エルの魔改造…奪えない物
「とりあえず俺は屋台を片付けてくるな」
お昼ご飯を食べ終わり、ホッとひと息ついていると、ロナウドは屋台を片付けるために家を出ていった。
完全にでは無いかもしれないが、私達の事を少しは信用してもらえたのだろう。
縮まった心の距離に、私は嬉しくなって笑顔になってしまう。
リオンはそんな私を見て、また頭を撫でてくれている。
私はエルの手足を作る約束をしたので、どんな手足にするかリオンと相談する事にした。
「エルの手足はどんなのがいいかな?」(花凜)
「そうだな…触れたものを感電死させる機能とかつけたらどうだ?」(リオン)
「ちょ!」(エル)
「んー…花柄の腕なんてどう?」(花凜)
「ふむ…そこから毒の爪なんかが飛び出すとかはどうだ?」(リオン)
「あ!飛び出す系いいね!」(花凜)
「ちょっと待て〜い!」(エル)
「左手から傘が飛び出す機能は?」(花凜)
「…ふむ…なるほどな…濡れるのは嫌だもんな…」(リオン)
「ねぇ…ちょっとは話聞いてよ…」(エル)
「私わかった!櫛と鏡は必要だよね」(花凜)
「それなら結界を張る機能と、各属性の魔法攻撃も必要だろう?」(リオン)
「…」
こうしてエルの魔改造計画はちゃくちゃくと進んでいく…
エルの言葉は全て無視!私達は楽しかったのだ。
更に生命力を強化すれば、普通の手足を作る事も可能だとは思うが、それでは面白くない…
良いアイデアは沢山出たが、魔法が使える手足の創造は、自分自身が使えないので、かなり苦労する事になる。
試行錯誤を繰り返し、やっと納得のいく手足が完成した。
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それから2時間後…ロナウドが帰宅すると、既にエルの手足は装着済みだった。
ロナウドはエルの元気な姿を見て、再び感動しているようだ。
息子がまた昔みたいに歩いているのだ…ロナウドも感極まったのは仕方ないだろう…
それだけロナウドは、エルを助けるために苦労してきたのだ。
私はロナウドの力になれて嬉しいかった。
エルは何故か複雑そうな顔だ…きっと感動で気持ちが追いついてないんだろう!きっとそうだ!
「よかったなエル」(ロナウド)
「…」(エル)
「パパが今まで頑張ったから、私が来るまでエルは生きてられたんだよ♪間に合って良かった」(花凜)
「ありがとう(涙)」(ロナウド)
「…」(エル)
ロナウドはエルが一言も話さない事が気になり、エルの顔を覗き込んだ。
「エル?大丈夫か?顔色は悪くないようだが…見た目も違和感なく、本物の手足のように見えるぞ?」
不思議そうなロナウドを見て、エルは戸惑いを抑えて口を開いた。
「親父…それがな、18年間連れ添った腕や足のように、全く違和感が無いんだ…しかも痛覚や温度まで感じる…」(エル)
「よかったじゃないか!本当にありがとう花凜さん」(ロナウド)
「どういたしまして♪」(花凜)
「見てくれ親父…左の拳から鋼鉄みたいな木製の爪が出て…」(エル)
――――ジャキン――――
「あ、ああ、よかったじゃないか」(ロナウド)
「両足にはスプリングが内蔵されてて、高速移動可能になってる…ジェット噴射で、空も飛べるんだ…
肘からは部屋を掃除出来るように、空気を吸い込む筒が出てる…
次に身だしなみセットとして、櫛と鏡も出てくる…
あと電撃を放てる手…折りたたみフライパンが出てくる手首…雨の心配が無いように傘まで…
太ももが開くようになってて、中からテディベアが…あと高枝ハサミと、こっちからは結界機能と棘を飛ばすニードルランチャー…」(エル)
「ソウカ…ヨカッタナー…」(ロナウド)
「親父!」(エル)
「ヨカッタジャナイカーウラヤマシイワー」(ロナウド)
「くそー!」(エル)
元気に家を飛び出すエルを見送り、ロナウドは何故か遠い目をしていた。
私達は最高傑作のエルが完成して、大満足だった。
全ての夢を詰め込んだ、理想の手足を持つエルは、すぐに地平の彼方へ見えなくなっていく…
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【エル】
(クソ!クソ!なんて高性能なんだ!)
