プロの戦闘、2つ名
【エル】
(暇だし掃除洗濯でもすっかな…)
全員が絆の宿へ出かけて行き、家の中はとても静かになった。
(それにしても、あの2人は美人すぎる…)
謎の多い彼女達は、いったい何処から来て何がしたいのだろうか…
助けてもらった事に感謝はしているが、この先上手くやっていけるだろうか?
しばらく俺らしくない考え事をしながら、深くため息を吐いた。
肘から掃除機と言う木製の筒を伸ばすと、俺は部屋の隅からゴミや塵を吸い込み始める。
(しかし本当に便利だよな、吸引力の落ちないなんちゃらって言ってたけど…
確かサイク○ンなんちゃらがどうとかって)
掃除機をして、気分も少し良くなってきた。
次は庭の草刈りをしようと思い、長袖長ズボンに着替えた俺は、家の扉を開いて外に出る。
左手から鋼鉄に見える爪を伸ばし、生い茂る雑草に斬りかかった。
(結構重労働だな、花凜さんに頼んで、俺の足に草刈り鎌でもつけてもらおう)
俺は完全に、この新しい手足の虜である…
次は庭に生える大きな木に近づき、高枝ハサミを伸ばしてみた…しかし、何をしたらいいか分からず引っ込める。
木の手入れなどした事がないので、無闇に切るわけにもいかないだろう…
(って言うか…空飛べるんだから高枝ハサミいらなくない?)
刈った草を掃除機で全部吸い込んでいく。
(この吸い込んだものって何処にいってるんだろうな…)
恐ろしい事を考えそうになったが、たまには掃除もいいものだ!と思い、頭の中を切り替える。
動いて少し汗をかいたので、明るい時間だが湯浴みをする事にする。
(良し、折角だしゆっくり入ろう)
まだ昼間だが、他にやる事もなかったのだ。
体はバッチリ完治しているが、病み上がりなのには違いない。
浴槽にお湯を張り、脱衣場に服を脱ぎ散らかす。
射し込む日光が気持ちよく、昼風呂とはなんて贅沢なのだろうか…
久しぶりに自分で入れる風呂が嬉しくて、狭い風呂だが天国にいるような気分になった。
「ああー、最高ー」
気分が良くなった俺は、誰も聞いていないので鼻歌全開だ。
長湯をしたので、ぽかぽか身体から湯気がでている。
実に清々しい気分だ!
(風呂から出たら洗濯もやってしまうか、どうせ親父洗濯物ためてるだろうし)
洗濯物の中身を裏返すと、女性物の下着が出てきた。
(こ、これは!花凜さんのか?それともリオンさんのなのか?)
ゴクリ…俺はいけない考えが頭の中をよぎる…
(い、いや!ダメだ!そんなの人として、絶対にやっちゃいけない!)
