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プロの戦闘、2つ名



【エル】




(暇だし掃除洗濯でもすっかな…)


 全員が絆の宿へ出かけて行き、家の中はとても静かになった。


(それにしても、あの2人は美人すぎる…)


 謎の多い彼女達は、いったい何処から来て何がしたいのだろうか…


 助けてもらった事に感謝はしているが、この先上手くやっていけるだろうか?


 しばらく俺らしくない考え事をしながら、深くため息を吐いた。


 肘から掃除機と言う木製の筒を伸ばすと、俺は部屋の隅からゴミや塵を吸い込み始める。


(しかし本当に便利だよな、吸引力の落ちないなんちゃらって言ってたけど…

確かサイク○ンなんちゃらがどうとかって)


 掃除機をして、気分も少し良くなってきた。


 次は庭の草刈りをしようと思い、長袖長ズボンに着替えた俺は、家の扉を開いて外に出る。


 左手から鋼鉄に見える爪を伸ばし、生い茂る雑草に斬りかかった。


(結構重労働だな、花凜さんに頼んで、俺の足に草刈り鎌でもつけてもらおう)


 俺は完全に、この新しい手足の虜である…


 次は庭に生える大きな木に近づき、高枝ハサミを伸ばしてみた…しかし、何をしたらいいか分からず引っ込める。


 木の手入れなどした事がないので、無闇に切るわけにもいかないだろう…


(って言うか…空飛べるんだから高枝ハサミいらなくない?)


 刈った草を掃除機で全部吸い込んでいく。


(この吸い込んだものって何処にいってるんだろうな…)


 恐ろしい事を考えそうになったが、たまには掃除もいいものだ!と思い、頭の中を切り替える。

 動いて少し汗をかいたので、明るい時間だが湯浴みをする事にする。


(良し、折角だしゆっくり入ろう)


 まだ昼間だが、他にやる事もなかったのだ。


 体はバッチリ完治しているが、病み上がりなのには違いない。


 浴槽にお湯を張り、脱衣場に服を脱ぎ散らかす。


 射し込む日光が気持ちよく、昼風呂とはなんて贅沢なのだろうか…


 久しぶりに自分で入れる風呂が嬉しくて、狭い風呂だが天国にいるような気分になった。


「ああー、最高ー」


 気分が良くなった俺は、誰も聞いていないので鼻歌全開だ。


 長湯をしたので、ぽかぽか身体から湯気がでている。


 実に清々しい気分だ!


(風呂から出たら洗濯もやってしまうか、どうせ親父洗濯物ためてるだろうし)


 洗濯物の中身を裏返すと、女性物の下着が出てきた。


(こ、これは!花凜さんのか?それともリオンさんのなのか?)


 ゴクリ…俺はいけない考えが頭の中をよぎる…


(い、いや!ダメだ!そんなの人として、絶対にやっちゃいけない!)


 俺は顔を振り、頭から変な考えを追い出そうとする。


 しかし誰も見ていないのだ、俺の頭の中で、天使と悪魔が討論を始めた。


(エル、やっちゃいなよ!家に誰もいないんだぜ?)悪魔

(ダメだよー!エルしっかりしてよ!それをやっちゃったら…)天使

(そんなこと言ったってよ、花凜とリオンはいつまで家にいるかもわからない、あんなに可愛いんだぜ?)悪魔

(でも、でも…)天使

(わかってくれよ、天使が言ってる事もわからないでもない…

でもな、もし明日死んだとしたら、その後悔は間違いなく今日の下着に戻るんだ…

あの時履いておけば…良かったなってな!)悪魔

(そこまで考えてなかったよ、私が浅はかでした…ごめんなさい)天使

(わかってくれたか、ならいつまでもこうしてられないからな!少しだけ見逃してくれ)悪魔


 悪魔の囁きに、俺は屈してしまった…


 そっと両足を通してみる…


(何やってんだろ俺…)


