霊峰、絆の宿
【エンファイト騎士団】
「鎮まれ!鎮まれ!僕の左腕!その時、漆黒の邪悪なる炎が左腕に!…あ、朝か…」
「どこから突っ込んだらいいのか…説明まで自分でしてるし…フリークさーーーんヘルプミーーー」
ラウリールを起こしに来たシルキーに、ハードルの高過ぎる寝言を言うラウリール。
現在ミタラシと言うクレイ王国領の北の町に来ている4人…
グラシアン王の命令で、魔獣の森に神樹を回収しに行ったエンファイト騎士団の団長ラウリールと、幹部のシルキー、フリーク、キースである…
「シルキー…君はもう立派なツッコミ役だ、キミサエイレバダイジョウブ、アトハマカセタ…」(フリーク)
「うぅ…フリークさん…」(シルキー)
ミタラシは霊峰の麓の町で、ドラゴンを信奉している人々が作った開拓村だ。
人口は300人と少なく小さい…しかしクレイ王国領にありながら、ミタラシは独自のルールのもとに生活している。
ドラゴンに祈りを捧げるために、毎朝町の中央の広場に集まり、全員で朝食をとる決まりがある。
その時にちょっとした会議もあり、問題点や色々な対策を話し合ったりするので、この開拓村は小さな国家みたいな感じになっているのだ。
ラウリール達は現在冒険者を装っているので、皮鎧で身を固めていた。
もし危険になれば、魔法鞄に装備一式が入っているので、武器だけでもすぐに引き抜く事が出来る。
「ラウリール様も着替えて早く行きますよ!町のルールをサボると、肩身が狭くなりますから」(フリーク)
「この町を使えなくなるのは痛いからね、すぐ行くよ!
なんてったってここの女の子達は皆可愛い、今夜こそお近付きになってみせる!」(ラウリール)
「目的が変わってる…」(シルキー)
「最初は僕もこの町を拠点にして、情報収集するつもりで来ただけなんだけどね…
何かおかしいんだよ…みんな警戒は怠らないように」(ラウリール)
「「はい!」」(シルキー、フリーク)
「そういえばキース君はどうしたの?姿が見えないけど…」(ラウリール)
「それが…霊峰から異質な魔力を感じたと言って、千里眼の鏡を使い、調査のために自室に篭ってます」(シルキー)
(おお!さすがキース君だな!)
「そか、2人は先に広場へ行ってくれ、キース君を迎えに行って、詳細を聞いたらすぐ行くからさ!
それに誰も広場に来ないとまずいからね」(ラウリール)
「かしこまりました」(フリーク)
「はい!」(シルキー)
フリークとシルキーが広場に向かったのを見送り、ラウリールは隣のキースの部屋へ入る。
(僕が感じていた違和感に早くも気付くなんて…流石キース君だ!やっぱり魔法の才能と、魔力を感じ取る能力はずば抜けてるな…
連れてきて正解だったよ)
ラウリールはキースの少し薄暗い部屋へ入って行った。
キースの肩越しに、千里眼の鏡と言う魔道具を覗き込む。
この千里眼の鏡はかなりの高級品で、ラウリールが王国に頼んで貸してもらった物だ。
「キース君、異質な魔力を感じたって聞いたけど、どんな感じ?」(ラウリール)
「ら、ら、ら、ラウリール様!
