オスカー・グラパなんだっけさん!(2)
【オスカー】
目の眩むような閃光と、大爆発が起こった。
予想外の爆発の威力で、壁にヒビが入っていく。
「くっ!大地のガントレット!」
ガントレットに魔力を流し込むと、鮮やかな青い光を放ち始める。
その状態で、拳と拳を胸の前で叩き合わせた。
これは昔、親父が製作したオリハルコンのガントレットで、いくつかの魔法が組み込まれている。
そのうちの能力の1つを使えば、万が一なんて事は無いはずだ。
生身で耐えられない事は無い…これくらいの爆風でダメージを負う可能性は低いと思う…しかし素直に受けてやる事は無いのだ。
腕から離れ、ガントレットが形を変える…左右が合わさり、正十角形の大きな盾になった。
盾は黄金色で、飾り気は無いが美しい。
「俺を護れ」
主の体の周りを光の障壁で包み、花凜の起こした爆発を受け止めてくれた。
爆発の影響だと思うが、辺りが白煙に包まれてしまったので、どうも見通しが悪い。
ゴーレムの拘束を外したかったのはわかるけど、そのためにとった手段としては、異常としか言えないだろう。
爆破の中心部分…約直径20メートルの範囲で、床がマグマのように溶解していた。
魔法を吸収出来る臨界を超えて溶け出したようだが、普通は1度無理なら諦めて、別の方法を探すと思うのだが…
「まったくよー…いかれてるぜ」
白煙のせいで見えにくくなっているが、その威力が尋常でない事が俺にはわかる。
特別仕様に作った魔吸岩ゴーレムも、腰から上が消し飛ばされて直立していた。
「おーい!大丈夫か?」
花凜の姿も魔力の反応も見つからない…さっきの爆発で死ぬ事はないと思うが、深手を負っている可能性はあった。
大きく声をかけるが返事が無い。
融解した床の上を歩いていく。深さはくるぶし位までなので、歩くのに支障はないだろう。
「っあ…?」
急に足元がふらついた…突如体に寒気が襲う。
視界も霞んできて、意識がはっきりしない。
「花凜…め…白煙に…何か混ぜやがったな…面白いじゃないか…」
きっと花凜はまだ戦うつもりなのだろう。
姿も見せずに魔力も遮断されているのが良い証拠だ。
レイブから花凜の能力について、少し話は聞いている。
きっと創造生命魔法とやらで、何か攻撃を仕掛けて来ているのだ。
「…っと、笑ってる場合じゃ…ないな…」
裏をかかれる事が久しぶりで、少し楽しくなってきた…油断していたとはいえ、魔法の使い方が上手い奴だ。
魔法の爆発に乗じれば、少ない魔力の気配は隠せるだろう…狙ってやったのなら対したものだ。
こうしている間にも、白煙がどんどん濃くなっていくので、一応呼吸は止めておく。
視界は遮られているが、この城の中に居る以上、花凜が何処にいるのか分かるはずなのだ。
魔力を遮断していたとしても、壁や床は俺の魔法で作った空間だ。触れれば能力で探知できる。
しかし何も感じ取れないという事は、花凛は宙に浮かんでいるのだろう。
いったい何処に隠れたのか。
「仕方ない…部屋を作り変えるか」
眠気は消えないが、段々と体に力が戻ってきた。
花凜には悪いが、この体は魔法による影響を殆ど受け付けない…抵抗力が桁外れなのは、生まれついての能力だったりする。
立ち上がり右手を軽く振ると、凸凹した床が平らになり、部屋が巨大なドームのように姿を変えた。
これで全てが見渡せる様になった訳だが…白煙のせいでたいした意味は無い。
(クソ!みえねぇな…思っていたよりちゃんと戦えるじゃないか)
『本気でいくからね』
花凛からの念話は、とても静かだが決意に満ちている。
最初は逃げ腰だったが、やっとスイッチが入ったのだろう。
「あぁ…来いよ」
(軽く実力を測るだけのつもりだったが…まあ良いさ)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
【花凜】
(この人絶対におかしい…どんな体してるのかな?)