 自分でやっといて、自分にツッコミを入れた…次は胸当てを見つけた。


(これは間違いなくリオンさんのだな、まあこのさいだし着けてみるか…まあすぐ外すけどね)


 俺はこのさいだしと考えたが、どのさいがわからない…


 すぐに外すので良いだろうと、自分自身に言い訳する。


 俺は胸当てを胸じゃなく目の所につけた。


 気分はアイマスクだ。


(これでいいかい?悪魔さん)




ーーーーーーーーーーーーーーーー


【花凜】




「模擬戦はしなくていいの?」


 私はミミックに尋ねる。


「俺も元ナンバー持ちだったんだが、パーティーを解散してからは、すっかり事務方になってしまっている。

普通の冒険者の相手なら問題ないが、君達の相手は流石に無理だ」


 模擬戦の試験無しでSランクの冒険者資格をもらえるらしく、普通とは違う待遇に少し申し訳ない気分になった。


 しかしまだ魔力遮断をしながらだと、そこまで手加減も出来ないので、やらなくていいならそれでもいいかと思う。


「うちの絆の宿を利用していて、君達と少しは戦えるナンバー冒険者はいるんだけどな、まだ依頼から帰ってきてないんだ」(ミミック)

「私達の事かな?」(?)


 急に女の子の声が聞こえ、目の前の空間が歪んだように見えた。


 中から出て来たのは、深夜にロナウドの家の様子を伺っていた黒狼族のドクとミーだった。


 2人は依頼を終えて街に入った後、ゆっくり歩いていたのをもくちゃんを通じて確認している。


 リオンの解放された魔力を感じて、すぐに戻ってきてたのだろう。


 私は2人を確認していたが、途中から見失っていたのだ。


「話は途中から聞かせてもらってた、姉ちゃん凄い魔力だなー」(ドク)

「ほんと凄いよね!天地がひっくり返ったかとおもったもん」(ミー)

「それで逃げなかったのなら、手合わせしてみるのもいいだろう、最近狩りもしてなくて暇だったのだ」(リオン)

「じゃあ私は蘇生係するから、みんな思いっきりやってもいいよ」(花凜)

「おい…ちょっと待ってくれ!まだ何も言ってないだろう?」(ミミック)

「祭りか!屋台用意しなくちゃな!」(ロナウド)


 話がどんどん進んで行き、ミミックが疲れた顔になる。


 リオンもロナウドもその気になっているので、ミミックの焦る様子に気付いた私は、少し苦笑いになった。


「はぁ〜…わかったわかった…演習場を空けるから、少し待っててくれないか?

結界が使える魔法使いも、沢山集めなくちゃならないからな」(ミミック)

「私一人で戦うぞ?花凜の魔力に耐えられるような、特殊な結界を張れる者はいないだろうからな」(リオン)

「気をつけてね」(花凜)


 この後すぐに全員で演習場に向かう事になる。


 絆の宿の職員達は、とても協力的で迅速に準備を整えてくれているらしい。


 演習場と言っていたが、グラウンドのような所ではなく、大きなコロシアムのような場所だった。


 実際に昔はコロシアムとして使われていたらしいが、王都が移された関係で使われなくなっていたそうだ。


 中には訓練中の冒険者や、ストレス発散に魔法を使う人、剣の素振りをしてる人など、様々な使い方をしている人達がいた。


「これから双黒の風と、新人冒険者の模擬戦を執り行う!

みな戦闘を参考にするように!少しの間、俺達に場所を貸してくれ!」


 ミミックの大きな声を聞いて、歓声が巻き起こった。


 ドクとミーのチーム、双黒の風は大人気のようだった。


 憧れのナンバー冒険者の戦闘が見れるとあって、みんなが協力的に 場所を譲ってくれる。


 ロナウドは、串焼きの屋台を準備しているようだった。


「花凜さん、本当に回復は任せていいのか?」(ミミック)

「うん!私じゃないとダメだと思うから」(花凜)


 私はリオンを見て、手加減はする筈だろうとは思うが、どこまでやるかはわからないので、他の人に任せる事は出来なかった。


「花凜がいるならやりすぎる事はないだろう、よろしく頼む」(リオン)

