染み渡る味(まさかの2)
【リオン】
花凜は加減というものを知らない…私が起こさなければ、何時までも平気で眠っているだろう。
多分それは世界樹に生まれた事で、永い時を生きていかなければならない事に、関係しているのだと思う。
(花凜…)
私は毎日同じ時間に起きる事が出来る。
優秀な腹時計が、起きる時間を教えてくれるのだ。
目が覚めた私は、ゆっくりベットから体を起こすと、大きな欠伸をして、背筋を思いきり伸ばした。
(もう朝なのか)
昨晩考え事をしていたら、人の姿のままで寝てしまったらしい…
「窓だ」
知らない者が見ていたら、独り言を言ったのだと勘違いするだろう。
館は私の命令を聞いて、壁に小さな窓を開いてくれた。
窓の外は朝焼けに染まり、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
私はベットの端っこに移動すると、ほんのり冷たい朝の空気で、肺の中を満たした。
少しの眠たさを引きずりながら、氷の魔法で、鏡と櫛を創り出す。
寝起きはあまり気分が良くない…鏡に映った私の顔は、酷く無表情で冷たいものであった。
私の心の中を体現しているかのように、髪の毛がボサボサに絡み合っている。
宙に浮かべた氷の櫛が、頭を何度も滑り降り、寝癖など無かったかのように、サラサラの髪へ整えられた。
役目を終えると、それは塵となり、さらに細かい光子となって大気中に消えていく。
この部屋は、花凜が私の元の姿に合わせて作ってくれたので、人間のサイズで使うには、ベットも部屋もかなり広い造りになっている。
今日は何故か、いつもより広く感じるようだ。
(どうしたものかな…)
本当なら、今はクラーケンとの戦闘は避けたい…逃げようと言ったとしても、花凜が絶対に譲らないだろう。
双子も残りたいと言い出すと思うが、ロナウドだけなら説得は出来そうだ。
しかし、ロナウドだけ説得出来たとしても、花凜は納得してくれるわけがない…
もしもの場合は、花凜が嫌がったとしても、この街を…いや、この大陸を見捨てるしか無いと思う…
ベットから立ち上がると、私はクローゼットの前に移動した。
とある事情があり、慎重に扉を開けていく…今日は大丈夫だろうか?
15センチくらい扉を開いたところで、恐れていた事態に直面する。
ーーーードド、ドン!ゴロゴローーーー
またやってしまった…小腹が空いた時に食べようと思って、隠れて詰めておいた食べ物が、崩れ出てきてしまったのだ…
ベーコンブロック、リンゴ、大きな干し肉、パン、大きなサラミ、大きな穴あきチーズ、大きなハム、などなど…私にはもっと大きなクローゼットが必要かもしれない…
薄いパジャマを脇に投げて、水色の下着を着けた。
服も拘りは無いのだが、白いミニスカートと、肩の出る黒いボタンシャツを選ぶ。
大きな姿見があるので、一応変なとこが無いか確認する。
何処も変では無さそうだ…今日はこの服装で大丈夫であろう。
口からハムが飛び出ているのを除けば、何処も問題は無いと思う。
人間の体で、元の体が必要な量の食事をするのは大変だ。
別にその事で悩んでいる訳では無いが、勝手に食いしん坊キャラだと思われるのも、少し腹が立つのだ…もちろんベーコンも食べる!あ、サラミも…仕方が無い…本当に。
自分の部屋を出て、まずは花凜の部屋の前へ移動した。
「かりーん!朝だぞー」
ぐだぐだ悩むのは後にしよう。
扉をノックしてみるが、やはり返事が無い。
こういう時は勝手に中に入る。
扉を5センチだけ開いたところで、私は異変に気づいた。
(花凜の匂いがしない…)
扉を蹴破る勢いで、乱暴に押し開けた。
綺麗に整えられたままのベットを見た瞬間、全身の血が沸き立つのを感じ、同時に寒気が襲ってくる。
(花凜が居ない!?)
おかしいとは思っていた。
「花凜!かりーん!」
寂しがり屋で、1人で寝る事のほとんど無い花凜が、昨日の夜だけ、ベットに潜り込みに来なかったのだ。
(花凜は何処だ!?)
館の中を走り回る…食堂、風呂場、リビング、応接室、何処を探しても花凜の姿が無い。
もしも1人でクラーケンに向かって行ったのなら…
(まずい!私はなんてバカなんだ…自分の事で余裕が無くなっていた…花凜、なんで私を置いて行った)
色々な感情と寂しさで頭の中がパニック寸前だ。
急いでもう1度花凜の部屋を確認する。
(…あ…コートも弓もある…指輪も置いてったのか…それならばクラーケンに向かって行ったとは考えずらい…?それならば何処へ?リーファウスか?エルの所か?)
