転生
深海のように真っ暗な空間を、ぼんやりとした意識のまま漂い続け、何処かに流されていく。一体いつからそうしているのか、どこまで流されていくのか……それすらも分からないまま。
……不意に優しく掬い上げられるような感覚に包まれ、気がつくと辺り一面が真っ白な空間へと変わっていて…… いつからそこに居たのか、十本の尻尾を携えた、和服に身を包む少女が僕の方へと視線を向けている。
「ふむ、随分と消耗しておったが、意識はあるようじゃの?ほれ、ワシの声が聞こえておったら、何か反応してみるといい」
反応?反応って、どうすれば良いんだろう。…というより、少女の声色と口調とのギャップの方にどうしても意識が取られてしまう。
「お主に見えているこの姿は、お主のイメージする神の姿を具現化しておるだけじゃ。どんな風に見えておるかは知らんが、まあ神だと理解してくれればそれで良い」
なるほど。昔雄一兄さんに見せて貰ったアニメに出てくる神様にそっくりだと思っていたけど、それが理由だったのか。
それにしても、わざわざ神様が現れるなんて、僕に何の用事があるんだろうか。というより、完全に僕の心の中を読んでますよね。
「お主の思考は全部筒抜けになっておるの。なに、ちょっとした勧誘じゃよ。お主の世界の魂は良い変革を齎す者が多いのでな。摩耗してしまった魂に限り、交渉の上でワシの世界に移住させてもよいと、お主の世界の神と契約してある」
色々と気になるワードはあるけれど、勧誘を断った場合はどうなるんだろうか。また家族の元に戻れる可能性があるなら、なんて未練がましい事を考えてしまう。
「断られた場合はお主の世界に返すが、その先はワシの管轄ではないからの。正確な所は分からんが、お主の世界の神は管理こそすれど干渉はしないタイプじゃからな。輪廻転生に耐えられぬ摩耗した魂は消失してしまうのかもしれんし、その辺りは何とも言えんのう」
薄々分かってはいたけど、元の世界に戻して貰ったところで、家族の元に還れる訳では無いらしい。
「消滅すると断言出来る訳でもないし、可能性は0では無いがの。断った場合の話はこれくらいにして、こちらの世界へ移住してくれるのであれば、可能な限り要望は汲み取るつもりじゃ」
要望と言われても、前世のように寝たきりじゃなく、自分の足で不自由なく動けるなら、他には何もいらないですけどね。
「無欲な奴じゃの。心配せずとも、摩耗した魂は修復した上で転生させるから前世のような状態にはならんよ。そもそも、お主の前世の記憶は把握しておる。それらも汲み取った上で良しなに転生先を選択するつもりじゃ」
そこまで考えてくれるなら、僕から望む事はありませんね。勧誘は受けますから、僕の魂は好きなように扱って下さい。
「素直過ぎて、悪い奴に騙されんか心配になるのう」
騙されていたとして、他に選択肢もないので。
「まあそれもそうじゃな。と、伝え忘れておったが、ワシの世界はお主の愛読しておる作品の異世界と同じく、人以外の種族、魔物や魔法も存在しておる。魔物の脅威がある分、人同士の争いは殆どないが、お主の住んでいた日本よりは危険な世界じゃ。
せっかく移住して貰う以上、易々と命を落とさない程度の知識や力は与えるが、それに慢心せんようにな」
結構大事な情報を最後に持ってこないで欲しい。
魔法がある異世界なら、魔法は使ってみたいな…
「その辺も考慮して、魔法に適正のある種族を選んでおるよ。世界を旅したいという意図も汲んで、習得難度は高いが便利な魔法の適正もあるのでな」
何の不満も無いどころか、寧ろ僕の方から転生させて欲しいと願い出たいくらいの待遇だった。
そう言えば、僕の世界の魂は良い変革を齎すって言ってましたけど、僕はそちらに移住した後、何をすれば良いんでしょう。
「特に何もないのう。お主の思うままに異世界生活を満喫してくれればそれで構わんよ。魔物の脅威があるとは言ったが、あれも人同士が争わない為に組み込んだ抑止力のようなものじゃしな。先も言った通り、お主は好きなように生きてくれれば良い」
特に使命みたいなものはないんですね。
それなら僕の好きなように第二の人生を楽しませて貰います。
「特に問題も無さそうじゃし、お主の魂を修復して転生させるとするかの。なに、転生する上で前世の大切な家族との記憶が失われたりはしないから安心すると良い。とは言え、それらを考慮した結果、転生先が森の中になるのは申し訳ないんじゃがな。加護は与えておるし、何とかなるじゃろ」
なんか最後に途轍もなく不安な言葉が聞こえて来たけれど、それに問い返す間もなく、僕の意識は真っ白な光に包まれていった。




