ありふれた約束
気がつくと、夜になっていた。
いつもゆきと通話をしていた時間だ。
俺は泣きつかれてしまってもはや涙も出なくなってしまった。
それは、ゆきも同じようだった。
だんだんと呼吸が落ち着き、嗚咽が少なくなっていく。
2人の呼吸が落ち着いた頃、俺は、一呼吸置いてから口を開いた。
「も……もう俺は助からないけど、もしもわがままをきいてもらえるなら、最期の時まで……毎日ゆきの声が聴きたい……」
「うん、うん……わかった……毎日通話しようね」
まるで付き合いたての恋人のような約束をとりつける。
でも、俺にとってはそれが、最後に与えられた唯一の希望だった。
ゆりの声が最期に聞けることが、本当に、本当に嬉しかったのだ。
それからの数日は、至福のひとときだった。
他愛もないやりとりを毎日数時間にわたって続けた。
ゆきは、今住んでいる場所の話や、偶然見かけた猫が可愛かったとか、そんな話を毎日俺に語って聞かせた。
そして、ゆきと俺が出会った頃や付き合い始めてからの思い出を、2人で反芻するように語り合った。
いかに俺がゆきの存在に救われていたか、どれだけ好きだったか、ひとつひとつ、取りこぼしのないように丁寧に伝えた。
ゆきは、優しく相槌を打ちながら、ちょっと照れ臭そうに、そして寂しそうに俺の言葉を聞いてくれていた。
そして、隕石が落ちるまで、ついにあと1日となった。