装備が全て置いてあるので、クラーケンに1人で特攻した可能性は、極めて低いだろう。
張りつめていた心が、一気に解放されていく。
少し平静を取り戻せたが、足の力が抜けてしまった。
思わずその場にヘタリ込み、自分で自分の体を抱きしめる。
(あぁ…よかった…しかし、それならば何処へ?)
私はすぐに食堂へ向かう事にした…コクヨウ達なら、花凜が何処へ行ったのかも、知っているだろう。
ふらふらする足を引きずって、花凜の部屋を後にした。
かなり焦っていたようで、さっき私が通ったと思われる廊下や壁が、真っ白に凍っていた。
「軟弱な廊下だな」
廊下に八つ当たりしても仕方が無いが、外部からの魔法攻撃を受けた時のために、この館の魔法耐性を、強化する必要がありそうだ…
さらに食堂へ向かう途中で、パジャマ姿のまま歯磨きをしていたらしいミーの氷漬けを発見…まったく!軟弱な!一応風呂に投げ入れておいた。
食堂に入ると、席に座らず直接厨房へ行く。
「あわわわ!リオン様、お食事はもう少々お待ち下さい」
私の姿を見るなりアオイが頭を下げた。
食事の催促をしに来たと勘違いされたようだ…確かにいつもなら催促している。
「なんだ…アオイだけなのか?コクヨウや他のみんなはどうした?」
「えーっと、アカネとギンカはソル城で、これから大量に集まる避難民の受け入れ準備をしに館を出ました。メイド長のコクヨウは、絆の宿に食料の手配と、雑用を任せられる人材募集を依頼しに行っております。ロナウド様は、商人ギルドへ大量の荷馬車を手配しに行きました。その荷馬車を使って、避難の手助けをする予定です。コバとヘイリは、海から逃げでてくる魔物の撃退です。花凜様のお名前をお借りして、衛兵を100人集めさせていただきました。水狩り族のスナッキさんは、人間の遊撃船団を護り誘導するために、1度仲間と合流するそうです。アジサイとオレンジは、アシュリー様の軍隊が到着した時のために、拠点が無いと不便なので、建設ギルドに依頼を出しに出発しました」
アオイの言葉は、私に少なからず衝撃を与えた。
みんなが必死に動き回っている時に、部屋で一晩中凹んでいたなんて…1番の軟弱者は私ではないか…
全員自分にしか出来ない事を考えて、今日の話し合いを待たずに動き出したのだ。
「花凜は何をしているのだ?」
「えーっとですね…実は、昨晩の事なのですが、レイブ様と知らない殿方がお見えになられまして…屋根の上で何やらお話をしていたようです。そのまま転移で移動したみたいですが、花凜様の精神状態は正常そのものでした。なので心配は無いかと思われます。私達花凜様の姉妹は、花凜様が指示をしようと思っていた事が、わかってましたので、先に動き出したと言う訳です」
「そうか…わかった。ありがとう」
アオイは少しきょとんとした顔をする。
「え?ぇぇええ~!」
「ん?」
アオイの反応は何故か腑に落ちない。
質問に答えてくれたので、礼を言っただけなのだが…
「リオン様!侵入者でございます」
「ここに侵入者だと?客ではないのか?数は?」
ーーーーギャリンーーーー
アオイの表情は険しく、斜め下方を見つめている。
その方角にあるのは、この館の正面玄関だ。
アオイは両手に、スコップのような形のショートランスを装備している。
全てが漆黒で、長さ約1メートル、先端は鋭利な刃物になっていて、突くだけじゃなく薙ぐ事も出来そうだ。
(それ何処から出したんだ?)