こ、これは違うのです!あの、その…」(キース)
凄く同様するキースに、ラウリールは違和感を感じた。
なぜそんなに同様するのだろうか…
鏡の中の映像を見た瞬間に、キースがしていたことを理解する…
そしてキースの肩に手を置くと、ラウリールが耳元で呟いた…
「こんな重要な任務…君だけに任せられない、危険すぎる…明日からは私も参加しよう」(ラウリール)
「は、はい!ラウリール様!」(キース)
キースはこの大陸で、五本の指に入ると言われる程の、魔法の才能を持っている。
その才能を疑う余地はない…
キースは若干18歳の時に、使える者の少い空間魔法を習得して、ラウリール率いるエンファイト騎士団にスカウトされた秀才だった。
その才能を惜しみなく使い、王国から貸し出された最高級の魔道具を使って映された映像は、誰よりも鮮明な千里眼を可能にしている。
朝の湯浴みをする少女達…
一糸まとわぬその霊峰は、危険な魔力に溢れていた。
「この任務は部外秘とする!団長命令だ!特にシルキーには内緒だ」(ラウリール)
「心得ております」(キース)
(ったく!調査する霊峰が増えちまったぜ…)
っと、溜め息をついたラウリールは、真面目な表情に切り替えて、鋭い目付きでキースを見た。
どうしてもこれだけは聞かなければいけないのだ。
「キース、この映像記録して持ち帰れるかい?」
キースは目に涙をためた…
それだけでその後続くであろう言葉が、ラウリールには理解出来てしまった。
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【エル】
ピッタリとくっついて寝息を立てる美少女が2人。
狭い家の中で、花凜とリオンの魅力は、若い俺にとって暴力的な誘惑だった。
しかし、何時間も空を飛んでいただけあって、魔力はともかく身体は疲れていたらしい…
俺はすぐに眠くなり、空いているスペースに横になる。
ベットは花凜とリオンに占領されていたので、テーブルのある絨毯の隅で寝るしかないだろう…
この家には寝室などを隔てる壁は無く、家の中に入るだけで全てが見渡せるのだ。
例外は脱衣場に風呂場、トイレだけで、実に簡素な作りになっている。
お客さんが泊まりに来る事なんて想定されていないので、ベットは2つしか無いのだ…
俺は目を閉じると、森の中にいるような不思議な感覚に包まれた。
花凜から溢れる森林の香りが、とても心を落ち着かせてくれる。
(不思議な子だな…家族は居ないのだろうか?)
わからない事は多いが、花凜とリオンを見ていると、つい気持ちが緩んでしまうのだった。
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【庭の木】
深夜、ロナウドの家を監視する2人の影…
「姉ちゃん、ほんとにここなのかな?」
「私もわからないよ…でも今日の朝に、すっごい魔力がこの辺りで膨れ上がったでしょ?」
「でも今は、魔力が全然感じられないんだよな…俺魔力の感知には、結構自信あるんだぜ?」
「魔力の遮断が使えるなら、ソルを出ていった可能性もあるけど…今日の昼過ぎだったかな?足が治って元気に歩いてたロナウドおじちゃんが気になるの…」
「ミー姉ちゃんは本当に、ロナウドおじちゃんが好きだよね」
「ドクだってロナウドおじちゃん大好きでしょ、あんなに優しくて心の強い人は、私は他に知らないわ…
エルさんのためにいくつも仕事して…毎日頑張ってたロナウドおじちゃんが、今日は仕事も取らないで家にいるのよ?変でしょ?」
「変だよね…ロナウドおじちゃん心配だな〜」
見た目は16歳くらいだろうか…
ドクと呼ばれた少年は身長165センチくらいで、ミーは160センチくらいだと思う。
2人とも真っ黒の髪の毛に、双子の様な似た顔立ちで、犬耳とふさふさの尻尾が生えている。
燃えるような真っ赤な瞳が、月の光を浴びて妖しく光った…
ドクは赤と黒のチェックのズボンに、黒く袖なしの分厚いシャツと、白銀色に光る180センチくらいの八角棍を装備している。
太ももに黒い投げナイフと、足首の動きを阻害しないように作られた焦げ茶色の革靴姿だ。
ミーは焦げ茶色のショートパンツに、ドクと同じく足首の動きを阻害しない革靴を履いている。