俺は顔を振り、頭から変な考えを追い出そうとする。
しかし誰も見ていないのだ、俺の頭の中で、天使と悪魔が討論を始めた。
(エル、やっちゃいなよ!家に誰もいないんだぜ?)悪魔
(ダメだよー!エルしっかりしてよ!それをやっちゃったら…)天使
(そんなこと言ったってよ、花凜とリオンはいつまで家にいるかもわからない、あんなに可愛いんだぜ?)悪魔
(でも、でも…)天使
(わかってくれよ、天使が言ってる事もわからないでもない…
でもな、もし明日死んだとしたら、その後悔は間違いなく今日の下着に戻るんだ…
あの時履いておけば…良かったなってな!)悪魔
(そこまで考えてなかったよ、私が浅はかでした…ごめんなさい)天使
(わかってくれたか、ならいつまでもこうしてられないからな!少しだけ見逃してくれ)悪魔
悪魔の囁きに、俺は屈してしまった…
そっと両足を通してみる…
(何やってんだろ俺…)
自分でやっといて、自分にツッコミを入れた…次は胸当てを見つけた。
(これは間違いなくリオンさんのだな、まあこのさいだし着けてみるか…まあすぐ外すけどね)
俺はこのさいだしと考えたが、どのさいがわからない…
すぐに外すので良いだろうと、自分自身に言い訳する。
俺は胸当てを胸じゃなく目の所につけた。
気分はアイマスクだ。
(これでいいかい?悪魔さん)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
【花凜】
「模擬戦はしなくていいの?」
私はミミックに尋ねる。
「俺も元ナンバー持ちだったんだが、パーティーを解散してからは、すっかり事務方になってしまっている。
普通の冒険者の相手なら問題ないが、君達の相手は流石に無理だ」
模擬戦の試験無しでSランクの冒険者資格をもらえるらしく、普通とは違う待遇に少し申し訳ない気分になった。
しかしまだ魔力遮断をしながらだと、そこまで手加減も出来ないので、やらなくていいならそれでもいいかと思う。
「うちの絆の宿を利用していて、君達と少しは戦えるナンバー冒険者はいるんだけどな、まだ依頼から帰ってきてないんだ」(ミミック)
「私達の事かな?」(?)
急に女の子の声が聞こえ、目の前の空間が歪んだように見えた。
中から出て来たのは、深夜にロナウドの家の様子を伺っていた黒狼族のドクとミーだった。
2人は依頼を終えて街に入った後、ゆっくり歩いていたのをもくちゃんを通じて確認している。
リオンの解放された魔力を感じて、すぐに戻ってきてたのだろう。
私は2人を確認していたが、途中から見失っていたのだ。
「話は途中から聞かせてもらってた、姉ちゃん凄い魔力だなー」(ドク)
「ほんと凄いよね!天地がひっくり返ったかとおもったもん」(ミー)
「それで逃げなかったのなら、手合わせしてみるのもいいだろう、最近狩りもしてなくて暇だったのだ」(リオン)
「じゃあ私は蘇生係するから、みんな思いっきりやってもいいよ」(花凜)
「おい…ちょっと待ってくれ!まだ何も言ってないだろう?」(ミミック)
「祭りか!屋台用意しなくちゃな!」(ロナウド)
話がどんどん進んで行き、ミミックが疲れた顔になる。
リオンもロナウドもその気になっているので、ミミックの焦る様子に気付いた私は、少し苦笑いになった。
「はぁ〜…わかったわかった…演習場を空けるから、少し待っててくれないか?
結界が使える魔法使いも、沢山集めなくちゃならないからな」(ミミック)
「私一人で戦うぞ?花凜の魔力に耐えられるような、特殊な結界を張れる者はいないだろうからな」(リオン)
「気をつけてね」(花凜)
この後すぐに全員で演習場に向かう事になる。
絆の宿の職員達は、とても協力的で迅速に準備を整えてくれているらしい。
演習場と言っていたが、グラウンドのような所ではなく、大きなコロシアムのような場所だった。
実際に昔はコロシアムとして使われていたらしいが、王都が移された関係で使われなくなっていたそうだ。
中には訓練中の冒険者や、ストレス発散に魔法を使う人、剣の素振りをしてる人など、様々な使い方をしている人達がいた。
「これから双黒の風と、新人冒険者の模擬戦を執り行う!
みな戦闘を参考にするように!少しの間、俺達に場所を貸してくれ!」
ミミックの大きな声を聞いて、歓声が巻き起こった。
ドクとミーのチーム、双黒の風は大人気のようだった。
憧れのナンバー冒険者の戦闘が見れるとあって、みんなが協力的に 場所を譲ってくれる。
ロナウドは、串焼きの屋台を準備しているようだった。
「花凜さん、本当に回復は任せていいのか?」(ミミック)
「うん!私じゃないとダメだと思うから」(花凜)
私はリオンを見て、手加減はする筈だろうとは思うが、どこまでやるかはわからないので、他の人に任せる事は出来なかった。
「花凜がいるならやりすぎる事はないだろう、よろしく頼む」(リオン)
「ちょっと待ってくれよ…回復が必要なのは、あんたかもしれないぜ?」(ドク)
「本当に2対1でいいの?」(ミー)
「ああ、問題ない、武器も魔法も使ってくれ」(リオン)
「それくらいの実力差があるのはわかってるけど、絶対に見返してやるからね」(ドク)
「最初から全力全開で行くよ」(ミー)
演習場に入って行く私達…いつの間にか観覧席が人で溢れ返っているようだ。
(みんなお祭り大好きなのかな?)
