表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/53

初めての戦闘、初めての街




 不穏な空気を感じ取り、私は目が覚めた。


 リオンは、まだまだ深い眠りの中にいるらしいく、すやすや寝息を立てているようだ。


(そんなに焦る必要は無いかな?)


 ここ数日で、リオンは私のお姉ちゃんみたいな存在になっている。


 私はさぞ手のかかる妹かもしれない…


「リオンー♪、んー」


 キノコのベッドに包まれて、暖かいリオンに何時までもくっついていたいと思った。


 綺麗でサラサラな純白の髪に、柔らかな体…リオンの人型は、息を呑む程の美人である…猫型のリオンも美しく、真っ白なふわふわの毛並みに、全てを見透すような蒼眼がとてもクールだ。


 私はそっとリオンの胸に顔を埋めていると、リオンも起きてくれたみたいで、体を伸ばした。


「おはよう…どした?花凜」

「甘えてただけ」


 お父さんとお母さんは今何をしているのだろうか?笑ってくれているのだろうか?そんな事を考えながら、私はリオンにくっついている。


 リオンは私の頭を抱いて、もう片方の手を背中に回してくてた。


 両親の事を考えていたので、もしかしたら顔に出てしまっていたのかもしれない。


 男口調でクールだが、とても根が優しいのだ。


 充分リオンを満喫した後で、私はベットを抜け出した。


 作ってもらった外套を羽織り、体を捻って準備運動をする。


「さあリオンも起きて!家の外が魔獣に囲まれてるの♪」

「そうか、魔力を遮断したのはいいが、雑魚に絡まれるのは面倒だな…

花凜がもう少し魔力遮断に慣れたら、私の魔力だけでも解放するようにした方がいいだろう」

「外に出たらそのまま出発する?」

「そうしよう」


 リオンは私の言葉に頷くと、欠伸をしてベッドを抜け出した。


 魔獣の皮で作った水筒と、木製の水筒に魔力水をたっぷり注ぎ込む。


「人の追っ手を振り切るために、大河を渡る予定だったんだよね?

もくちゃんの話だと、騎士団さんは今日の朝方に国へ帰ったみたいなんだけど…どうする?」


 私はリオンに聞いた。


 どうする?とは、追っ手の心配が無くなり、無理に移動する必要が無くなったので、このままこの場所に居ても良いのではないかと思ったのだ。


 そこまで説明しなくても、察しのいいリオンは私の意図を汲んでくれる。


「確かに、ここにそのまま居れば、追っ手もなかなか来れないだろう…

でもいいのか?元々花凜は人間だったんだ…人の世でやりたい事はないのか?」


(やりたい事…)


「あ!」


 リオンの言葉に、私は今まで出来なかった沢山の事が、頭の中を過ぎっていく…


 私の顔を見て、リオンはどうしたいのだ?と、そんな顔を向けてきた。


「美味しい物が食べたい!」


 私は素直に自分の気持ちを伝えた。


「食べ物か…まあ最初の目的は、そんなものでいいだろう」

「今まで出来なかった事が沢山あるんだよね…この体なら、沢山食べても大丈夫そうだし♪リオンさえ居てくれれば、贅沢言うつもりはないけどさ」


 リオンさえ居てくれれば私は生きていける…そんな事を考えて、私は素直に口に出した。


 私達は外に出る準備を整えて、出入口の扉に手をかける。


 そして扉を開けると、こちらを警戒する魔物の群れが見えた。


「何も出来ないと思わないでね?」


 初めての魔物で初めての戦闘だ…


 安全な日本に生まれ、病院の中で過ごしていた私に心の余裕はない…


 生きるために戦うっていうのは、思った以上に怖いものだ。


 緊張を紛らわせるため、私は魔物の群れに話かける。


 魔物は狼のような形をしているが、体が3メートルくらいありそうだ…


 まずは、ツリーハウスなどを創り出した魔法、『創造生命魔法』で仕掛ける事にした。


(イメージは出来てる!大丈夫…きっと)


 私は自分に出来る魔法を、想像から創造する。


 人化の魔法は、正確には形態変化魔法だ。


 きっと慣れてくれば戦闘用に体を作り直せるのかもしれないが、今の私には到底無理である。


 私は足から地面に魔力を流しながら、魔物との距離を一定に保ちつつ横移動した。


 私の歩いたその道からは、無数のイバラの蔦が溢れ出しす。


(みんな!よろしくね♪)