「ちょっと待ってくれよ…回復が必要なのは、あんたかもしれないぜ?」(ドク)

「本当に2対1でいいの?」(ミー)

「ああ、問題ない、武器も魔法も使ってくれ」(リオン)

「それくらいの実力差があるのはわかってるけど、絶対に見返してやるからね」(ドク)

「最初から全力全開で行くよ」(ミー)


 演習場に入って行く私達…いつの間にか観覧席が人で溢れ返っているようだ。


(みんなお祭り大好きなのかな?)


 ロナウドも、串焼きが売れてホクホク顔である。


「いつでもいいぞ、胸を貸してやる」(リオン)

「どこまでも強者面だな、痺れるぜ」(ドク)

「私もそんな言葉が言えるほど強くなりたいわ」(ミー)

「私は離れてるからね、みんな楽しんで」(花凜)


 場が緊張していくにつれて、観覧席も静かになっていく…


 ドクとミーの表情から笑いが消えた。


「こらこら!まてまて、結界班頼む!」


 慌てた様子で、ミミックが急遽集まってくれた魔術師に号令を出した。


 魔術師達の結界が張られると同時に、魔力遮断を解くリオン…


「ひぇえー」(魔術師A)

「なんだよなんだよ!あれは…」(魔術師B)


 リオンの圧倒的な魔力を感じて、魔術師達は恐怖している。


「が、頑張れ!ただの模擬戦なんだ!」(魔術師C)


 魔術師の1人が尻もちをついてしまい、先輩風の魔術師が若手を落ち着かせている。


 ついでに言わせてもらうなら、戦うのは君達ではないのだ…


 リオンは首の骨を鳴らしてから、人の姿のまま四つ足で立った。


 リオンは内包する魔力を一気に高めていく…


 観覧席は、リオンのプレッシャーに声も出ないようだった。


「うっひぃー、あれやばいやばい」(ドク)

「プレッシャー半端じゃないわね…気を抜かないでドク」(ミー)


 もういつ戦闘が始まってもおかしくない、場の緊張が最高潮に達した。


「来ないのか?来ないならこっちから…」


 リオンの言葉を遮るように、ミーが正面から突っ込んでいく。


 魔法も使わずに飛び込んでいくので、あれなら私でも対処出来そうだと思った。


 リオンは風の衝撃波を放つと、ミーの姿が霞んで消えた…


 いつの間にかドクも消えている。


「ここだぜ?」(ドク)


 リオンが後方から声をかけられて、反射的に後ろに意識がいきそうになったが、リオンは飛び上がり、何も無い筈の空中に、拳を突き立てる。


 歪んだ空間から吹き飛ぶドク、しかしそれも消えてしまった。


(凄い…私には全然わからないや…何をやっているんだろう?)


「姿を隠すのが上手いな、強者との戦闘経験もそれなりにあるようだ…しかし、初めから全力と言っておいて様子見か?

だが悪くない判断だ」(リオン)

「フレアクロー!」(ミー)


 背後から首狙いの一撃!


 ミーは白銀の爪を炎の魔法で射程を伸ばし、凄い速度で振り切った。


 リオンは後ろを見ずに屈んで避けると、一瞬で距離をつめて、回し蹴りを叩き込む。


 腰に重い蹴りを食らい豪快に吹き飛ぶが、ドクが現れてミーを受け止めた。


「騙し討ち当たらないや、腰痛いよー」(ミー)

「今度は力押ししてみるか…」(ドク)