ロナウドも、串焼きが売れてホクホク顔である。
「いつでもいいぞ、胸を貸してやる」(リオン)
「どこまでも強者面だな、痺れるぜ」(ドク)
「私もそんな言葉が言えるほど強くなりたいわ」(ミー)
「私は離れてるからね、みんな楽しんで」(花凜)
場が緊張していくにつれて、観覧席も静かになっていく…
ドクとミーの表情から笑いが消えた。
「こらこら!まてまて、結界班頼む!」
慌てた様子で、ミミックが急遽集まってくれた魔術師に号令を出した。
魔術師達の結界が張られると同時に、魔力遮断を解くリオン…
「ひぇえー」(魔術師A)
「なんだよなんだよ!あれは…」(魔術師B)
リオンの圧倒的な魔力を感じて、魔術師達は恐怖している。
「が、頑張れ!ただの模擬戦なんだ!」(魔術師C)
魔術師の1人が尻もちをついてしまい、先輩風の魔術師が若手を落ち着かせている。
ついでに言わせてもらうなら、戦うのは君達ではないのだ…
リオンは首の骨を鳴らしてから、人の姿のまま四つ足で立った。
リオンは内包する魔力を一気に高めていく…
観覧席は、リオンのプレッシャーに声も出ないようだった。
「うっひぃー、あれやばいやばい」(ドク)
「プレッシャー半端じゃないわね…気を抜かないでドク」(ミー)
もういつ戦闘が始まってもおかしくない、場の緊張が最高潮に達した。
「来ないのか?来ないならこっちから…」
リオンの言葉を遮るように、ミーが正面から突っ込んでいく。
魔法も使わずに飛び込んでいくので、あれなら私でも対処出来そうだと思った。
リオンは風の衝撃波を放つと、ミーの姿が霞んで消えた…
いつの間にかドクも消えている。
「ここだぜ?」(ドク)
リオンが後方から声をかけられて、反射的に後ろに意識がいきそうになったが、リオンは飛び上がり、何も無い筈の空中に、拳を突き立てる。
歪んだ空間から吹き飛ぶドク、しかしそれも消えてしまった。
(凄い…私には全然わからないや…何をやっているんだろう?)
「姿を隠すのが上手いな、強者との戦闘経験もそれなりにあるようだ…しかし、初めから全力と言っておいて様子見か?
だが悪くない判断だ」(リオン)
「フレアクロー!」(ミー)
背後から首狙いの一撃!