そこから太ももまでの丈の薄く黒いレギンスに、小さく赤いハートマークの柄が入っている。
ドクと同じ生地の黒いシャツを着ているが、露出が多くへそが出ていて、細い腰のラインが見る人を魅了するだろう。
腰の辺りに白銀色の鉤爪と杖をさしていた。
ロナウドの家が見える大きな木の上で密談する2人…
じっと見ていたが、なんの動きもないので、今日は帰る事にしたようだ。
「とりあえず絆の宿に帰ろうか」(ミー)
「そだね、ロナウドおじちゃんは絶対に守りたい」(ドク)
「うん」(ミー)
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【花凜】
今日の朝ごはんはトマトとゆで卵をのせたサラダと、燻製チーズに歯ごたえの強いパン、コーンスープにかぼちゃの煮付けだ。
リオンは肉を食べたそうだったが、美味しい物が多かったので、文句は言わなかった。
私は昨晩もくちゃんが集めた情報をみんなに伝える事にした。
「昨日の夜ね、犬耳と尻尾生えた2人組がこの家見てたよ?」
「もしかして若い双子の、黒狼族の男女だったか?」
私が少し説明しただけで、ロナウドには見当がついているようだ。
「私は黒狼族を知らないから正確にはわからないけど、男女ペアで顔立ちは似てたかな」
「そうか…頻繁に俺の屋台にスープを食べに来てくれる子達だ。
かなり上位の冒険者で、絆の宿でも難しい依頼をたくさん引き受けていた」
昨日の夜に来ていた双子は強い冒険者らしいが、ロナウドの知り合いみたいなので、危険はないだろうと判断した。
「ああ、あの2人はナンバー持ちだから、憧れる冒険者は多い、たった2人だけで、ナンバー入りしたんだからね。
身体を強化する魔法と卓越した瞬翔を使い、目にも止まらない速さで敵を薙ぎ払うドクと、支援魔法を使い、近接戦闘もこなすミーの名前はすぐに広まったんだよ…今じゃナンバー持ちだもんな…」
エルは双子の事を詳しく知っているようだ。
それだけ、その2人が有名なのかもしれない。
「ナンバー持ちってなんだ?」
リオンがサラダを咀嚼しながら聞いている。
「ナンバーは40万人いる冒険者の中で、僅かトップ100のパーティーにだけ与えられるものなんだ。
実力順にナンバーが与えられるんだけど、ナンバーを持つと言う事だけでも物凄い事なんだよ。
病気になる前は、俺も冒険者だったんだ…
登録抹消してないから、今も冒険者だけどね」
エルがナンバーについて説明してくれた。
エルは冒険者をやっているようで、ドクやミーの事も噂を聞いて詳しかったのだろう。
「40万人も冒険者がいるの?」(花凜)
「一攫千金にもなるし、かっこいいから、子供にはなりたい職業のトップなんだよ。
でも試験が大変で、狭き門なんだ…この大陸の冒険者は、全部で5万人ちょいくらいだと聞いたけど、冒険者は人口の3%くらいらしいよ?」(エル)
「んー…パパも冒険者やってみたんだよね?」(花凜)
「ああ、それなんだがな…実は試験中に、足を怪我しちまったんだよ」(ロナウド)
「そういえば何でパパって?」(エル)
「そうだったんだね…でも生きてて良かった」(花凜)
「ありがとう花凜さん、実は試験で、その黒狼族と知り合ったんだよ…あれは運が悪かったんだ…他の試験中だった奴の、風の魔法が暴発してな、吹き飛ばされた黒狼族の女の子が、サンドワームの目の前に飛んで行ったから、俺は慌てて庇ったんだ…
その時に、俺は足をサンドワームに思い切り噛まれてしまったんだが…助けてくれたのも、その女の子だった…
俺が庇わなくても、その子は怪我1つしなかったんだろうが、それからちょくちょく、屋台に食べに来てくれたんだよ」(ロナウド)
「流石パパ!木の上にいた2人もね、ロナウドおじちゃん大丈夫かな?って言ってたよ」(花凜)
「だからなんでパパなんだよ…」(エル)
「心配かけてしまっていたんだな…飯も食い終わったし、ちょっと絆の宿まで顔出して来る」(ロナウド)
「私もパパについてく行く」(花凜)
「じゃあ私もついて行くとしよう」(リオン)
「だから何でパパって…」(エル)
――――ガチャ、バタン――――
「…だから…なんで…」(エル)
エルは何やら言っていたが、私には聞こえない!
