第二話 最強の魔王、師匠に土下座する
追放された雑用係、第二話です。
魔王が出てきたら普通は絶望するんですが、
この作品は「魔王が一番弟子」なので方向性がおかしくなっています。
そして勇者パーティは、
まだ“本当にヤバい存在”を理解していません。
よろしくお願いします。
夜の森。
冷たい風が木々を揺らしていた。
その中で。
世界最強の魔王エルセリアは、
地面に跪いていた。
「――師匠」
誰も動けない。
勇者アレスは口を開けたまま固まっている。
賢者リリアの杖が震え。
聖女ミリアは顔面蒼白だった。
「え……?」
間の抜けた声を出したのは、
当のレインだった。
本人だけが、
状況を理解していない。
「あれ、エル?」
魔王エルセリアが顔を上げる。
その赤い瞳が、
一瞬で潤んだ。
「お久しぶりです……ッ!」
「わっ」
次の瞬間。
魔王が飛びついた。
災厄級の魔力が森を揺らす。
だが本人は完全に大型犬だった。
「師匠ぉぉぉぉぉ!!」
「ちょ、苦しい苦しい!」
アレスたちは絶句している。
魔王。
世界を半壊させた存在。
国家連合が総力を挙げても止められなかった怪物。
それが今。
泣きながら抱きついていた。
「会いたかったです……!」
「いや、三年ぶりくらい?」
「師匠にとっては三年でも!!
私にとっては永遠でした!!」
「重い重い」
レインは困ったように笑う。
その様子を見て。
アレスの背中を、
嫌な汗が流れた。
「……おい」
声が掠れる。
「なんで魔王が、お前を師匠って呼んでる」
「ん?」
レインは首を傾げた。
「昔ちょっと面倒見てただけだよ」
“だけ”。
その瞬間。
エルセリアの目がギラリと光った。
「ちょっとではありません」
ドス黒い魔力が溢れる。
「私は師匠に剣を教わり、
魔力制御を教わり、
生き方を教わりました」
空気が軋む。
「今の私があるのは、
すべて師匠のおかげです」
アレスたちは凍りつく。
つまり。
世界最強の魔王を育てたのが。
目の前の雑用係?
「……は?」
アレスの思考が止まる。
だが。
さらに終わっていた。
「そういえば師匠」
エルセリアがニコリと笑った。
「どうしてこんな虫みたいな方々と一緒にいたんですか?」
空気が死んだ。
アレスの顔が引きつる。
リリアとミリアは青ざめた。
「いや、仲間だよ?」
「……仲間?」
エルセリアの笑顔が消える。
森全体が震えた。
「その仲間が、
師匠を追放したのですか?」
「え、まぁ」
「殺します」
即答だった。
ドゴォォォォォン!!
魔力が爆発する。
木々が吹き飛ぶ。
地面が割れる。
アレスたちは呼吸すらできない。
「待て待て待て!!」
レインが慌てて止める。
「ダメだって!」
「ですが!」
「いいのいいの」
レインは苦笑する。
「ほら、俺って戦えないし」
その瞬間。
勇者パーティ全員が、
同時に「は?」という顔をした。
エルセリアですら固まる。
「……師匠」
「ん?」
「まだその冗談を続けていたんですか?」
「冗談?」
レインは本気で首を傾げた。
エルセリアが頭を抱える。
「あのですね……」
魔王はゆっくり立ち上がる。
そして。
遠くの山へ向かって、
指を向けた。
「あの山、見えますか?」
「見える」
「あれを昔、
素手で消し飛ばしたの誰です?」
「……え?」
「師匠です」
沈黙。
「え?」
「あと海を割りました」
「え?」
「古龍を投げました」
「え?」
「私を泣きながら鍛えました」
「え?」
レインの顔がどんどん青くなる。
「……あれ?」
初めて。
彼は気付き始めていた。
自分がちょっとおかしいかもしれないと。
その頃。
勇者アレスは。
(……終わった)
心の底から思っていた。
自分たちは今。
とんでもない存在を追放したのだと。
読んでいただきありがとうございます!
ついに魔王エルセリア登場でした。
たぶんこの作品で一番強いのに、
師匠の前だと大型犬みたいになります。
そしてレイン、
まだ自分が最強だと気付いてません。
次回、
勇者パーティのメンタルがさらに壊れ始めます。