 ドクが身体強化と思われる光を放ち、正面から突っ込んで行く。


 爆発的な飛び込みの速さに、遠くで見ている私もドクを見失ってしまった。


 後ろでミーは呪文詠唱しているようだが、呪文を唱える魔法なんて、私には全くわからない…


「エンチャントフレアニードル!」


 ドクの八角棍の周りに飛翔する炎の棘…高速で打ち込むドクの攻撃を、補助して付いてくるようだ。


 頭から打ち下ろしてくるドクの八角棍は、大気を焦がすようにメラメラ燃えている。


 リオンは後ろにステップして、攻撃を躱そうとしたのだが、続く炎の棘が容赦なく襲いかかってきた。


 八角棍単体なら避けるのは容易いだろう…しかし、フレアニードルがリオンの体の近くを通る瞬間に爆発を起こす。


 視界を奪われながらも、間一髪距離をとってやり過ごすリオン。


「サンダープリズム!」


 ミーはリオンに雷の魔法を仕掛けたようだ。


 リオンはドクの対処に集中し過ぎていたため、忘れていたわけではないが、ミーに大きな魔法を使う隙を許してしまった。


 天から降る落雷の如く、リオンを取り囲むように雷の柱が地面に突き刺さる。


 この魔法は、きっと発動する前に潰すのがセオリーなのかもしれない…落雷を避けれる程速く動けるなら別だが、そんな事は現実的ではないからだ。


 詠唱に少し時間がかかっていたが、双子の信頼関係が補い合い、互いに合図なく上手く攻撃を繋いでくる。


(凄いなー…これがプロなんだね!)


 ドクは雷の隙間を縫うように、八角棍を突き出してきた。


「つまらぬな…ダイヤモンドダスト」


 普通ならサンダープリズムにハマり、少なからずダメージを受けるところなのだろう。


 しかしリオンの魔法にはタメがなく、魔法詠唱も本来ならいらないのだ。


 私もリオンと同じくそのまま魔法を使う事が出来るが、ここまでそれをやらなかった理由は、リオンなりの手加減なんだと思う。


 この時私はわからなかったが、ダイヤモンドダストという人間の上位魔法に似せた、リオンの氷魔法である。


 サンダープリズムは消し飛ばされ、ついでにフレアニードルも消された。


 リオンはドクが突き出してきた激しい踏み込みの八角棍を、素手で掴んだ…そしてドクに笑顔を向ける。


 刹那の事だが、ドクはその笑顔を見逃さなかった…


 危険を悟り、すぐに距離をとろうとするが既に遅かったようだ。


「ショックボルト!」

「ーーー!」


 リオンがドクに魔法を放つ!


 八角棍を伝う電撃が、意識を狩りとらない程度に加減されて、ドクの体を焼き焦がした。


 麻痺した体は言う事を聞かず、リオンの目の前で硬直してしまう。


「早く私に本気を出させてみろ」


 八角棍を受け止めていた反対の手で、ドクの腹を深く突き刺した。


 飛び散る血液が、生々しく空中に花を咲かせる。


 リオンはドクに前蹴りを叩き込むと、サッカーボールのように吹き飛ばされていった。


 ドクを受け止めようとしたミーも一緒に、壁際まで吹き飛ばされる。


(ああああ!痛そう!)


 静まり返る演習場の人達…命に関わるかもしれない重症なのは、今のを見れば一目瞭然だ。


 私はミミックの顔を見たが、視線を送る私に気づいていない様子だった…


 流石に中止の合図があるかと期待したが、まだテスト中と言う事なのだろうか?


「げほ、やべ、死ぬ…」(ドク)


 ドクは刺された腹の傷を、素早く布で応急処置をする。


 しかし油断は一切してないようで、視線はリオンに固定されている。


「何で?何でサンダープリズムが、一瞬で吹き飛ばされるのよ…」


 本来なら、後出しの魔法で簡単に消されたりしないのだろう…


 ミーも悔しい顔をしているが、リオンから目を離したりしなかった。


「俺のフレアニードルはついでのように消されたぜ?」


 ドクは呆れた様に笑っていた。


「不意がつけなくて、力でも負けている…油断もないし、きっと戦闘経験も違う…しっかり準備した魔法も通じない…」

「せめて一撃入れたいよな…ていうか血が止まらねぇ…」

「もう色々考えるのはやめよっか…私達の切り札使いましょ…」

「……そうだな、わかった…ミー」


 ドクとミーの雰囲気が変わっていくのがわかる。


 殺意を込めたその目は赤く輝き、魔力がどんどん上昇する…


 ドクは八角棍を横に捨てた。


「「黒風の装束」」


 2人のチーム名の由来になった技だろうか?