ミーは白銀の爪を炎の魔法で射程を伸ばし、凄い速度で振り切った。
リオンは後ろを見ずに屈んで避けると、一瞬で距離をつめて、回し蹴りを叩き込む。
腰に重い蹴りを食らい豪快に吹き飛ぶが、ドクが現れてミーを受け止めた。
「騙し討ち当たらないや、腰痛いよー」(ミー)
「今度は力押ししてみるか…」(ドク)
ドクが身体強化と思われる光を放ち、正面から突っ込んで行く。
爆発的な飛び込みの速さに、遠くで見ている私もドクを見失ってしまった。
後ろでミーは呪文詠唱しているようだが、呪文を唱える魔法なんて、私には全くわからない…
「エンチャントフレアニードル!」
ドクの八角棍の周りに飛翔する炎の棘…高速で打ち込むドクの攻撃を、補助して付いてくるようだ。
頭から打ち下ろしてくるドクの八角棍は、大気を焦がすようにメラメラ燃えている。
リオンは後ろにステップして、攻撃を躱そうとしたのだが、続く炎の棘が容赦なく襲いかかってきた。
八角棍単体なら避けるのは容易いだろう…しかし、フレアニードルがリオンの体の近くを通る瞬間に爆発を起こす。
視界を奪われながらも、間一髪距離をとってやり過ごすリオン。
「サンダープリズム!」
ミーはリオンに雷の魔法を仕掛けたようだ。
リオンはドクの対処に集中し過ぎていたため、忘れていたわけではないが、ミーに大きな魔法を使う隙を許してしまった。
天から降る落雷の如く、リオンを取り囲むように雷の柱が地面に突き刺さる。
この魔法は、きっと発動する前に潰すのがセオリーなのかもしれない…落雷を避けれる程速く動けるなら別だが、そんな事は現実的ではないからだ。
詠唱に少し時間がかかっていたが、双子の信頼関係が補い合い、互いに合図なく上手く攻撃を繋いでくる。
(凄いなー…これがプロなんだね!)
ドクは雷の隙間を縫うように、八角棍を突き出してきた。
「つまらぬな…ダイヤモンドダスト」
普通ならサンダープリズムにハマり、少なからずダメージを受けるところなのだろう。
しかしリオンの魔法にはタメがなく、魔法詠唱も本来ならいらないのだ。
私もリオンと同じくそのまま魔法を使う事が出来るが、ここまでそれをやらなかった理由は、リオンなりの手加減なんだと思う。
この時私はわからなかったが、ダイヤモンドダストという人間の上位魔法に似せた、リオンの氷魔法である。
サンダープリズムは消し飛ばされ、ついでにフレアニードルも消された。
リオンはドクが突き出してきた激しい踏み込みの八角棍を、素手で掴んだ…そしてドクに笑顔を向ける。
刹那の事だが、ドクはその笑顔を見逃さなかった…
危険を悟り、すぐに距離をとろうとするが既に遅かったようだ。
「ショックボルト!」
「ーーー!」
リオンがドクに魔法を放つ!
八角棍を伝う電撃が、意識を狩りとらない程度に加減されて、ドクの体を焼き焦がした。
麻痺した体は言う事を聞かず、リオンの目の前で硬直してしまう。
「早く私に本気を出させてみろ」
八角棍を受け止めていた反対の手で、ドクの腹を深く突き刺した。
飛び散る血液が、生々しく空中に花を咲かせる。
リオンはドクに前蹴りを叩き込むと、サッカーボールのように吹き飛ばされていった。
ドクを受け止めようとしたミーも一緒に、壁際まで吹き飛ばされる。
(ああああ!痛そう!)
静まり返る演習場の人達…命に関わるかもしれない重症なのは、今のを見れば一目瞭然だ。
私はミミックの顔を見たが、視線を送る私に気づいていない様子だった…
流石に中止の合図があるかと期待したが、まだテスト中と言う事なのだろうか?
「げほ、やべ、死ぬ…」(ドク)
ドクは刺された腹の傷を、素早く布で応急処置をする。
しかし油断は一切してないようで、視線はリオンに固定されている。
「何で?何でサンダープリズムが、一瞬で吹き飛ばされるのよ…」
本来なら、後出しの魔法で簡単に消されたりしないのだろう…
ミーも悔しい顔をしているが、リオンから目を離したりしなかった。
「俺のフレアニードルはついでのように消されたぜ?」
ドクは呆れた様に笑っていた。
「不意がつけなくて、力でも負けている…油断もないし、きっと戦闘経験も違う…しっかり準備した魔法も通じない…」
「せめて一撃入れたいよな…ていうか血が止まらねぇ…」
「もう色々考えるのはやめよっか…私達の切り札使いましょ…」
「……そうだな、わかった…ミー」
ドクとミーの雰囲気が変わっていくのがわかる。
殺意を込めたその目は赤く輝き、魔力がどんどん上昇する…
ドクは八角棍を横に捨てた。
「「黒風の装束」」
2人のチーム名の由来になった技だろうか?