「食器洗おう…」
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ロナウドについてく私達。
汗をかかずにトイレの必要も無い私は、昨日のままの白いワンピースだ。
たまに冷や汗が出る時があるが、それが何なのかがわからない…樹液だろうか?
靴は自分の魔法で作ってみたのだが、今日は水色の木製ハイヒールになっている。
砂漠の時は気にしなかったが、街中で素足は目立つだろう。
リオンの今日の格好は、青い薄手のTシャツに、クリーム色のショートパンツと、ビーチサンダルみたいな履物を履いている。
全部ロナウドにもらった物なのだが、多分Tシャツはエルの子供服だろう。
ロナウドはダークグリーンで落ち着いた色の甚平みたいな服を着ていて、足の怪我は傷跡すら残さず綺麗さっぱり消えている。
「あ、そうだ、2人の事はなんと説明すればいい?」(ロナウド)
「娘って言って」(花凜)
「いや、そうじゃない、2人の力の事だ…昨日の夜だったか?ドクとミーが来たのは…
きっと異常な魔力を感じたから、心配になって様子を見に来たのだろう」(ロナウド)
「花凜の魔力は外に漏れてはいない、私もそこまで大きな力を使った覚えはないぞ?」(リオン)
「あの結界を張る魔力もかなり膨大だった…警戒されてもおかしくない」(ロナウド)
「人基準の感覚は難しいな」(リオン)
「リオンはものすごくでっかい猫(猫ではない!)なんだよ」(花凜)
「はぁ〜…まああれを見たあとじゃ何も言えないさ…」(ロナウド)
「私達の事は普通に話して大丈夫だよ、何かあれば逃げるから」(花凜)
「その時は俺ができる範囲の事をしよう」(ロナウド)
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ロナウドの後ろを歩きながら、私はリオンと手を繋いでいる。
大通りの端っこを歩いているのに、何故か道行く人の視線を集めてしまっているようだ…
(リオン綺麗だからねー)
きっとみんなリオンに見惚れているのだろうと思った。
それに太陽の光が強いこの街で、真っ白い肌の私達は目立つのかもしれない…
私は当たり前の事が出来る今の日常が、とても気に入っている。
自由に走り回れるし、食べ物も好きなだけ食べても体調が悪くならないのだ。
(今まで出来なかった事…沢山あるんだよね!
思い付いた事からどんどんやってみよー)
――――ぽふ――――
ロナウドが急に立ち止まったので、私はロナウドの背中に顔から突っ込んでしまった。
「この建物が絆の宿だよ」
何も気にしていない様子のロナウドが、目の前のオレンジ色の建物を指差している。
「周りの建物より大きいね」
「ああ、絆の宿だからな」
絆の宿だからという事らしいが、この世界で生まれて1ヶ月ちょいの私には、意味が理解出来ずに首を傾げる。
ロナウドが扉を開けると、正面に総合案内の窓口と、右側に魔物の素材買い取り口らしい場所があった。
「あそこが冒険者のランク申請をする所で、あっちが依頼の掲示板だ」
「文字読めないからわからないや…」
「そうかそうか…手が空いた時に文字を教えてやるよ」
ロナウドは微笑むと、冒険者の宿の中を指差して教えてくれた。
食堂、酒場、携帯食糧の販売所、作戦会議室、道具屋さん、ちょっとした武具も置いてあるらしい。
これだけ色々なお店が入ってれば、建物が大きい事に納得できる。
「あ、素材忘れたぞ…」(リオン)
「あー…私も忘れてた…素材嵩張るから、もっと上手く持ち運べるカバンとかあったらいいなー」(花凜)