 イバラは命を持っているので、私が指示を出さなくてもオートで敵に襲いかかってくれる。


 棘には返しがついていて、少しでも刺されば食らいついて離さない。


 イバラは動きに緩急をつけて、見事に死角から狼を捕縛した。


「うん!悪くはなさそう」


 狼は唸り声を上げて、捕まらないようにイバラと距離を取った。


 捕まった仲間がイバラに絡め取られる光景を見ていたので、狼達は必要以上にイバラを警戒している。


「花凜、気をつけろよ」

「え?」


 私が前だけを見ていたので、リオンが注意するように言ってきた。


 狼は氷の魔法を操るらしく、鋭く尖った氷の柱を空中に作り出していく…


 割れた窓ガラスを踏みしめるような音が響き、槍のような立派な氷が、空一面を覆い尽くす。


(うわー…凄い…)


 この世界で生きると言う事は、こういう経験を何度もしていくという事かもしれない…


 確かに不安はいっぱいあるが、その反面で少し楽しんでいる自分がいるようだ。


 自由に体を動かせる事の素晴らしさや、テレビですら見た事の無い光景を目の当たりにして、私の心は踊っている。


「大丈夫だよ、リオン」


 今は無い心臓があった場所に右手を置き、短めに1度だけ深呼吸をする。


(さあ!やるぞー)


 完成された氷の柱は、ハンマーで打ち出されたかの様に私に向かって飛んできた。


 イバラが素早くしなり、私に当たる前に叩き落としていく。


 イバラに粉砕された氷が、太陽の光を受けてキラキラ輝いていた。


 狼の本体は高速で動き続けているので、思った以上に捕まえる事は難しい…


 全部で12匹…リーダー格の1匹が、後ろでこちらの様子を伺っている。


「この魔獣はリオンの劣化版だね」

「こんな奴らと比べるでないわ」


 リオンと軽く話をして、私は更に前に出た。


 オートで展開するイバラの蔦だけでも、時間をかければ狼の対処は可能だろう。


 しかしもう1つ、別の創造生命魔法を使ってみる事にした。


「食べられてあげるわけにはいかないの…それに、私は美味しくないよ?」


 私は手の中に特殊な綿毛を創造して、空に大量にばらまいた。


 その綿毛は、風に乗るわけでは無く狼たちに吸い寄せられるように飛んで行く。


 綿毛の移動速度は遅いが、イバラを避ける事に必死になっていた狼に当てる事が出来た。


 私の綿毛に接触した狼は、たちまち意識を無くしたように横倒しになる。


「花凜、今のはどんな魔法なんだ?」


 一部始終を見ていたリオンが、首を傾げて私に質問をしてきた。


 狼は綿毛に触れただけで、そのまま何も出来ずに倒れたので、リオンが疑問に思ったのだろう。


「んー…私に敵意を持ってる生き物に自動で吸い寄せられて、当たると生命力の全てが私に還元される魔法だよ」

「なるほど…悪くはないな、遠隔ドレインができるようなものだ…改善点は飛翔速度と、初見でしか使えないところだな」

「そうなんだよね…もう少し練り上げないと」


 私はまだ戦闘に苦手意識がある…というか日本で喧嘩すらした事ないので、いきなり躊躇無く戦える方がおかしいだろう。


 戦えただけでも、かなりの進歩じゃないだろうか?


 もしもこの戦闘相手が人間であれば、私は戦えなかったはずだ。


 食うか食われるかの世界なんて、日本にいた頃は想像すらしていない…


 私の作った綿毛は飛翔速度が遅く、警戒を強める狼達を捕らえる事は無理そうだ…


 綿毛は追尾をやめていないが、当たる事は無いだろう。


「しょうがない、後は私が殺る」


 リオンは瞳に魔力をためると、魔物の群れを見渡した。


 何の抵抗も許さずに、次の瞬間氷漬けである…


(あの魔法は理不尽よね…)


 狼が可哀想になり少し同情するが、これが自然の摂理なのだろう…食べられたくないなら戦うしかない。


 実用性を突き詰めたリオンの切り札は、目に魔力を宿し見るだけで敵を氷漬けにする。


 この魔法はリオンだけのオリジナル魔法だ。


 誰かに見せる時は確実にトドメをさす時で、他に知る者はいないらしい…


 リオンの技を知る例外は私だけで、私の魔法の本当の意味を知るのも今はまだリオンだけだ。


 私が今の戦闘で使った魔法を他の人が見ても、イバラを操る魔法と、毒のある綿毛なのか?くらいにしか思わないんじゃないだろうか?