ドクとミーは狼のように四つ足で立つと、身体に黒い風を纏い始める。
あれはただの風では無いだろう…いったい何で出来ているのだろうか?
リオンも分析しているようだが、腕を組み首を傾げる。
「見たことない魔法だ…」
「「自分達で作った!」」
ドクとミーが準備をする間、リオンは一切動かなかった。
双子は左右に揺さぶりをかけながら、リオン目掛けて突進してくる。
多重攻撃に、身体強化と特殊な風の乱舞…
魔法による限界を超えた速度で、リオンを圧倒しているようだ。
2人がかりで入り乱れ、上下左右前後から、爪や蹴り技の連撃を繰り出してきた。
これにはリオンも、回避するので精一杯なように見える。
「凄いー!…私じゃあんなの避けられない!頑張れ〜ドク〜ミー」
ドクとミーの攻撃は、リオンを色々な角度から攻め立てる。
リオンの桁外れの敏捷性と野生の勘をもってしても、避けるのが不可能になって手で弾いた…
「ただの身体強化魔法じゃないんだな、厄介な風だ」
黒い風は、リオンの身体に少しずつまとわりついていく…動きが阻害され、感覚すら鈍くなっていってるようだ。
視界もどんどん悪くなっていくようで、リオンの顔も険しくなっている。
「お返しだ!ショックボルト!」(ドク)
「砂塵の嵐!」(ミー)
「自在の黒爪!」(ドク)
「束縛する大地!」(ミー)
ショックボルトがリオンを一瞬硬直させた…その隙をついて、巻き上げられた砂塵が、完全にリオンの視界を奪ったようだ…
ドクは自在の黒爪という技を発動する。
攻撃を避けるために、視界を閉ざされながら距離をとろうとした…しかし、今度は足の自由を奪われてしまう。
リオンは反射的に、自分の身体に結界を張り、両腕をクロスして、急所を守るように防御の姿勢をとった。
「もらった!」(ドク)
しかしリオンの身体の手前で宙を掻くドク…
リオンの顔の表情が変わる!
(あ…リオンが怒った…)
「ま、待って〜」
私の静止は一足遅かったようだ…空中で無防備になっているドクを、動くようになった足で蹴り飛ばした。
ミーに向けて蹴り飛ばしたので、縺れ合うように吹き飛んでいく。
そこには手加減など一切なく、普通の魔獣が食らったならば、体がバラバラになりそうな威力があった。
「…氷の戦場」(リオン)
一呼吸のうちに追撃で放たれたリオンの魔法は、地面を一瞬で凍りつかせた。
地面から溢れ出す氷の剣や槍が、体勢を崩されていた2人に襲いかかる。
空中にいたこともあり、ドクとミーは、なす術なく全身を貫かれ、串刺しになってしまった。
(リオン…エグいよ…恐ろしいにゃんこ)
「一撃…入れて…やったぜ…」(ドク)
リオンの左腕がずるりと地面に落ち、右腕からも血が吹き出した…
ドクのオリジナル技、自在の黒爪は、防御を無視した見えない斬撃…
リオンも油断はしていなかったが、2人の息の合った攻撃に、判断が遅れてしまったのだ。
「見事だった、最後の一瞬は、私も本気だったぞ」(リオン)
リオンが少し微笑む…それを見た2人も少し微笑むと、すぐに2人は息を引き取った。
「リオンお疲れ様!でも少しやり過ぎじゃない?」(花凜)
「なかなか楽しかったぞ、鍛えれば強くなりそうだな!