多分エルに仕込んだ爪のような物だろう…それがアオイ達にもあるとは知らなかった。
恐怖を感じているようで、それを持つ手が少し震えている。
「正面玄関が無理矢理突破されました。お客様ではございません…数は1人みたいです」
「アオイ、心配するな。侵入者は任せておけ」
アオイの頭を撫でると、手の震えは止まったみたいだ。
今はコバとヘイリも居ない…その隙をついて侵入したのだろう。
(色々悩むのはやめだ!私らしくもない…侵入者には私の憂さ晴らしになってもらおう)
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【ロウ】
料理はとても美味しかった。
オスカーも食べて行けば良かったのに…
テーブルの上には、まだ食器がそのまま残っている。
「ご馳走様でした~。美味しかったー」
「うふふ、お粗末様でしたにゃーん」
4人が腰掛けても余裕のある長ソファーに座り、ロッカが作ったエルフ特製の果実酒を呑んでいた。
左隣にはロッカがぴったりくっついて座っている。
このお酒はとてもすっきりした味わいで、塩気のある物より、レーズンなどの乾燥させたフルーツと良く合う。
とても貴重なお酒なので、お金をいくら積んでも手に入らないだろう。
お腹がいっぱいになったせいか、眠気で瞼が重くなってきた。
(あれ?おかしいな…)
手足の感覚も鈍くなってきたので、お酒を零してしまう前に、グラスをテーブルに戻す。
(そろそろ行こうと思ってたんだけど…眠い)
「眠そうな顔ですにゃーん?」
「う、うん…疲れてたのかなー…?」
体内の魔力は順調に回復していっている…さっき少し眠った(気絶させられ)が、まだ万全とは言い難い。
それにしても、この眠気は少しおかしいと思う。
視界がぼやけ、姿勢を正しているのも辛くなり、ソファーの背もたれに背中をあずけた。
隣りから衣擦れの音が聞こえ、ロッカが何かをしているのかがわかる。
飛び込んで来た水玉が、膝の上に跨った。
柔らかそうな肌、細い腰、何故か垂れている耳…傍らには黒いワンピースが脱ぎ捨ててあった。
ロッカの耳が垂れる時、それはいけない事をしていると、彼女が自覚している時だ。
(あ、そうか…この眠気はロッカさんの仕業なんだな)
ロッカは本心をいつも隠している…バレてないつもりだろうが、自分には筒抜けだ。
困った顔をしながら、悟られた事を悟り、言い訳を考えているように見える。
ロッカの目的は、この部屋から俺を逃がさないようにする事…今度行く場所が、人間のいる世界ならば尚更だ。
「心配かい?」
「はい…ごめんなさい…ロウ様」
少し微笑み、ロッカの目を見た。
彼女はもう地上に出る事が出来ないのだ…
100年前の戦いで、人間に故郷を焼かれ、見てはいけない心の中を見過ぎている。
右手を膝に跨る彼女の背中へ回し、上半身を引き寄せた。
左手は爪を立てながら、ふくらはぎ、内もも、腰、脇、胸、首筋へとなぞっていく。
右手は背筋をなぞってから、その細い腰を捕まえた。
ロッカの顔は真っ赤になっていて、自分と同じように攻められるのは恥ずかしいのだろう。
眠気も中和されてきたので、もう出立する事は出来るのだが…もう半時程、ロッカを甘やかしてあげよう。
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ロッカを2階のベットに運ぶ。
(行ってくるね、ロッカさん)
風邪をひくといけないので、体に毛布を掛けてあげる。
1度花凜の様子を見てから、ソルの街まで飛ぶ事にしよう。
それに一応装備も整える必要があるので、自分の部屋に戻らなければならないのだ。
静かに扉を開けて、部屋の中の様子を確認する。
「…にゃん」(ケロン)
「にゃ、にゃーん?」(花凜)
「にゃん!」(ケロン)
「ゲロゲーロ?」(花凜)
どうやら花凜は目覚めていたようだ。
体にシルクの布を巻いて、アヒル座りしている。
半壊したベットの上で、ケロンと意思の疎通をはかっていようだ。
花凜の質問?に、ケロンは首を振る。
いや、ケロンの体の何処が首かと聞かれると、答えに困ってしまう訳だが…
「ゲロ…ダメ…にゃーん」(ケロン)
「…にゃーん?」(花凜)
「にゃんにゃ、にゃん」(ケロン)
「にゃん!」(花凜)
(これ何時まで続くの?)
にゃんでもゲロゲーロでもどっちでも良いと思うんだけど…
花凜もケロンも、楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「にゃん…にゃ」(ケロン)
ケロンが指を1本立ててそう言うと、花凜は黙って2回小さく頷いた。
「なるほど~。気絶した私をロウさんが屋敷に連れてきて、ここでポーションと魔力を分けてくれたんだね!それで今ロウさんは下の階でご飯を食べて、私が回復するのを心配してるって事なんだ。ありがとーケロンちゃん、にゃん」(花凜)
「にゃーん」(ケロン)
「いやいやいやいや、今の会話の何処にそんな説明あったの?ねー、教えて!」(ロウ)
花凜は少し不可思議な顔をして、体ごと首を傾げる。
(あれ?おかしいの俺かな?あれれ?)