「人間は、魔法鞄という物を使うと聞いたぞ、まあそこまで大量には運べないらしいが…」(リオン)
「時間が出来たら、肩掛けカバンでも見に行こうね」(花凜)
「そうだな」
ロナウドは受け付けも通さず階段に向かったので、私とリオンはすぐに後ろをついていく。
2階に上がると、ロナウドは大きな扉の前で立ち止まった。
何やら雰囲気のある扉を見て、小学校の校長室の扉を連想する。
「ミミック!ロナウドだ」
「おう!入ってくれ!」
扉の中に入ると、身長2mの大男が鋭い目付きで腕を組んでいた。
茶色い芝生のような髪に、服の上からでもわかる隆起した筋肉がごつごつしている。
年齢は20代中頃くらいで、腕は私やリオンの胴よりも太そうだ。
ミミックと呼ばれた男の背後には、ものすごく大きく分厚い片刃の大剣が台の上に置かれていた。
「ロナウド、その足どおしたんだ?」
ミミックはすぐにロナウドの変化に気づく。
「ここにいる花凜さんが治してくれたんだよ」
ロナウドは振り返り、私の背中を軽く押した。
「こ、こんにちは」
私は初めて見るミミックと言う男に、とても緊張していたので、挨拶する事が出来ただけでも褒めて欲しいと思う。
「花凜さんリオンさん、この人が絆の宿のソル支部のリーダーだ」
そこでミミックは、やっと私達の存在に気付いたようだ。
ミミックが私達の存在に気付かなかったのは、私達が魔力遮断をしていたからなのかもしれない…
「結婚して下さい!」
この世界の挨拶だろうか?
私はいきなりの言葉に、更に動揺してしまう。
ミミックは真剣に私を見ている…
(え?何?………本当に?)
「嫌…」
私は人生初のプロポーズをされたが、正直いきなりすぎて怖かったのだ。
「ロナウド…俺はもうダメだ…初めて一目惚れした女性に、秒で断られた…」
「花凜さんは人見知りなんだ…今のはいきなり過ぎたお前が悪い」
「仕方ないだろう…自然と言葉がでてきたんだからよ」
ミミックは目の端に涙を光らせる。
「花凜はお前などにやれん」
リオンがミミックにトドメをさしたようだ。
「く!わかった…まずは話を聞こう、厄介事なんだろう?」
気を取り直したミミックは、急にドヤ顔になり、話の続きを要求する。
話の流れを止めたのもミミックなのに、色々と凄い人なのはわかった。
「厄介事でもないんだがな、昨日とんでもない魔力放出があっただろう?」
「ああ、その事で、みんな大パニックだったよ…」
ロナウドが魔力の話をすると、ミミックは予想していたかのように言葉を返してくる。
「あの魔力は、こちらのリオンさんの魔力なんだ」
「はっはっは、冗談はやめておけ…あの魔力はドラゴン並だったんだぞ?それに部屋に入ってきても、存在すらわからぬ程の魔力……」
ミミックは眉をひそめて私達を見つめている。
違和感に気がついたようだ。
「魔力が全く感じない…だと…」(ミミック)
「私達は魔力遮断しているからな」(リオン)
「こんな完璧なのは初めてみる…」(ミミック)
「2人には、息子のエルの黒炭病を治して貰ったのだ」(ロナウド)
「それこそ信じれる話じゃない…が、それが本当だとすれば、辻褄は合う?…
突然治ったロナウドの足、ロナウドの家付近から放たれた圧倒的な魔力…
完璧な魔力遮断をする2人の女の子…絶望的だったエルが本当に…」(ミミック)
ミミックは情報を整理して、考えこんでいる。
「いや、やっぱりありえないだろ!上位のナンバー冒険者で、回復専門のローリーが、治すのは無理だと言ったのだぞ?