 しかし、私のイバラは意思を持って動いていて、綿毛も生命を吸い取ってしまう生き物なのだ。


 この事を知るのはリオンだけである。


「リオン、そんなに魔物の皮や爪や牙を集めてどうするの?」

「人間は魔物の素材を金で交換してくれるからな、人間の町に行くなら金が必要になるだろう?」


 言われてみればその通りである…お金がなければ何も食べれない。


「そっか…お金どうやって稼ぐか考えなきゃいけなかったよね…町で回復屋さんとかやりたいな♪」

「花凜ならどんな怪我も治すだろうが、やりすぎると目立つから、ほどほどにな」


 リオンが30分くらいで素材を剥ぎ終わり、私が蔦で纏めて縛り上げる。


 今まで狩った魔物の素材が山のようにあるので、持ち運ぶのも一苦労だ。


 重さは気にならないが、とても嵩張るので運びずらい…


 魔物はどの種類も体が大きいので、剥いだ皮だけでも相当な量になるのだ。


 河の手間で準備をする私達、準備と言うか何と言うか…狼のお肉がもったいないので、リオンが頬張っている最中だ。


 向こう側は砂漠になっているのと同時に、ラグホーム王国領になるそうだ。


 そして1番近くの人の街に行く予定なのだが、無事街の中に入れるかどうかは、行ってみないとわからないらしい…


 その街は海沿いにあり、リオンも中に入った事が無いのだ…


 到着まで数日かかるらしいので、細かい打ち合わせもしておくべきかもしれない。


「向こう側には風魔法で飛んでいく、荷物も多いが、1度でいけるだろう」


 私はリオンに抱きつくと、身体がふわりと浮かんだ。


 リオンが風魔法を使い、向こう岸まで渡る予定だ。


 対岸はとても遠くに見え、約4キロの距離を空中遊泳する。


 まったりふわふわ飛んだので、穏やかな風がとても気持ちよかった。


 空を自由に飛ぶのは憧れるので、私もいつか覚えたいと思う。


「ここからは、身体強化魔法の練習のために走るぞ?」

「了解です!リオン先生!」


 対岸に降り立つと、イメージ通り1面に広がる砂、砂、砂…


 渇いた向かい風が体を撫でていくが、砂ぼこりが立つ程ではなかった。


 太陽の光を浴びて、熱くなった砂の上に、私は素足で立っている。


 踏みしめると少し沈む足が楽しいと思った。


 しゃがみこみ両手で砂をすくってみると、キラキラと光を反射しながら指の隙間から零れ落ちていく。


 別に急いではいないが、何時までもこうしているわけにもいかないので、私は立ち上がる。


(海沿いの街かー、どんなとこなんだろう)


 魔力遮断をしながら全身に魔力を通す身体強化魔法を使うなんて、矛盾しているように感じた。


 しかし魔力遮断は、外に流れ出る魔力を止める技術で、身体強化は身体に魔力を通す技術だ。


 実に簡単だが、これを同時にやろうと思うと、慣れてない私はぎこちなくなってしまう。


「出発だ!」

「ま、待ってよー」


 リオンは猫型の姿に戻ると走り出した。


 置いていかれないように私も必死で走り出す。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




 走り出してから3日目…海沿いの街まで、あと1日くらいの距離まで走破していた。


「大分慣れたな花凜」


 猫の姿に戻ったリオンの全力疾走には及ばないが、身体に流す魔力の量を徐々に増やして、ぐんぐんスピードを上げている。


「身体が馴染んできたのがよく分かるよ!」


 私がそんなふうに言うと、目の前に巨大なジャイアントサンドワームが現れた…このジャイアントサンドワームという名前の魔物は、この砂漠にしか居ないのだとリオンが教えてくれた。