「ロウにゃーん!」
「おっと」
ケロンが勢いよく飛びついてきた。
体重が2トンくらいあるので、普通の人には絶対にやらないように躾ないと、いつか死人が出るかもしれない。
「ロウさん助かりました。ありがとうございます」(花凜)
花凜はベットに座ったまま、深々と頭を下げた。
「元気になったのなら良いよー。暫くしたらオスカーも帰ってくるから、今のうちに体を休めておいてね」(ロウ)
「はい」(花凜)
真剣な表情で再度頭を下げてくる…あんなボロ負けした後なのに、このやる気は何処から湧いてくるのだろうか?
ケロンと楽しそうにしていた花凜を見た後だと、命の取り合いが出来るようには見えない。
何処にでもいるような普通の子なんだ…こんな子に戦いは似合わないと思う。
(少し揺さぶってみるかな?)
心を鬼にしてでも、彼女の本意を知る必要があるだろう。
「…今ならまだ引き返せると思うよ?」(ロウ)
「引き返す?」(花凜)
「うん…全部忘れて、好きな所で好きなように生きるんだ。今ある記憶を封印してあげる。そうすれば、当たり前の幸せを手に入れる事が出来る筈だよ」(ロウ)
「…」(花凜)
これは花凜のためだ…花凜に近づき、右手を花凜の頭の上にのせた。
どんな結果になっても良いと思う。
花凜は言葉が詰まり、少し下を向いてしまった。
(その方が良い、無理に苦しむ必要は無いよ)
記憶の封印魔術の中で、1番強力な魔法をかけてあげよう。
右手に魔力を集めながら、心の中で呪文詠唱を始めた。
ーーーーボタ、ポタポターーーー
花凜の両目から涙が溢れてくる。
「大丈夫だ。すぐ楽になる」(ロウ)
花凜の体が、ビクっと動く。
「……当たり前の幸せって…なんですか?」(花凜)
頼りなく震える声で、花凜は口を開いた。
「普通の子と同じさ…当たり前の事をして、当たり前のように笑うんだよ。それが君の一番の幸せになるはずだから」(ロウ)
「……それが…当たり前の幸せ?」(花凜)
花凜の呼吸が荒くなっていく。
(誰も君を責めたりはしないし、俺がそんな事はさせないから…)
揺さぶりと言うより、これは説得だ。
こんな普通の少女が、覗いて良い世界じゃない。
「…わ、私は、生まれてからずっと幸せでした…自由が無かったけど、とても幸せでした…」(花凜)
「…」(ロウ)
「…この世界に来てからも、私には大切なものが沢山出来ました。沢山…沢山…沢山…幸せじゃなかった日なんてありません。リオン…パパ…エルお兄ちゃん…ドクちゃん…ミーちゃん…冒険者のみんな…他にも沢山…沢山」(花凜)
溢れ出る涙…辛い気持ちはわかるつもりだ。
大好きな人達の記憶を消される…それはとてつもない恐怖だろう。
でもこの先の事を考えると、きっともっと辛い思いをすると思う。
詠唱は完了し、後は発動するだけ…
「…当たり前の幸せなんてわかりません…それはきっと暖かいのかもしれないです…でも、私の幸せを勝手に決めないで!私から大切なものを奪うと言うのであれば、私は貴方を殺します」
体中に戦慄がはしる…
流石はオスカーに、認めさせたと言わざるを得ないだろう。
彼女の中には、感情の切り替えスイッチのような物があるようだ。
溢れ出た殺気は、ケロンを後退らせるだけの迫力があった。
(これは無理だ…意志を絶対に曲げないタイプ…オスカーが気に入るのもわかるわ)
「最後の確認だ。良いんだね?この先どうなったとしても」(ロウ)
答えはわかっているが、再度確認した。
今度はこちらからも花凜に殺気を放つ…普通の者がこの殺気に当てられれば、命を落としかねないレベルで危険なものだ。
花凜の目を覗き込むが、そこからは迷いも恐れも感じ取れない。
命より大切なものがある者にしか、こんな目をする事は出来ないだろう。
(ふー、まいったね…まったく)
「そうか…わかったよ」
殺気を解いて、花凜の頭をそのまま撫でてあげる。
「オスカーに頼まれてね、花凜ちゃんの家に行ってくる。クラーケンが来るまで、もう残り2日もないけど、ぎりぎりまでオスカーに鍛えてもらうと良いさ」(ロウ)
「あ、ありがとうございます」(花凜)
「ろう…にゃん」(ケロン)
