懐かしい声
着信が何件も何件も通知されている。
そして今もまた着信中だった。
俺は、考える間も無く反射的に通話ボタンを押した。
「淳!よかった!繋がった!今どこにいるの!?」
聞きなれた、ゆきの声だ。
離れて数週間しか立っていないのに懐かしさで胸が一杯になる。
「ニュース見たよ!もう避難できたの?」
「え……あ……」
「淳……?どうしたの……?」
呆然として答えられないでいたせいか、ゆきの声が不安そうになっていく。
ゆきと、ゆきと話したい。
何か答えなければ。
「もしかして、まだ避難できてないの……?」
「う、うん……」
「どうして!?早く逃げないと、淳が……!早く逃げてよ!お願いだから……!」
泣きながら懇願するゆき。
しかし、俺にはそれに応える事はできなかった。
——本当は、今すぐゆきの元へ行きたいのに。
「……俺も、本当は逃げたい。でも、できない……」
「どうして!?逃げなきゃ死んじゃうんだよ!」
「……父さんと母さんが死んだ……金もないからどこへもいけない……もう、逃げる手段がないんだよ……」
「そんな……なんで……いやだよ!やだ……!」
ゆきが泣いている。
いつも笑っていたゆきのこんな声を聞くのははじめてだった。
できれば一生聴きたくなかった。
ゆきの悲しそうな声を聴くと、俺まで悲しくなってしまう。
「俺だって……死にたくないよ……」
それは無意識に出た言葉だった。
その言葉を口にした瞬間、俺の中で抑えられていた感情が一気に押し寄せる。
ゆきに会いたい。
会って触れたい。
逃げたい。
死にたくない。
寂しい。
帰ってきて。
一緒に死んで欲しい。
笑顔が見たい。
会いたい。
会いたい。
それらは言葉になる事はなく、涙と嗚咽となった。
通話越しのゆきの声も泣いていた。
そうして長い長い時間、2人でずっと泣いていた。