家を飛び出し、俺は天高く飛んで行く、小さくなったソルの街を上から眺めていた。
(全然疲れない…魔力で飛ぶ?ジェット噴射を使っているのに、何故か使うそばから回復していく…
しかも全てが思い通り動く…なんなんだいったい)
嬉しいのか悲しいのか、俺には良く分からなくなっていた。
(それにあの二人はなんなんだ?あの魔力は?とんでもない化け物だ!もう後は死ぬだけだと思ってたのに、何がどうなっているんだよ…)
空中で考え事をしていると、遠くで子供の泣く姿が目に入った。
2歳か3歳くらいだろうか?近くには親がいないみたいだ。
(街がこんなに小さくなってるのに、何でこんな遠くから子供が見えるんだよ…手足が見せているのかわからないが…仕方ない、行くか…)
飛んでる姿が見つかれば、騒がれるかもしれないので、ステルス機能を使って地面に降り立った。
(自分に出来る事が、考えるだけでわかる…変な感覚だ)
とりあえず子供に近付き、周りを見渡してから、俺はステルスを解除する。
「こんにちは、お嬢ちゃん迷子?」
「うわぁ〜ん」
(めっちゃ泣いてる、こんな時は…)
「ほら、口を開いてごらん?キャンディーだよ」
手の甲を開いて、キャンディーを出した…それをそのまま子供の口に放り込む。
「むぐ、むむ、甘い!」
「ああ、甘いぞ!しかもまだまだあるぞ…これ多分無限だから…もっと食べるか?」
「うん!」
子供が泣き止んでひと安心だ…今は花凜の言っていた、飴は絶対必要!っという言葉に不満ながら同意した…
「なんで泣いていたんだ?お父さんとお母さんとはぐれたのか?」
「お父さんもお母さんも私にはいないよ、私は悪い子だからいないんだって言われたの…だからあそこに住んでるんだって…」
どうやら近所の子供にいじめられたらしい、それにしても子供と言うのは残酷だ…
(孤児院に住む小さな子供に、そんな事を言う奴がいるなんてな…)
「君は悪い子じゃない、僕は嘘つかないからね!」
「ほ、ほんとう?」
「ああ本当だ!悪い子って言うのはな、悪い事をしても悪いと思わない奴の事をいうんだぞ」
「よく分からないよ」
「んー、そうだな…じゃあ俺を信じてみてくれ、俺は空だって飛べるし、何でも出すことが出来る!」
「ほんとなの?」
「ああ、本当だ」
俺は小さい女の子を抱きかかえると、ステルス機能を使って不可視化する。
「いくぞ」
ゆっくり浮かび上がると、そのまま空高くまで登っていった。
女の子が寒くないように、体の周りに結界も張って、空から街全体を見せてあげる。
夕日を浴びて輝く海や、雲の上に出て星を見る。
「お兄ちゃんの言った事は、本当だっただろう?」
「うん!お兄ちゃんは嘘つかない!だから私は悪い子じゃない」
「そうだ、それにな、本当にお父さんとお母さんはいないと思うのか?」
「居ないよ…院長先生が、お父さんとお母さんは死んじゃったんだって言ってたもん」
「お父さんとお母さんは、どんな人だったんだ?」
女の子は目を閉じて、少し昔を思い出してるようだ。
少し考えてから、俺の質問に口を開いた。
「お父さんは、私を色んなとこ連れて行ってくれた。
お母さんは、私に美味しいクッキー作ってくれた…」
思い出して寂しくなったのだろう…また少し涙ぐんでいる。
しかし、その優しい思い出が、辛いだけの物になってはいけない。
俺は良い事は言えないかもしれないが、精一杯考えた。
「そうだ、思い出せばいつでも会えるんだぞ?それは誰にも奪えないじゃないか!いつだって思い出せば、また優しく笑ってくれるだろう?
だから君が、お父さんとお母さんはここに居るんだと思えば、居るんだよ…いつでも君の側にいる」
「そっかー、お父さんとお母さんはいたんだ!」
(俺も幼い頃に、母親が居なくなった…寂しい気持ちは良くわかる…今は時間がかかるかもしれないが、何とか届いてくれただろうか?)
それからしばらく空の散歩をして、地上に戻る頃には女の子も元気を取り戻しているようだった。
(俺は不器用だな、もう少し上手く言えたら良かったのに…言葉が上手く出る機能もつけてくれよ…)
「これあげるよ」
「わー!くまさん!」
「君が本当に危険になった時に守ってくれるくまさんだ、普段から持ってるといいよ」
「ありがとうお兄ちゃん」
俺はこのクマに、自信を持っていた。
「具体的には、手から麻痺毒付きのニードルランチャーが出て、口からは火炎放射で敵を焼き尽くす。
お腹からドリルと結界…それと…あ、いや、なんでもない」
「なんだかわからないけど、ありがとう」
俺は女の子を撫でてからステルスでサッと消えた…もう大丈夫だろう…物理的には…
(あれ?俺は何で悩んでたんだっけ?…まあいっか…帰るかな…)
とりあえず俺は、あの狭い家に帰る事にした。
人間の域を超えてしまった気はするが、きっとそんな悩みは些細な事だろう。
誰かの役にたてるなら、こんなに嬉しい事は他にはない。
花凜にまだ感謝の言葉を言っていないので、ちゃんと頭を下げて言うべきであろう…
(帰ったら花凜さんに感謝の言葉をかけよう)
空を飛びながら俺は苦笑いした。
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「おかえりなさい♪」(花凜)
「おかえり」(リオン)
「おお、帰ったか!」(ロナウド)
「ただいま!それとさっきはすまなかった…花凜さん手足を作ってくれてありがとう」(エル)
「いーえ♪」(花凜)
ちゃんと手足の御礼が言えて、本当に良かった。
夜ご飯はロナウドが作っていたらしく、自分の好物がテーブルに並んでいる。
今日は自分の手で食事が出来るのだと思うと、嬉しくてとても感動した。
「僕は嘘つかないからね…ボソボソ」
「!!?」
(今花凜さん…なんて言った?え?)
「それは誰にも奪えない…ボソボソ」
「!!!?」
「ごめんなさい…聞くつもりじゃなかったんだけど、その手足は私に全部伝わるの。
でも…か、かっこよかったよ?」
「…」(エル)
俺は恥ずかしさのあまりに、再び空へ飛び立つのであった…
―――その恥ずかしさも、エルの言葉を借りて言えば、きっと誰にも奪えないものなんだろう―――