最後のはついついやり過ぎてしまった…私に余裕が無くなる程追い詰めたのだからな」(リオン)
目の前の凄惨な光景に、息を呑む冒険者や観覧席の人々…ミミックが大急ぎで駆け寄ってくる。
「ドク!ミー!ああ…なんて事してくれたんだ…こんなに若くてとても良い子達なのに…死んでしまうなんて…」(ミミック)
「ちょっと死んだだけだろうが…」(リオン)
「死んだらそれで終わりなんだぞ!」(ミミック)
ミミックの言葉を聞いて、我に返る観覧席の人々…涙を流す者や武器を握りしめる者までいる。
このままでは、すぐにでもリオンに襲いかかりそうだった。
「花凜、面倒だから早めに頼む」(リオン)
「何をするつもりだ!?みんな!油断するな!」(ミミック)
「そうだね!リオン氷の魔法解いて」(花凜)
氷が砕け散り地面に横たわるドクとミー…
遺体の側に歩み寄った私は、ドクの胸に手を置いた…
(これくらいなら、魔力の遮断したままでも大丈夫そう)
青白い発光と共に、ドクの傷は急速に塞がっていく…
「な、何が起きているんだ?」(ミミック)
ミミックは、今目の前で起きている出来事が、理解の範疇を超えてしまったように呆然としている。
青白い光が収まり、ドクの意識が戻ったようだ。
演習場の人達も、夢の中に居るのか疑うように、自分自身の頬を抓ったりビンタをしたりしている…
(変なとこ異世界共通だよね…)
何が起こったのかわからないのは、ドクも同じだった。
キョトンとした顔がとても幼く見えて、私は思わず頭を撫でる。
「おはようドクちゃん、おかえり」(花凜)
「あれ?そう言えば…ミー!ミーは?」(ドク)
ミーはまだ無惨な姿で横たわっている
「今治すから待っててね」(花凜)
「…」(ミミック)
「…」(ドク)
「…」(観覧席)
私はミーの胸に手を置き、ドクと同じように完璧に治した。
ミーもすぐに意識を取り戻して、目が開くと周りを見渡した。
「あれ?ドクは?」(ミー)
「先に生き返ってるよ、おはようミーちゃん」(花凜)
「な、なんだと言うのだ…」(ミミック)
「言っただろう?ちょっと死んでるだけだって」(リオン)
起き上がったドクは、ホッとした顔でミーの頭を撫でている。
ミーは嬉しそうに、ドクの膝に体を預けた。
ミミックや観覧席の人達は、今見た事が理解出来ないのだろう…そこで私はいい事を思いついた。
「そうだ!エルも病気が治ってるんだよね♪
だからそれを見たら信じてくれる?」(花凜)
「わかった…やっと信じることが出来そうだ…今からロナウドの家にいくか…」(ミミック)
「あ!魔物の素材も売りたいから、エルに持ってきてもらうね!
ちょっと手足の遠隔操作で、ここまで魔物の素材を持ってきてもらうから」(花凜)
「まったく…出鱈目すぎるだろう…わかった、なら待つか」(ミミック)
私は目を閉じて集中する…
(さっと素材持ってぱっと飛ばそう、良し!OK)
「空飛んで来るからすぐに現れるよ」(花凜)
皆が私の指さす方向を見ると、飛んでくる影があった。
その影は高速で近付き、演習場の中央に降り立つ…
エルは何故かリオンのパンツを履いて、リオンの胸当てをアイマスクにして、火照った身体から湯気が出ていた…
(え?なんで?)
