【言ノ石】
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「・・・おい、お前。死霊の書の下僕じゃねーのか?」
この質問に儂はどう答えようか少し迷った。ここで、儂が下僕では無いと堪えた場合、この鬼娘が襲いかかってくる可能性を捨てきれん。幾分かはマシになったが、それでも殺意が滲み出ておる。まあ、どう見ても劣悪な環境で働かされておるし、正直に言った方がいい気がするの。儂はそう結論づけ、鬼娘の言葉に頷いた。
「・・・なるほどな。こりゃ、またとない機会だ。おい、骨人!強力な武器が欲しくねぇか!?」
儂は反射的に首を横に振った。
「即答!?わ、私の作った武器の何が気に食わねぇって言うんだよ!?」
ふむ、声帯を持っておらぬ骨人にする質問では無いと思うのだがな。うーむ、どうやって儂の意思を伝えたものか・・・刀で地面を削るという手もあるが、ここは薄暗いし読みにくいじゃろう。さてさて、困ったものじゃ。・・・そうじゃ!骨を砕いて砂代わりにするか!材料は十分にあるし、問題ないじゃろ。鬼娘の視線も厳しくなって来ておる、早々に準備を終えるとしよう。
一分ほどで儂は床に転がっておった骨人の成れの果てを一カ所に集めた。ふむ、集めたのは良いものの、儂が今持っているもので砕くとなると少々骨が折れるの。鬼娘の持っている金槌が欲しい。いや、贅沢は言っていられまい。取り敢えず、刀で大雑把に砕いた後に顎の骨を使って砕けば良いじゃろ。堅さで言えば、歯に劣るがそれを支えているだけの堅さはあるからの。強度が足らんようなら付与術で強化すれば良い。
「おい、さっきから骨砕いてるけどよ。もしかして、それを意思疎通に使おうとしてんのか?それなら、もっといいもんがあるぞ」
そう言って彼女が持ってきたのは側面によく分からん文様が彫られた石版を持ってきた。これは噂に聞く魔術具という奴じゃろうか?
「ほれ、伝えたいことを考えながら魔力を注ぐとその通りに文字が浮き出る【言ノ石】だ」
ほう、そんな便利な物が!・・・何故此奴はじめからこれを出さなかったんじゃ?恐らくじゃが死霊の書に操られた骨人と対話するために使われていたもんじゃろ。取り出したときに埃を払う仕草をしておったが、長い間使わなかったから忘れとったのか?まあいい、早速使ってみるとしようかのう。取り敢えず、これについて聞くか。
『ふむ、これでどうじゃ。おお、しっかり出とる出とる』
「おい、思考が垂れ流しにされてるぞ」
『おっと、では一つ聞きたい。この言ノ石とやらは大量にあるものなのかの?』
「あ?てめぇ、鬼人の癖に言ノ石について何も知らねぇのか?まあいい、量が無いって訳じゃねぇが、一つの大名家に三つから四つある感じだな。昔からある亜人と人類の対話手段だよ。眉唾もんな話だが、イザナ様の秘宝【言霊ノ勾玉】によって創られた【神語ノ書】を見本に作られたとか言われてるな」
『ふむ、イザナ様の・・・神語ノ書というのは?』
「ああ、何でも人族の言語から神様の言語まで載ってて、それを持って喋ると話したい言葉に自動変換されるって代物なんだとよ。これの神髄は神語による魔術の詠唱だって耳にしたことがあるな。初級魔術でさえ聖級魔術と同等の威力になるんだとか。ただ、今の現状使える奴はいないらしいがな」
ほう、凄まじいものじゃのう。聖級は下から数えて五番目、情報が正しければNPCが百レベル前後で習得する魔術じゃ。それに匹敵する威力を最底辺の下級魔術で行えるならば、恐るべきものだと言えるのう。まあ、どこに保管されているかは知らんが、使い手がいないのであれば宝の持ち腐れよな。
「って!?こんな話するために、てめぇにそれ渡したんじゃねぇぞ!!」
『チッ!気が付きおったか』
「ぶっ飛ばしてやろうか、てめぇ」
『そういうお主は先程から老人への配慮がなっておらん。老人には優しくするものだ』
「てめぇ、もう骨だろうが!老人って言うより老骨じゃねぇか!!そもそも小双角で老人とかなめてんのか!?」
・・・小双角?聞いたことが有るような無いような・・・はっ!そうじゃったそうじゃった、鬼人の進化段階の確認じゃ!確か、神殿によると亜人も含めた人類はレベル百、三百、六百、千で進化するらしいのう。まあ、現在は四百レベルちょっとの奴が最高レベルらしいがの。
それで百レベルまでの鬼人の角は小さい二本、百レベルで進化するとその角が大きくなる。で、三百レベルでイザナ様のように一本に統一されるんじゃったな。鬼人族は総じて戦闘狂、寿命は森人族の半分ほどの五百年。百レベルで進化して初めて成人として認められるというこの世界では些かとち狂った制度のお陰か、人類最高の平均レベルを誇る種族じゃったか。おお、そう言えば、此奴七十四歳で儂と六歳しか離れてないんじゃった。なんと若作りな老婆か。
「おい、今失礼なこと考えなかったか?」
『気のせいじゃ、気のせい。まあ、儂は異邦人じゃからのう。こんな形をしておるが、歴とした老人じゃよ』
「ん?異邦人ってあれか?女神様たちが数年後に招くって言ってた奴か?」
『それよ、それ。故に儂が宿ったこの肉体は弱いがしかと研鑽を積んだ老骨よ』