私は創造生命魔法で、即死出来る猛毒と眠りの胞子を大量に作り続けていた。
毒が何なのかを理解して作り出している訳では無い…イメージを形にしてくれる創造生命魔法は、私の未熟な戦い方でも幅を広げてくれている。
(痛っ)
まずは体勢を整えるため、ゴーレムの後ろに隠れてやり過ごす事にした。
毒と眠りの胞子が充分に濃くなるまでは、この場所を離れない方がいいだろう。
それに少し無茶をしすぎたようだ…
私は時々感情の制御が出来ない事がある…それは少し反省しないといけない。
生まれてからずっと、抑制される事に慣れてしまっていた。
何かを望める体ではなかったからだけど、私は本来わがままで欲張りなのかもしれない…
見て見ぬふりをしてきただけで、望んでも辛い思いをするだけだという事が、わかっていたからだ。
恋愛は禁止、もちろん運動も禁止、お酒も禁止(未成年なので関係ないけど)毎日決まった時間に薬を飲み、規則正しい生活しか許されない…あと太るのも心臓に負担がかかるので禁止…それだけルールを守っていても、眠る時に不安になったりする。
今日も生きてた…それが毎朝私が最初に心の中で呟く事である。
その時に比べたら、この神樹の体は本当に凄い。
きっと、睡眠も食事も必要としていないだろう…
それでも私がみんなと同じように生活するのは、当たり前の事が昔からの憧れであり、普通の人と同じ事が出来るだけで、とても幸せに感じるからだ。
多分オスカーには敵わない…でも簡単に負ける事は絶対に嫌だった。
(うん、反省はお終い!あぁ…両腕無くなっちゃったよ…傷口が熱い…目眩がする)
初めて怪我をしたので、恐る恐る傷口を見てみると、やはりこの体が、人間とは違うだなという事がわかる…わかっていた事だけど、少し複雑な気分になった。
木目は無いが、傷口は削られた木の様にザラザラした見た目をしている。
どうやら私の中身は、ほんのり薄ピンク色らしい…
抉れていても血は出ないが、輝く粉の様な光が傷口から溢れ出ていた…
(これ…魔力だよね?塞がないと場所がバレちゃうよ)
今腕を生やしている余裕は無い…目眩しの毒と胞子の生成に大忙しだからだ。
この魔法は、オスカーの視界を奪うのと同時に、どんな動きをしているのかが、わかるようになっている。
しかし見つかっては元も子も無いので、創造生命魔法で傷口の表面だけは優先して塞ぐ事にした。
「いつまで待たせるんだ?花凜」
盾のように使っていたガントレットが、オスカーの腕に戻っていった。
(これで…よし)
目眩しはもう充分だろう。
辺りは真っ白に染まり、風の流れも無ければ物音1つ無い。
ゴーレムの後ろからシルフの魔法で浮かび上がり、オスカーの背後まで慎重に移動した。
バレないようにそっと地面に降り立ち、思いきり蹴り込むために力を溜める。
イバラやシルフの魔法では、ダメージを与える事が出来ないと思ったので、私は身体強化に全ての魔力を注ぎ込んだ…
「そこか!」
オスカーが振り向きもせずに、後ろへ蹴りを正確に突き出してきた。
「なんで!?」
間一髪のところで体を左へ捻り、ギリギリ直撃は躱す事が出来た。しかし蹴りは脇腹を掠り、触れた部分が削りとられる。
鈍い痛みに耐え、捻った勢いのまま左足を軸に回転する。
姿は見えていないはずなのに、何らかの手段で私の居場所を特定したのだろう。
私は回転の力を加えた回し蹴りで、オスカーの後頭部へ右足を踵から叩き込んだ…体勢が少し崩されていたので、威力は8割といったところだ。
衝撃波で目眩しの毒や胞子が吹き飛ばされる。
手応えは申し分ない。
「いてぇな…だが軽い。身体強化を普通の人間のように使うから、力も強度も半端になるんだよ」
全力の蹴りだったのに、オスカーはダメージを受けなかった。
蹴り込んだ右足が、オスカーに左手で掴まれてしまう。
(力勝負じゃ全然勝てない…どうしよ)
オスカーが振り返り、何故が私の体を見ている。
「半裸でよく出てくるもんだな…」
「そうだよ!このパジャマ気に入ってたのに!どうしてくれるの?」
「花凜…おまえ…それ自分で…」
右足が掴まれているので、オスカーから生命力を吸収する。
「なんだ?力が…」
オスカーが訝しげな顔をした。
今の私に、オスカーの全ての生命力を吸い上げる力は無い。
左足1本で軽く飛び上がり、少し力の緩んだ手を蹴飛ばして、強引にオスカーの左手から右足を引き抜く事に成功した。
一瞬の出来事だったが、オスカーが油断をしなければ、抜け出す事は出来なかっただろう…そのままオスカーの頭を踏み台にして、バク宙してから、シルフの魔法で空中に浮かび上がると、私は再び煙の中へ姿を隠した。
オスカーの生命力を少し吸収出来た事で、魔力や体力が回復してきている。
(これでもう少し戦える。でもさっきは危なかったな…何か体がおかしい)
体の芯が熱く、少し息苦しい…オスカーの生命力を吸収したのが原因…?他に思い当たる事が無い。
追撃されるのが怖かったが、何故か追いかけて来る様子が無い。
オスカーが何をしても対処出来るように、約50メートルの距離を取り、空中に浮かびながら様子を伺う。
やはり目眩しは有効なのだろう…今なら腕を治す事が出来そうだ。
(創造生命魔法)
薄青い光が体を包んだ。放出する魔力で場所を気付かれないように、慎重にゆっくり腕を生やしていく。
痛みが和らいでいく事で、少し心に余裕が出てきた。
(さっきは近付き過ぎて場所がバレちゃったのかな?)