「なんだ!なにがどうなっているんだ!」(エル)
(それ…私が聞きたい…)
「…」(全員)
「クソ!何で手足が勝手に…こんなとこ誰かに見られる訳にはいかないのに!」(エル)
「…」(全員)
「エル…よ…」(ロナウド)
「親父!いるのか!前が見えないんだ!助けてくれ!」(エル)
ロナウドは、エルの頭からリオンの胸当てをとると、エルに声をかけた。
「私もお前のこれからが見えないよ…そんな性癖を助けてやる事も出来ない…」
涙を流すロナウド…リオンは自分の昨日履いてた下着を着けたエルをみて、呆然としている。
私は涙目でリオンに抱きつく…引きまくりのドクとミー…
「花凜さん…あれは治せないのか?」(ミミック)
「無理…嫌…です…」(花凜)
そう、無理だし嫌なのだ…
この日エルに2つ名が誕生する。
空翔ける下着、盲目の変態、生き返ったが死んだ男、タダでは起きない男、ハミチン○、などなど…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
リオンの傷を治して、絆の宿のミミックの部屋に帰ってきた。
私、ロナウド、リオン、ドク、ミー、ミミックの6人だ。
エルに何と声をかければいいのかわからず、そのまま演習場に置いてきてしまう…
私達は、エルにどんな対応をすれば良かったのだろうか?
絆の宿に戻ってきてから、ドクとミーは部屋の中のソファーですぐに寝てしまった。
30分くらいで目を覚ましたが、まだ眠そうに瞼を重たくさせている。
「試験は合格だ、次元の違う戦いに、皆歓声すら出なかったな」
ミミックは戦いを振り返るように、目を閉じて頷いている。
無事合格出来たようで、今日から私達は冒険者だ。
(なんだかとても疲れちゃったな…精神的に…)
「「かっこよかったです、師匠!」」
「お前達も悪くなかったぞ、まさか腕を斬り落とされるとはな、その後ついやり過ぎてしまった」
さっきのエルの事は、皆頭の中から消したようだ。
ロナウドも近くにいるので、余計にその話題は出さない方がいいだろう。
リオンは、ドクとミーに軽く微笑み賛辞を送る。
眠気を克服したドクとミーは、リオンの言葉に嬉しくなった様子だ。
私にはわかる…ソファーの後ろで尻尾が振られているからだ。
「さっきのは肝を冷やしたぞ、死んでも生き返らせれるなんて…先に教えて欲しかったな」
「「花凜様ありがとう」」
ミミックはそう言ったあとに、冷たい紅茶を持ってきてくれた。
みんな喉が乾いていたようで、すぐに売り切れる。
「では、Sランク冒険者からスタートって事でいいな、リオンさんと花凜さんのチーム名は決まっているか?」(ミミック)
「まだ何も考えてないよ」(花凜)
「「ちょっとまった〜」」(ドク、ミー)
ドクとミーが立ち上がった。
「どうしたんだ?」(ミミック)
「俺もミーももっと強くなりたいんだ!」(ドク)
「うん、もっともっと!強くならなくちゃいけないの!」(ミー)
ドクとミーはこちらを見て頭を下げた。
「お願いします!私達も花凜様と師匠のパーティーに入れて下さい」(ミー)
「お願いします!2人について行けたら、もっと強くなれると思うんです」(ドク)
ミミックは、ドクとミーの行動を見て少し困った顔をした。
「散々努力して、折角ナンバー冒険者になったのに、解散したらもったいないだろ?」
ミーもドクも真剣な表情だった…何か思うところがあるのかもしれない…
ミミックが諭すように2人に声をかけるが、2人共引かない様子で私達に頭を下げている。
「私は2人をチームに入れてもいいと思うよ♪」
「私も反対はしない、自分の身は自分で守れるだろうしな」
私の言葉を聞いて、リオンも賛同してくれる。
「お前達がそれでいいならいいか…一緒にチームを組むと言う事は、互いに命を預け合うと言う事だ…花凜さんとリオンさんになら2人を任せる事が出来る。
どうか2人をよろしくお願いします」
軽く受けてしまったが、ミミックが深く頭を下げるので、大きな責任を背負う事なのだと理解した。
しかし、胸を満たすのは重圧だけではない…何と言えば良いかわからないが、一言で簡単に言うなら嬉しかったのだ。
「よろしくね♪ドクちゃん!ミーちゃん!」