 ドクとミーは狼のように四つ足で立つと、身体に黒い風を纏い始める。


 あれはただの風では無いだろう…いったい何で出来ているのだろうか?


 リオンも分析しているようだが、腕を組み首を傾げる。


「見たことない魔法だ…」

「「自分達で作った!」」


 ドクとミーが準備をする間、リオンは一切動かなかった。


 双子は左右に揺さぶりをかけながら、リオン目掛けて突進してくる。


 多重攻撃に、身体強化と特殊な風の乱舞…


 魔法による限界を超えた速度で、リオンを圧倒しているようだ。


 2人がかりで入り乱れ、上下左右前後から、爪や蹴り技の連撃を繰り出してきた。


 これにはリオンも、回避するので精一杯なように見える。


「凄いー!…私じゃあんなの避けられない!頑張れ〜ドク〜ミー」


 ドクとミーの攻撃は、リオンを色々な角度から攻め立てる。


 リオンの桁外れの敏捷性と野生の勘をもってしても、避けるのが不可能になって手で弾いた…


「ただの身体強化魔法じゃないんだな、厄介な風だ」


 黒い風は、リオンの身体に少しずつまとわりついていく…動きが阻害され、感覚すら鈍くなっていってるようだ。


 視界もどんどん悪くなっていくようで、リオンの顔も険しくなっている。


「お返しだ!ショックボルト!」(ドク)

「砂塵の嵐!」(ミー)

「自在の黒爪!」(ドク)

「束縛する大地!」(ミー)


 ショックボルトがリオンを一瞬硬直させた…その隙をついて、巻き上げられた砂塵が、完全にリオンの視界を奪ったようだ…


 ドクは自在の黒爪という技を発動する。


 攻撃を避けるために、視界を閉ざされながら距離をとろうとした…しかし、今度は足の自由を奪われてしまう。


 リオンは反射的に、自分の身体に結界を張り、両腕をクロスして、急所を守るように防御の姿勢をとった。


「もらった!」(ドク)


 しかしリオンの身体の手前で宙を掻くドク…


 リオンの顔の表情が変わる!


(あ…リオンが怒った…)


「ま、待って〜」


 私の静止は一足遅かったようだ…空中で無防備になっているドクを、動くようになった足で蹴り飛ばした。


 ミーに向けて蹴り飛ばしたので、縺れ合うように吹き飛んでいく。


 そこには手加減など一切なく、普通の魔獣が食らったならば、体がバラバラになりそうな威力があった。


「…氷の戦場」(リオン)


 一呼吸のうちに追撃で放たれたリオンの魔法は、地面を一瞬で凍りつかせた。


 地面から溢れ出す氷の剣や槍が、体勢を崩されていた2人に襲いかかる。


 空中にいたこともあり、ドクとミーは、なす術なく全身を貫かれ、串刺しになってしまった。


(リオン…エグいよ…恐ろしいにゃんこ)


「一撃…入れて…やったぜ…」(ドク)


 リオンの左腕がずるりと地面に落ち、右腕からも血が吹き出した…


 ドクのオリジナル技、自在の黒爪は、防御を無視した見えない斬撃…


 リオンも油断はしていなかったが、2人の息の合った攻撃に、判断が遅れてしまったのだ。


「見事だった、最後の一瞬は、私も本気だったぞ」(リオン)


 リオンが少し微笑む…それを見た2人も少し微笑むと、すぐに2人は息を引き取った。


「リオンお疲れ様!でも少しやり過ぎじゃない?」(花凜)

「なかなか楽しかったぞ、鍛えれば強くなりそうだな!