「なる、ほど?じゃあ、爺さん!私の作った武器の何が不満なんだよ!?」
『忘れてなかったんか!?』
「忘れる訳ねぇだろ糞爺!!」
『お主、口が悪いぞ!?どんな教育を受けたんじゃ!?』
「うっせぇなぁ!それで、私の武器の何が気に入らねぇんだよ!」
此奴、しつこいのう。先程から話を逸らしているというのに、ふとした拍子に蒸し返しおって。
『しつこいのう。まあ、端的に言うと呪われそうじゃからの』
「ッ!?の、のののののろわれそうって、のは、し、失礼何じゃ無いかなぁ」
『お主、嘘をつくのが下手すぎるぞ』
瞳が右往左往しておる。若い、若いのう。こういう若者にこそ、『修羅の國』の≪十大謀聖≫に会わせて、世の渡り方を教えてやりたかったものよ。・・・あれらをもってして怪物と言われた毛利元就は謀神と呼ばれただけはあると感心してしまったものよ。おお、そう考えると本多忠勝は本当に強かったのう。はっきり言って彩湖よりも強かったわ。
「おい、爺さん。さっきから考えてることが筒抜けになってるぞ。≪謀聖≫ってなんだ?字だけで碌でもない連中だってのは分かるがよ。あれだろ、桜田賢仁みたいなやつのことだろ?」
『その桜田某については知らんが、まあ、大体そんな感じじゃ。それは兎も角として、お主、初対面の相手に呪いの武器を渡そうなぞ、狂っておるのか?』
「うぐっ!い、いや、その、武器に認められれば強大な力が手に入るんだよ、うん」
『お主、そんな言葉に老い先短い老いぼれが引っかかると思っておるのか?』
「へ、へへ、なあ、そんなこと言うなよ。爺さん、頼むよ。こんな機会もう無いかもしれないんだ。ちょっとだけ良いんだ、な?」
『お主・・・ヤバい奴じゃのう、色々な意味で』
この鬼娘、かなり精神が弱ってきているのかもしれぬ。目元には濃い隈が出ておるし、先程の強気な態度は虚勢だったようじゃの。うーむ、此奴見た目だけは桜と同い年、精神年齢的には桜より劣っているかもしれんな。ひとまず、話を聞くとするか。
『認められるためにはどうすれば、良いんじゃ?』
「受け取ってくれるのか!?」
『いや、まずは認められる条件を聞き、その上でその武器を譲り受ける対価について説明してもらおうか』
「分かった!まず、爺さんにやる武器を取ってくるから少し待っててくれ!」
『変わり身が早いのう。・・・騙されたか?』
そう言って、持ってきた武器は初期装備よりも少し長い打刀だった。じゃが、怨念のようなオーラが刀から滲み出ているように見える。・・・あれ、持っても大丈夫なんじゃろうか?儂の第六感が警鐘を鳴らしとるんじゃけど。どれどれ、<鑑定>。
――――――――――
【妖刀:桔梗】品質:優 ランク:名工級
鍛冶屋である妹の桜によって桔梗の遺骨を使い作られた妖刀。桔梗の魂が宿っており、没落貴族への恨みを晴らし、かつて己が目指した武の頂へと辿り着けるであろう者を契約者に選ぶ。契約者以外が使おうとすると不可視の刃に切り刻まれる。契約者には鬼人の剛力を授け、魔力を纏わせ振るえば不可視の刃を放つ。また、【桔梗】を装備して敵を倒せば倒すほど、この妖刀の力は増す。
<念話>Lv1
<剛力>Lv1
<幽刃>Lv1
――――――――――
呪われとる所か亡霊が取り憑いて妖刀と化しとるぞ!?いや、じゃが破格の性能じゃ。悔しいが、確かに欲しい・・・!
『とんでもない刀を持ってきたの』
「あれ?鑑定使えるの?ってことは無断で私のことも鑑定してたのか!?・・・いや、まあいいけどさ」
《ヨクハナイゾ、サクラ》
『ぬぉ!?』
「桔梗姉、<念話>の階梯が低いせいか、無茶苦茶おどろおどろしい声に聞こえるから、突然話しかけるのはやめろよな」
《ムウ、スマヌ》
む、むう、<念話>と書いてあったが会話が成立するほどの理性がある怨霊だとは・・・。むむむ、しかし、どうやら生前はなかなかの武人であったようじゃのう。『修羅の國』の猛者共に匹敵するやもしれぬ。修練に掛けられる時間の差かの?現実では一握りしかいなかった達人をこうも早くに目にしようとはな。我が戦友達が狂喜乱舞する様が目に浮かぶようじゃ。
彼奴ら、このゲームをやっておるのかのう?やっておるならば、同郷の士として、共に戦場を駆け巡りたいものよ。出来れば国も持ちたいの。儂らの実力がどこまで通用するのか楽しみでならん。
「おい、爺さん。ボーッとしてねぇでしっかりこっちの話を聴け」
『おお、すまんすまん。お主の姉の実力が想像以上でのう。どれほどの猛者がこの世界にいるのかと考えておったのよ。ほっほっほ、いやはや楽しみ楽しみ』
「・・・この爺さん、やべーよ。桔梗姉の同類じゃん。いや、今回に限っては良かったのか?」
姉と合流したお陰か、はたまた何かしらの希望が見えたからか、随分と元気を取り戻しておるようじゃのう。まあ、童は元気であるに限るな。そう言えば、この鬼娘の名前はサクラと言ったか?むう、まさか大姪の桜と同じなとはな。合流した後にややこしいから、改名してくれたりせんかのう。
『で、桔梗殿。貴殿に使用者として認められるにはどうすれば良いのだ?』
「おい、私と対応が違うぞ!」
『黙っておれ』
《ウム、キデンニハワタシトタタカッテモラウ》