生命力を吸い上げられ、オスカーは自分の体に異変が無いかを調べる様に、両手をグーパーしたりしていた。
居場所がバレる事は無いと思うが、オスカーの前面に出るのは少し怖い。
(私の魔力は、残り88万くらい…元々限界が300万くらいだけど、オスカーさんの魔力はまだ700万以上ありそう…一矢報いたいけど)
「おいおい…いったい何しやがったんだ?」
答える必要はあるだろうか?
念話で返答する分には、居場所がバレる事は無いだろう。
『ちょっと生命力を吸っただけだよ?』
「生命力とはなんだ?…体力、魔力、気力…その全てが弱体化している。それはまあいっか…花凜はまだ自分の能力について、真に理解をしていない…」
オスカーは何を言いたいのだろうか…創造生命魔法で出来る事は、生命力の吸収、生命力の強化、新たな生き物の創造、体の異常を治す事…
「やれやれ、もう少し追い込んでやるか」
やっと腕が再生した。
他人を治すのとは違って、自分の体を治すのには多くの魔力が消費されるみたいだ…私の魔力は既に50万も無い。
(こんなに消耗しちゃうなら、腕は後回しにすれば良かったよ)
急にオスカーの体から魔力が放出されて、部屋全体がそれに呼応するように、大きな地鳴りを上げている。
何をするつもりなのだろうか…?天井からパラパラと小石が降り注いでくる。
「そこに居たか、花凜」
オスカーが弾丸のように飛び出し、私目掛けて拳を振り上げる。
(居場所がバレた!?………この光る天井から降ってくる小石……あ、そっかー…このフィールドがオスカーさんの魔法なら、探知出来て当たり前だよね。さっきは近すぎて不意打ちがバレたんじゃなくて、地面に降りたのが間違いだったんだよ)
距離をとって警戒していたので、高度を上げて、オスカーの突撃を楽に回避する事が出来た。
オスカーのガントレットが光り、空中に光る足場が出現する。
「逃がさん!よ!」
オスカーが足場を蹴って、また正確に私の方へ突進してきた。
近距離からの方向転換で、今度は逃げられそうに無い…
「いくぜ」
オスカーの右手のガントレットが変形して、拳を包み込む…一点を貫くような形状になり、約20センチくらいのショートランスになった。
オスカーの瞳が妖しく光る…覚悟を決めて、私は攻撃を正面から受ける事にした。
半端な防御では、もしかしたら死ぬかもしれない…両腕両足を畳んで、全力で体の中心をガードする。
私の体の中には、臓器や急所がある訳では無い。
勝手にそう思っているだけで、実際はどうなっているのかわからないけど…
手足は言わば根っこや枝だ!少し無くなったくらいで死ぬ事はないと思う。
オスカーの拳が光った気がした…そう思った瞬間には、私の右腕が肩から消し飛んでいる。
(痛い!攻撃見えなかった)
「次はどうするんだ?」
宙高く飛ばされた腕のゆくへを、一瞬目で追ってる間に、頭上を取られる。
(やば!)