最後のはついついやり過ぎてしまった…私に余裕が無くなる程追い詰めたのだからな」(リオン)


 目の前の凄惨な光景に、息を呑む冒険者や観覧席の人々…ミミックが大急ぎで駆け寄ってくる。


「ドク!ミー!ああ…なんて事してくれたんだ…こんなに若くてとても良い子達なのに…死んでしまうなんて…」(ミミック)

「ちょっと死んだだけだろうが…」(リオン)

「死んだらそれで終わりなんだぞ!」(ミミック)


 ミミックの言葉を聞いて、我に返る観覧席の人々…涙を流す者や武器を握りしめる者までいる。


 このままでは、すぐにでもリオンに襲いかかりそうだった。


「花凜、面倒だから早めに頼む」(リオン)

「何をするつもりだ!?みんな!油断するな!」(ミミック)

「そうだね!リオン氷の魔法解いて」(花凜)


 氷が砕け散り地面に横たわるドクとミー…


 遺体の側に歩み寄った私は、ドクの胸に手を置いた…


(これくらいなら、魔力の遮断したままでも大丈夫そう)


 青白い発光と共に、ドクの傷は急速に塞がっていく…


「な、何が起きているんだ?」(ミミック)


 ミミックは、今目の前で起きている出来事が、理解の範疇を超えてしまったように呆然としている。


青白い光が収まり、ドクの意識が戻ったようだ。


 演習場の人達も、夢の中に居るのか疑うように、自分自身の頬を抓ったりビンタをしたりしている…


(変なとこ異世界共通だよね…)


 何が起こったのかわからないのは、ドクも同じだった。


 キョトンとした顔がとても幼く見えて、私は思わず頭を撫でる。


「おはようドクちゃん、おかえり」(花凜)

「あれ?そう言えば…ミー!ミーは?」(ドク)


 ミーはまだ無惨な姿で横たわっている


「今治すから待っててね」(花凜)

「…」(ミミック)

「…」(ドク)

「…」(観覧席)


 私はミーの胸に手を置き、ドクと同じように完璧に治した。


 ミーもすぐに意識を取り戻して、目が開くと周りを見渡した。


「あれ?ドクは?」(ミー)

「先に生き返ってるよ、おはようミーちゃん」(花凜)

「な、なんだと言うのだ…」(ミミック)

「言っただろう?ちょっと死んでるだけだって」(リオン)


 起き上がったドクは、ホッとした顔でミーの頭を撫でている。


 ミーは嬉しそうに、ドクの膝に体を預けた。


 ミミックや観覧席の人達は、今見た事が理解出来ないのだろう…そこで私はいい事を思いついた。


「そうだ!エルも病気が治ってるんだよね♪

だからそれを見たら信じてくれる?」(花凜)

「わかった…やっと信じることが出来そうだ…今からロナウドの家にいくか…」(ミミック)

「あ!魔物の素材も売りたいから、エルに持ってきてもらうね!

ちょっと手足の遠隔操作で、ここまで魔物の素材を持ってきてもらうから」(花凜)

「まったく…出鱈目すぎるだろう…わかった、なら待つか」(ミミック)


 私は目を閉じて集中する…


(さっと素材持ってぱっと飛ばそう、良し!OK)


「空飛んで来るからすぐに現れるよ」(花凜)


 皆が私の指さす方向を見ると、飛んでくる影があった。


 その影は高速で近付き、演習場の中央に降り立つ…


 エルは何故かリオンのパンツを履いて、リオンの胸当てをアイマスクにして、火照った身体から湯気が出ていた…


(え?なんで?)