 しかし、私達はそれを無視する。


 ジャイアントサンドワームは、意外と素早く体も大きい…


 個体でもそれぞれだが、約15メートルはあるかもしれない。


 身体強化をした今の私なら、殴る蹴るだけでもジャイアントサンドワームはバラバラになる…


 しかし無駄に殺したくないので、脇をすり抜けるとそのまま置き去りにした。


 今は手持ちの魔物の素材だけでも、持ち運ぶのに苦労しているので、これ以上は持ちたくなかったのだ。


 私が素材を持つとバランスが悪くなるので、普段はリオンの背中に括りつけている。


『花凜様、初めまして!急に声をかけさせていただく無礼をお許しください…』


 急に念話が私に呼びかけてきた。


『およ?ラグホーム王国のもくちゃんかな?私の魔力はそっちにまで届いてたの?』

『左様でございます…この大陸の木々のほとんどは、既に花凜様の、魔力の影響を受けています。

会話が出来る程に力が届いているものは少ないですが』

『話しかけてくれて嬉しいよ♪どうかしたの?』

『実は…花凜様の現在位置の、少し南に小さなオアシスがあるのですが、水が枯れつつあり、ドリアードが1人死の危機に晒されております…

街に向かう前に、寄って回収してあげて欲しいのです…きっと花凜様のお役に立つと思います』

『うん!わかった!道案内お願い』

『ありがとうございます』


「リオン、ちょっといい?」

「ん?どうした?」


 私はリオンに、今の話を説明した。


 命が危ないと言われたら、放っておく事なんて私には出来ない。


 もくちゃんの案内で、無事にオアシスに到着したのだが、池の水はほとんど干上がっていた。


 私はすぐに周りを見渡たすが、それらしき姿が見えないようだ…


 まずドリアードはどんな姿をしているのだろうか?


