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おやすみ

 隕石のガスはもうすでに少しずつ地上に届いているらしい。

 このガスが肺に満ちると、俺は死ぬ。

 

 隕石が落下すれば、仮に衝撃から逃れて生きていたとしても電波を届ける設備が壊れるだろうから、通話ができなくなる。

 だから、できれば隕石が落下するまでは、ガスで死なないようにしたい。

 少しでも長くゆきの声をきいていたいから。

 

 俺は、少しでもガスの侵入を防ぐために——最早意味があるのかはわからないけれど——家中のシャッターを閉めて、テープでスキマを止めていった。

 

 そして、最期の約束の時間になった。

 不思議と穏やかな気持ちだ。

 

 ゆきのアイコンから通話ボタンを押すと、程なくしてゆきに繋がる。

 

「もしもし」


「もしもし」


「今日で最期だ」


「……うん」


「ゆきの声が聞けて嬉しいよ」


「私も、淳の声聞けて、嬉しい」


「わがままきいてくれてありがとな」


「うん……ね、まだそんな終わりの話はよそう?まだ時間は、あるんだしさ」 


「……そうだな」


「そうだよ……あのね……」

 

 いつものように、お互いのことについて語り合う。

 その最期の時間は穏やかで、ゆっくりと時間が流れているようだった。

 

 シャッターは閉まっているから、今が日中なのか夜なのかとか、外の様子は分からない。

 もしかしたら既にかなりの時間が経っているのかもしれないが、それすらも分からなかった。

 でも、それでいい。

 今はこの時を、何も考えずに楽しみたい。

 

 夜の日課のおしゃべりは続く。 

 ゆきの声は耳に心地よく、聴いているうちに、だんだん眠くなってきた。

 

「淳、どうしたの?」


「ああ……ごめん、ちょっとうとうとしかけた……」

 

 意識を保とうとするが、視界が段々と霞んで、頭がぼうっとする。

 ゆきの声をまだ聞いていたいのに。

 

「ああ、ごめん、やっぱり寝ちゃいそうだ……」


「淳……!やだ、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ話そうよ……」

 

 今にも泣きそうなゆきの声が聞こえる。

 なんでゆきは泣きそうになってるんだっけ?

 ……だめだ、何も考えられない……。

 

「ごめん……ゆき……続きはまた、明日、な……」

 

「!…………うん、また、明日、ね」


「夏休み、どこ行くか……決めような」


「うん……うん……」


「明日も……学校だから、もう寝なくちゃな……」


「そうだね……!遅刻しちゃ、やだからね」


「はは……しないよ…………それじゃあ、おやすみ、ゆき」


「おやすみなさい、淳」 













 

 

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