「なんだ!なにがどうなっているんだ!」(エル)


(それ…私が聞きたい…)


「…」(全員)

「クソ!何で手足が勝手に…こんなとこ誰かに見られる訳にはいかないのに!」(エル)

「…」(全員)

「エル…よ…」(ロナウド)

「親父!いるのか!前が見えないんだ!助けてくれ!」(エル)


 ロナウドは、エルの頭からリオンの胸当てをとると、エルに声をかけた。


「私もお前のこれからが見えないよ…そんな性癖を助けてやる事も出来ない…」


 涙を流すロナウド…リオンは自分の昨日履いてた下着を着けたエルをみて、呆然としている。


 私は涙目でリオンに抱きつく…引きまくりのドクとミー…


「花凜さん…あれは治せないのか?」(ミミック)

「無理…嫌…です…」(花凜)


 そう、無理だし嫌なのだ…


 この日エルに2つ名が誕生する。


 空翔ける下着、盲目の変態、生き返ったが死んだ男、タダでは起きない男、ハミチン○、などなど…




ーーーーーーーーーーーーーーーー




 リオンの傷を治して、絆の宿のミミックの部屋に帰ってきた。


 私、ロナウド、リオン、ドク、ミー、ミミックの6人だ。


 エルに何と声をかければいいのかわからず、そのまま演習場に置いてきてしまう…


 私達は、エルにどんな対応をすれば良かったのだろうか?


 絆の宿に戻ってきてから、ドクとミーは部屋の中のソファーですぐに寝てしまった。


 30分くらいで目を覚ましたが、まだ眠そうに瞼を重たくさせている。


「試験は合格だ、次元の違う戦いに、皆歓声すら出なかったな」


 ミミックは戦いを振り返るように、目を閉じて頷いている。


 無事合格出来たようで、今日から私達は冒険者だ。


(なんだかとても疲れちゃったな…精神的に…)


「「かっこよかったです、師匠!」」

「お前達も悪くなかったぞ、まさか腕を斬り落とされるとはな、その後ついやり過ぎてしまった」


 さっきのエルの事は、皆頭の中から消したようだ。


 ロナウドも近くにいるので、余計にその話題は出さない方がいいだろう。


 リオンは、ドクとミーに軽く微笑み賛辞を送る。


 眠気を克服したドクとミーは、リオンの言葉に嬉しくなった様子だ。


 私にはわかる…ソファーの後ろで尻尾が振られているからだ。


「さっきのは肝を冷やしたぞ、死んでも生き返らせれるなんて…先に教えて欲しかったな」

「「花凜様ありがとう」」


 ミミックはそう言ったあとに、冷たい紅茶を持ってきてくれた。


 みんな喉が乾いていたようで、すぐに売り切れる。


「では、Sランク冒険者からスタートって事でいいな、リオンさんと花凜さんのチーム名は決まっているか?」(ミミック)

「まだ何も考えてないよ」(花凜)

「「ちょっとまった〜」」(ドク、ミー)


 ドクとミーが立ち上がった。


「どうしたんだ?」(ミミック)

「俺もミーももっと強くなりたいんだ!」(ドク)

「うん、もっともっと!強くならなくちゃいけないの!」(ミー)


 ドクとミーはこちらを見て頭を下げた。


「お願いします!私達も花凜様と師匠のパーティーに入れて下さい」(ミー)

「お願いします!2人について行けたら、もっと強くなれると思うんです」(ドク)


 ミミックは、ドクとミーの行動を見て少し困った顔をした。


「散々努力して、折角ナンバー冒険者になったのに、解散したらもったいないだろ?」


 ミーもドクも真剣な表情だった…何か思うところがあるのかもしれない…


 ミミックが諭すように2人に声をかけるが、2人共引かない様子で私達に頭を下げている。


「私は2人をチームに入れてもいいと思うよ♪」

「私も反対はしない、自分の身は自分で守れるだろうしな」


 私の言葉を聞いて、リオンも賛同してくれる。


「お前達がそれでいいならいいか…一緒にチームを組むと言う事は、互いに命を預け合うと言う事だ…花凜さんとリオンさんになら2人を任せる事が出来る。

どうか2人をよろしくお願いします」


 軽く受けてしまったが、ミミックが深く頭を下げるので、大きな責任を背負う事なのだと理解した。


 しかし、胸を満たすのは重圧だけではない…何と言えば良いかわからないが、一言で簡単に言うなら嬉しかったのだ。


「よろしくね♪ドクちゃん!ミーちゃん!」





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