そこから見える景色
頰を撫でる風の感覚に、ゆっくりと目を開くと、そこには大量の木が生い茂る森が広がっていた。神様との会話の通り、どうやら本当に森の中に転生したみたいだ。
てっきり何処かの家の子供として新たな生を受けるのだと思っていたけれど、僕にとっての家族は前世の家族だけだという僕の意思を汲んでくれたのかもしれない。
「それにしても……こんな森の中で始まってもね。僕にどうしろと」
産まれてから殆どの期間を病院で過ごしていた僕にサバイバルの知識なんてあるはずもなく……と、思っていたけれど、僕の知らない知識が頭の中にある事に気付く。
食べられるキノコの見分け方や生き物の捌き方。それに、魔法の使い方や身体の動かし方、僕の転生先であるエルフという種族についてまで。簡単には死なないように、この森で生きる上で必要な知識が与えられているらしい。
思考に耽っていても何も始まらないと、身体を起こし、辺りを見回してみる。
「おぉ………なんだ、これ………」
目の前に広がる森と僕との間には、不自然なまでに何もない草地が程広がっており。背中側を振り返って初めて、異様なサイズの大樹の存在に気付く。
まるで高層ビルのような、アニメでしか見たことがないような大樹。植え付けられた知識によると、どうやら目の前のこれは世界樹らしく、周囲100mは魔物が侵入が出来ない結界に守られているらしい。
それと、世界樹の実には魔力が詰まっていて、2日程度に1つ食べればそれだけで食事も水分補給も必要ない万能なものらしい。
「取り敢えずこの範囲から出なければ魔物襲われる心配はないし、飢えも凌げる。ここで身体を鍛えてから旅に出ろって事なのかな…?」
疑問を口に出してみるものの、それに答えてくれる存在は当然誰も居ない。何処となく恥ずかしい気持ちになりながら、ぺたぺたと世界樹に触れてみる。
「それにしても……世界樹の実を採れば、結界の外に出る必要がないとはいえ、あんな高いところまでどうやって登れと」
世界樹の周りを一周回ってみても、一番上まで登る為の取っ掛かりは何もなく。エルフの身体能力ならばと、木をよじ登ろうとしてみるけれど、普通の木とは違って太過ぎる幹は最早壁と変わらず、3mも登れないまま落ちてしまう。
土の魔法で足場を生やして、それを登って行こうかと考えていると……不意に地面の土がせり上がり、根っこで出来た椅子のようなものが現れる。
「え、ええ……と、これに座れば良いのかな…?」
突然現れた椅子に少々困惑しながらも、他に選択肢もないので座ってみると、根っこが伸びて僕の身体をしっかりと絡めとり……
そのまま根を伸ばして世界樹の幹の周りを回りながら天辺に向けて僕の身体を運んでいく。
落ちないように根っこが絡んでいるとはいえ、滅茶苦茶な速度で高所へ運ばれていくのは流石に怖い。目を閉じた上で、落ちないように椅子の部分を握りしめていると、暫くして動きが止まる。
「………う、わぁ………すご……」
目の前に広がっていたのは言葉に詰まるような絶景。地平線の彼方まで広がる森に、巨大な湖。雲よりも更に高く伸びる巨大な山。極め付けは、空を飛ぶ漆黒のドラゴン。
異世界の大自然とも言うべき景色に息を飲んでいると、不意に肩を叩かれる。何かと思ってそちらに視線を向けてみると、そこには蔦に包まれた虹色の実があった。
「あ、ありがとう。わざわざ僕に実を渡す為にここまで運んでくれたんだね。とっても嬉しいんだけど、もう少しだけ、この景色を楽しませて貰っても良いかな…?」
捧げられた実を受け取り、感謝の言葉を口にするけれど、申し訳ない事に今は世界樹の実よりも目の前に広がる景色の方に意識を奪われていて。
地上に運んでもらう前に、少しだけ我儘を言って、世界樹の上から見下ろす異世界の景色をしっかりと目に焼き付けた。