 ここは想像してたより小さなオアシスで、コンビニ4つ分くらいの面積しかない。


「ドリアードちゃーん!どこー?」


 もくちゃんはここにドリアードが居ると言っていたのだが、見つからないので私は声をはり上げている。


「むぎゅ!」


 何か踏んだらしい…足元から変な声が漏れる。


「ごめん、君がドリアードなの?」

「あ、あ、あ、し、神樹様!」

「オアシス枯れそうって聞いてきたけど、確かに干上がる寸前だね…助けに来たよ」

「ありがとうございます…

しかし私が宿っている木は、そこの大きなヤシの木です。

他に私の入れるような木がなくて…」

「なるほど…じゃあ私の中にしばらく居ればいいよ!」


 ドリアードはなんだか萎びていて、小さい人参みたいだった…


 私は大きな口を開け、ドリアードを丸呑みにする。


 ドリアードは何か言いたそうだったが、あまりドリアードの状態が良くなかったので、体内で回復させようと思ったのだ。


「これでひと安心♪」

「花凜、この泉は魔物の魔力が混じっているぞ?」

「それってどういう事?」

「霊峰で何かが起きているのかもな」


 リオンは霊峰の方角を見ると、少し悲しそうな顔をしているように見えた…


「もしかしたら、いつか見に行く必要があるね…」

「まあとりあえずは街に向かおう、魔獣の皮と素材を下ろしてスッキリしたい」

「うん!私も靴と服とご飯とケーキ〜♪」


 私達は、すぐに街に向かって移動を再開する。


 神樹の枝で何を作るのか、身体強化を覚えてからは、戦闘の幅が広がり、近接武器も視野に入れて考えていた。


 オアシスの事も気になるけど、今は後回しで大丈夫だろう。


 私は見た事もない街が楽しみで、少し気が急いているのかもしれない。


 やりたい事が出来る…それが嬉しくて仕方がないのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



 街の名前は、ソルというらしい…


 ソルは漁業に力を入れており、海鮮料理を出す店が多い。


 海の魔物対策として、冒険者のハンターを護衛に雇ったり、様々な方法で対策を立てている。


 基本的に、3隻以上で漁をする決まりがあり、この方法のおかげで、漁師の死亡率が激減した。


 ソルの街は、昔ラグホーム王国の王城があり、政治の一切はここで取り仕切られていたそうだ。


 しかし砂漠化が進み、ラグホームの首都は南に移され、現在は公爵がソルの街を管理している。


 昔王都だった事もあり、街の中は中々に立派らしい。


 街全体が要塞になっていて、壁は5メートルと高く塀の上には弓兵などが巡回している。


 私達はソルに到着したのが夜中になったので、入場は朝の受付を待つ事になった。


 朝も早い時間から門に人が並んでいる。


 この世界で初めて見る人間達は、茶髪や金髪が多いようだ。


 私はソルの街の情報を、並んでいる人達に色々教えてもらったのだ。


 私は基本人見知りなので、情報収集していたのはリオンである。


「おい花凜、そんなに緊張するな」

「うぅ、怖いよー」

「まあ何とかなるだろう」

「…」


 私は入場手続きの列に並ぶだけでも、相当緊張しているのだ。


 もちろんリオンは人型で、一緒に並んでくれている。


 そしてとうとう自分達の順番がきた。


「我ら2人入場したい」

「身分証と入場料を払ってくれ」


 ソルの門を守る衛兵は、事務的な会話をしつつ、ニヤニヤこちらを眺めている。


 真っ白い髪、綺麗な青い瞳、白い肌、もの凄い美人なリオンに、目を奪われているようだ…


 しかし半分の目線はこちらに向いている気がする…


 私はリオンの影に隠れて、前を少し覗きながら抱きついている。


「実はな、魔物の討伐に行って素材を集めていたんだが、不意打ちで荷物を魔物に奪われてしまってな…

今は財布も身分証もないんだよ…

素材ならここにあるから、入場さえ出来れば金も身分証も作れる、見てくれ」


 リオンは、今まで集めた魔物の素材を、兵士の前にドサッと降ろした。


「こ、これは…とんでもない素材なのは、俺でも見ればわかるさ…だが身分証の無い人間を、ソルの街に入れるのはな…」


 兵士は困った顔をした。


 砂漠を歩いて来たとは思えない程の軽装に、怪しいと思わない方がおかしいだろう…


「…はぁ〜、気の効かんやつめ!だからモテないのだ!」

「なんだと!」


 リオンはわざと衛兵を挑発する。


 衛兵の言うことはもっともなので、普通は街に入れないだろう。


 ここで、決め手になるカードをきるようだ。


「こいつを見ろ!魔物に手酷くやられて、怯えてるんだぞ?靴も無いし、外套の下は全裸だ!早く休ませてやろうとは思わないのか?」


 リオンは、私の外套の裾をたくし上げる。


(わー!リオン、聞いてないよー)


 すると、私の作った綺麗な真っ白のすらりとした生足が、陽の光を浴びて輝いた。


 私のイメージで作り上げた足は、ガリガリだった頃と違い、ちゃんと程よく肉がついている。


 列に並ぶ人の注目を集めるところから、全てリオンに計算されているようで、並ぶみんなに聞こえるように大声で今の言葉を言い放った。


「いや、しかし…」

「お願い…します」


 私の全力の一言…これは演技では無くて、本心からのお願いだ。


 緊張し過ぎて、少し涙声になってしまったようで、リオンが私の頭をぽんぽん撫でた。


 それを見ていた人達のざわざわが大きくなっていく。


「おい!入れてやれよ」(男A)

「そうだ!入れてやれよ!」(男B)

「可哀想だろうが!」(男C)

「この童貞!」(女A)

「入れさせてくれよ!」(変態A)

「生足…生足…」(変態B)


 なんだか違うのも混じっているが、入場待ちの人達が、私達の味方になってくれた。


 衛兵は少したじろぎ、頬に汗が流れる。


 私は振り返りみんなを見つめると、御礼を言う事にした。


「ありがとう」


 満面の笑みで、その場全員に感謝をする…


 衛兵もこれ以上は無理だと思ったのか、溜め息を吐くと1歩後ろへ下がり道を譲ってくれた。


「はぁ〜…通ってよし!後で身分証と金持ってこいよな!」


 私は少し緊張がとけて、融通を聞いてくれた衛兵の前に出ると、魔力回復水の入った木製の水筒を手渡した。


「手作りです」


 嘘は言っていない。


 緊張のせいか、私の頬がほんのり赤くなる。


 慣れない事はする物ではない!


 すぐさま踵を返し、私はリオンの元へ戻っていく。


「可愛い過ぎだろう…」


 衛兵は小声で何かを呟いていたようだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