1話 「雑用係はいらない、と勇者は言った」
新作です。
今回は王道ど真ん中の、
「追放」「無自覚最強」「ざまぁ」系を書いてみました。
でも主人公本人は、
自分が強いと思っていません。
周囲だけが、
「いやこの人ヤバくない?」
ってなっていくタイプです。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「レイン、お前は今日で追放だ」
焚き火が静かに燃えていた。
夜の野営地。
沈黙の中で放たれた勇者アレスの言葉に、
レインは目を丸くする。
「……え?」
「聞こえなかったか?」
アレスは不機嫌そうに腕を組む。
「お前はいらないって言ったんだ」
周囲の空気が重い。
賢者リリアは視線を逸らし、
聖女ミリアは気まずそうに俯いている。
レインは少し困ったように笑った。
「いや、えっと……急だなぁって」
「急じゃない」
アレスが吐き捨てる。
「ずっと思ってた」
その声には、
明確な苛立ちが混じっていた。
「お前、戦えないだろ」
「……まぁ、うん」
「剣も弱い、魔法も使えない」
事実だった。
レインには才能がない。
少なくとも、
本人はそう思っている。
「なのに報酬だけは一人前に分ける」
アレスの目が冷たい。
「荷物持ちと飯係に、これ以上金は払えない」
レインは少しだけ黙った。
焚き火の音だけが響く。
やがて。
「そっか」
レインは笑った。
「なら仕方ないか」
怒りも。
反論も。
何もない。
あっさり受け入れた。
その反応に、
逆にアレスが眉をひそめる。
「……なんだその顔」
「いや? みんな頑張ってるし」
レインは立ち上がる。
使い込まれた鞄を背負う。
「俺も最近、足引っ張ってるかなって思ってたから」
その言葉に。
リリアの肩がピクリと揺れた。
「レイン……」
「大丈夫大丈夫」
レインは笑う。
「これでも一人旅は慣れてるし」
嘘だった。
レインは昔から、
誰かの世話ばかりしてきた。
剣の振り方を教えて。
魔力制御を教えて。
魔物の倒し方を教えて。
でも。
本人にその自覚はない。
全部、
「みんなが凄かっただけ」
だと思っている。
アレスが金貨袋を放った。
「これ、最後の報酬」
「お、助かる」
レインは普通に受け取った。
怒鳴らない。
恨まない。
泣かない。
それが逆に、
場の空気を悪くする。
「……じゃあな」
レインは軽く手を振った。
「身体壊すなよー」
そして。
本当にそのまま、
森の奥へ歩いていった。
静寂。
焚き火だけが揺れる。
しばらくして。
アレスが舌打ちした。
「なんなんだよ、あいつ」
その瞬間だった。
ズン――……
空気が震えた。
「……っ!?」
全員が顔を上げる。
森の奥。
とてつもない魔力。
いや。
殺気。
木々が揺れている。
何かが来る。
「魔物……!?」
リリアが青ざめる。
ありえない。
この威圧感。
S級。
いや、
災厄級。
アレスが剣を抜く。
「全員戦闘態勢――」
その時。
森の闇から現れた“それ”を見て。
全員の顔が凍りついた。
黒い角。
漆黒のドレス。
赤い瞳。
世界最強の魔族。
魔王エルセリア。
その存在を見た瞬間。
聖女ミリアが震える。
「な、なんで魔王がここに……」
終わった。
誰もがそう思った。
だが。
次の瞬間。
魔王エルセリアは、
勇者たちなど一切見ずに。
森の奥。
去っていくレインの背中を見つめ。
そして。
跪いた。
「――師匠」
世界が止まった。
「ようやく、お迎えに来れました」
勇者アレスの剣が、
カラン、と地面に落ちた。
第一話を読んでいただきありがとうございます!
追放された雑用係。
……のはずだったんですが、
魔王が迎えに来ました。
しかも土下座です。
勇者側はまだ、
「何を失ったのか」
を理解していません。
次回、
魔王軍サイドが大変なことになります。