それ以上の回復など、現実的ではない…」
そのローリーと言う冒険者は、凄く信用されているようだ。
ミミックが信じられないと言うような顔をしている。
「俺もそう思っていたさ…だけどな、何ヶ月も教会に通って全然完治しなかった足を、撫でただけで花凜さんは治してみせた…
そして息子も目の前で、数分で完治させたのだ!」
ロナウドの言葉を聞いて、ミミックは眉間にシワを寄せ、腕を組んだ。
「わかった、なら簡易のステータスプレートを使ってみよう…
その話が本当なら、リオンさんだったか?君の魔力は8000以上という事になる、下級のドラゴンだって5000くらいだ、これに魔力を通してくれ…」
ミミックが見慣れない板を取り出した。
(私達…悪い事でもしたのかな?)
私は更にロナウドの後ろへ姿を隠す。
ステータスプレートと言う物で、リオンの魔力量がわかるらしい…
ドラゴンが5000って…ドラゴンもステータスプレートを使ったのだろうか?
「それはいいのだが、通す魔力は少しでいいのか?」
リオンが使い方の説明を求める。
「ああ、少しで大丈夫だ!ロナウドの話を全く信じていないわけじゃないが、そのまま鵜呑みにも出来ないだろう?
プレートを見て信じるよ」
ミミックがリオンにプレートを渡すが、リオンは少し考えてから口を開いた。
「別に信じてもらえなくても私は何一つ問題ないぞ?
昨日出したほんの少しの魔力でも、お前達は不安なんだろがな…
だけどロナウドの言う事が全て本当だったとして、結局街の中に化け物がいる事に変わりない、そうだろう?ならこんな事はやるだけ無駄なんじゃないか?」
一瞬の沈黙…私達はミミックの話に流されそうになっていたが、リオンの言う通りやる意味が無いと思う…
「確かにそうだ…リオンさんに利点が一切無いじゃないか…2人は俺の恩人なのだぞ?
プレートでステータスを確認されて、得する事なんて1つもない…
今2人を預かっているのは俺なんだ。
ステータスを確認したいのなら、2人が納得出来る条件を出してくれ」
顔を顰めるミミック…
しかし、ロナウドの言うことは正しい。
無条件で、力の底を晒せと言っているのと同じなのだ。
「う…そう言われると辛い所だが、言われてみればそうだよな…
納得出来る条件か〜、んー…難しい所だな」
ミミックはソルの支部を任せられているリーダーだ、そこそこの権限もあるはず…
しかしリオンを危険人物とされて、国から手配されたりすれば、絆の宿としては庇う事が出来ないのだろう。
一般人が大き過ぎる力を持っていれば、その可能性が無いわけではない…かもしれない…
それだけの力の差を、私は見ただけで感じてしまっていた。
「ん?そうだ、君ら2人冒険者になる気はないか?
冒険者として絆の宿に登録されれば、大きな力を持っていたとしても、不用意に手出しされなくなる。
なんていったって、ちょっとやそっとの理由で、世界中の冒険者を敵にしようなんて思わないだろ?
冒険者はみな家族のようなもんなんだ、助けて助けられて、1人じゃ困難な事でもみんなで乗り越える!
そうやって大きくなっていったのが絆の宿だ…
今では世界中に拠点をたくさん置いている。
これで納得してもらえないだろうか?」
私は今仕事を持っていないので、冒険者になってもいいのではないかと考えた。
冒険者が何をしなきゃいけないのかわからないが、人を癒すくらいなら私にも出来そうだ。
わからない事は多いが、挑戦してみる価値はあると思う。
「命を助けるような仕事ならやってみたい」
私はミミックの提案を了承した。
「花凜がやるなら私も構わない」
「そうだな…その条件なら俺も構わないと思うぞ」
「よし、わかった!しかし試験をしない訳にもいかないな…
魔力を測ったら、俺と模擬戦をしよう。
その後で身分証にもなるちゃんとしたプレートを発行する!
