやってたの……?」
ってなる瞬間が好きです。
次回、
ついに“元弟子その2”が現れます。