ケロンも撫でて欲しそうにしていたので、たっぷりと撫でてあげた。
花凜は涙を拭い、頭からシルクの布を被る。
(私の幸せを勝手に決めないで!か…同じ事を昔も言われた…)
懐かしさが胸中に込み上げ、ダンゴムシのように丸まる花凜を見つめた。
革の黒いコートとズボンに着替え、腰に愛刀をさげる。
革のコートには、心臓を守るように、ミスリルの胸当てがついているが、全体的なシルエットはかなり細いかもしれない…これは、無駄を省いて動きやすさを重視したスタイルだ。
「それはサーフボード?」(花凜)
「ん?あー、これは確かにサーフボードのような物だけど、乗るのは波じゃなくて風さ」(ロウ)
「おぉ~、速そう」(花凜)
吸収した魔力で風を起こし、爆発的な推進力を得る事が出来る魔道具である。
普通の人間が使えば、5秒でガス欠になるような代物だ。
「それじゃあ行くね。あんまりゆっくりもしてられないしさ…ケロンちゃんもまた後で」(ロウ)
「にゃーん…」(ケロン)
「ロウさんが家に行ってくれるなら安心!オスカーさんよりも強いもんね」(花凜)
今日は何度驚かせられるのだろうか…
背中に冷たい汗が流れる…
オスカーと戦った後で、どうすればそんな風に思う事が出来るのだろう?
圧倒的なオスカーの力を見た筈だ。
「なんでそう思うんだい?」(ロウ)
「えーっとね、オスカーさんよりロウさんの魔力の方が美味しかったからー」(花凜)
あの時は気絶していて、無意識じゃ……ん?…
「本当に美味しかったなー…体全体に染み渡るって言うかなんと言うか」(花凜)
「………て!!起きてたんかーい!!」(ロウ)
「にゃーーーーん!」(ケロン)
これでケロンとの会話にも辻褄が合う。
してやられたと言う訳か…
(え?ちょっと待って…それはつまり、ロッカさんが色々してきた時も、花凜ちゃんは横で寝たフリをしてたわけで…)
これ以上考えるのはやめよう…きっと立ち直れなくなるから…
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【リーファウス】
城の中には、ほとんど人が残っていない…
朝日もまだ出てきていないので、動いている者は皆無であろう。
重い鎧を脱ぎ捨てて、ミスリルの編み込まれた普段着を着用する。
鎧には劣るが、身の丈に合わない物を使う気がしないのだ。
フードを頭から被り、必要になりそうな物を掻き集め、夜陰に紛れながら、飛行偵察魔道乗機のあるテラスへ移動した。
テラスには大きな倉庫があり、いつもなら厳重に鍵がかけられているのだ。
(兵が鍵を忘れたのか?好都合だ)
飛行偵察魔道乗機とは、その名の通り、空から偵察するためだけにある。
最大2人乗りで、大砲などは積んでいない。
アメンボを大きくしたような見た目で、全長は約4メートル程であろう。
倉庫の中に自分の足音が響いて、余計に気持ちを焦らせた。
(落ち着け)
花凜の居るソルへ行けば、燃料は空になってしまうだろう。
しかし、今はそんな事はどうでもいい。
(すまぬ父上…)
事前に用意した鍵を使うと、飛行偵察魔道乗機はけたたましい音と振動を発生させた。
(今いくぞ、花凜)
すぐに跨ると、ゴーグルを付けて、操作レバーを起こした。
ゆっくり浮かび上がる機体…慎重に操作して、出口から北へと飛び立った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
【エル】
温かい紅茶を飲みながら、テラスから飛び出して行く影を、リグルートの執務室の窓から見下ろしていた。
王は落ち着いた様子で、紙に何かを書いている。
すぐにそれを3つ折りにすると、封筒に入れて手渡してきた。
「良いんですか?ほっといても」
手紙を受け取り、今飛び出して行った影の方角を見る。
「止めても聞かんじゃろう…アシュリーには、愚息が世話になると伝えてくれ」
「畏まりました」
「頼んだぞ…ハミー」
もうこの呼ばれ方にも慣れた…ほ、本当だよ?
少し涙が浮かんで見えるのは、きっと何かの間違いさ!
手紙を胸ポケットに入れて、窓を大きく開け放つ。
(みんな元気にしてるかなー?)