そして、リオンと花凜でチーム登録をしようと思う」
ミミックは机の引き出しから、銀色の板を取り出し私達に渡してきた。
先程ミミックが持っていたプレートとは違い、なんだか真新しい気がする…
プレートを手渡されると、リオンが不敵に微笑んだ…実に悪い笑みである。
「約束したからな、わかっているな?」
リオンが魔力遮断を解いた。
今回は遠慮無しの完全版だ…少ない魔力でネチネチ結界を作るのとは理由が違う…
そして少しプレートに魔力を流したらステータスが表情された。
どんな数字が出ているのか気になったので、私も一緒に覗き込んでみる。
しかし何て書いてあるのかわからない…
「ストーップ!ストップストップストーーーーーップ!!!」
ミミックがいきなり大声を張り上げたので、油断していた私は再度びっくりした。
「何をだ?」
ミミックの急な変わりように、リオンが疑問顔になる。
私もわけがわからずにミミックを見た。
「魔力を!魔力を遮断してくれ!!」
「何やら忙しいな、わかった」
リオンは魔力を遮断して周りを見ると、汗だくのミミックと気絶しそうなロナウド…
立っているのも辛そうだったので、私はロナウドを椅子に引っ張り座らせた。
ミミックは暴れる心臓を抑えつけて、何とか平静を取り戻そうとしているようだ。
「次は私かな?」
私がそう言うと、ミミックの顔色が更に青くなってしまう。
「少し…待ってもらえないだろうか…」
「まぁいい、とりあえずステータスプレートだ」
魔力 90900
「命に関わるから、魔力以外は伏せさせてもらおうと思ったのだが…どうやら魔力の量しか測れないようだな」
ミミックは想像と桁違いのリオンのステータスに、愕然としている様子だ。
リオンにとっては特別な事はしていない、ちょっと魔力遮断を解いてプレートに魔力を流しただけだからだ。
「花凜さんに聞きたい、花凜さんの魔力はリオンさんと比べるとどれくらいなんだ?まさかリオンくらい魔力があったりするのか?」
リオンの魔力を感じて、街がパニックになるくらいだ…
私は本当の事を話しても良いのだろうか?
「…リオンどうしよ、言ったらバレるかな?」
「いいや、きっと理解の範囲外だろう…普通に言っても大丈夫だと思うぞ?」
私はみんなの反応を見て少し不安になったが、リオンは大丈夫だと言った。
「どういう事なのだ?」
私の悩んだ顔を見て、ミミックが声をかけてくる。
「えと…私の魔力は、今はリオンの20倍くらいだよ?」
「…」
魔力の量と強さは別だ…
強力なエンジンがあっても、私にはまだそれを行使出来るフレームがないのである。
「花凜はまだまだ成長する、これからが楽しみだな」
「魔力遮断を解いてこれに魔力を流すんだよね?」
リオンは少し機嫌が良さそうになったが、私は早く終わらせてしまいたかったので、プレートの使い方を再度確認する事にした。
ミミックは少し考えると、手で私の行動を止めて口を開く。
「いや、特例としてステータスは無くていい…それより君達は本当に人間なのか?」(ミミック)
「人間だと言った覚えはないぞ?
私達は人間ではないからな、花凜は元人間だ…
それとも人間しか冒険者をやってはいけないのか?」(リオン)
「そんなことはない…ナンバー冒険者の中には、ドラゴンを従えている者もいるし亜人もいる。
理解が追いつかなくて動揺してしまったが、絆の宿は君達を歓迎する」(ミミック)
「良かったな、とりあえず話が纏まってひと安心だ」(ロナウド)
ロナウドは話がひと段落した事に安心して、私に笑顔を向けてくた。
私も嬉しくなり、ロナウドに笑顔を返した。
「君達はSランク冒険者からスタートして欲しい。
間違いなく実力はナンバー入りなんだが、実績無しだと流石に反撥もあるだろうからな…普通はGランクスタートだから、それでも異例だぞ?」
ランクとかはよくわからないが、丸く収まった事で、私は安心した。