追撃の蹴りをモロにくらい、遥か下の地面に叩きつけられてしまった。
体のダメージは、胸を中心に、顔、肩、腹、腰…全てにヒビが入っているようだ…創造生命魔法で治療しないと、まともに動けないだろう。
視界は塞がれているはずだが、やはりオスカーは私の居場所がわかるようで、すぐ近くに降り立った。
(全然戦いにならなかったや…)
悔しくて涙が零れた…傷を治せば魔力が尽きるし、出来る事が思い付かない。
私はせめて立ち上がる事にした。
「これでお終いだな」
オスカーがそう言うと、ゆっくりと近づいてきた。
私の零した涙が、岩の地面に綺麗な赤い花を咲かせる。
(こんなところに咲いちゃダメだよ…太陽も浴びれない…ん?)
「素人にしたら良く頑張った方だ。気を落とす事は無い」
「…」
やれる事を1つだけ思い付いたのだ!もう時間が無い。
ふらふらと歩いてオスカーから距離を取る。これは多分賭けになる…動く度に、体のヒビから激痛がはしる。
「おいおい…今更何を考えているんだ?」
オスカーが私を追ってきた。
(もう少し…もう少し…痛い…でも!)
ボロボロな体を酷使して、何とか目的地に移動する事が出来た。
「諦めが悪いな…これ以上は死ぬぞ?」
私はオスカーの方へ飛ぶ…シルフの魔法すら使ってないただのジャンプだ。
地面に落ちる私の体が、どしゃっと無惨な音を出す。
「そこか!」
オスカーが振り返って、再び拳が光ったようだ。
「ハズレ…それはオスカーさんが吹き飛ばした私の右腕だよ」
宙高く飛ばされた私の右腕は、オスカーには場所が把握出来ていなかったのだろう。
一瞬の隙を付いて、私はオスカーの懐に忍び込み、左手を背中に這わせる。
「創造生命魔法…侵蝕!」
残り全ての魔力をこの魔法に注ぎ込む!もう他に出来る事が無い…イバラの蔦や根っこが、オスカーの体を内部から破壊し蹂躙していく。
「うおおおあああ!やられた!」
「もう…げん…かい…」
岩の上に咲いた花に、ヒントをもらった…初めての試みだったが、無事成功出来たようだ。
(何とか一撃与える事が出来た…もう…)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
【オスカー】
「立ったまま気絶しているのか?」
まさかここまでやられるとは…思ってもみなかった。
最後の力を振り絞ったようで、花凜はピクリとも動かない。
靄が晴れてきて、やっと眠気からも解放された。
(体の約3割が破壊されたか?イバラは全身に廻っているようだ…この力、鍛えれば良い武器になるな)
花凜の魔力がとても消耗しているので、寝室に寝かせる事にした。
『ロウ、ちょっと来てくれ』
『はーい』
ロウが来る前に、半裸の花凜へ自分の羽織っていた白いシャツを被せてあげた。
(ちょっと心配だが大丈夫だろう…)
体内のイバラの成長や動きは止まっているが、ちょっと動きづらい…関節を強引に曲げると、中のイバラがちぎれるようだ。
「おまたせー」
ロウが先程の格好のまま姿を現した。
「花凜をベッドに寝かせてやってくれ」
「うわ…酷い…若様どんなプレイしたの?」
ロウは花凜を優しく抱き上げると、こちらを見て顔を引き攣らせる。
「……実力を測ってみたんだが?」
「そうですか…」
ロウが何故かこちらを躊躇いながらチラ見している。
「どうかしたのか?」
「えーと…若様鏡作ってみて…すぐわかるから」
すぐに魔法でクリスタルの鏡を作り出した。
その隙にロウはこの場から転移で消えた。
鏡を見ると、普段の人型の顔で間違いない。
(なんだったんだ?あ、あれ?)
頭の上に1輪の花が咲いている…ロウはきっと笑いを堪えていたのだろう。
(花凜め…やられたぜ…これじゃあ威厳も何もあったもんじゃないな)
右手で花を掴むと、花がキャッと声を出した。
少しイラっとしたが、強引に引き抜こうと思って力を込める。
(え?…は?い、痛い!…な、なんだって!)
花には痛覚があり、俺の体の一部になっているようだ。
(まさか…ずっとこのままなんて事は無いよな?)
ーーぽん、ぽぽぽぽん!ーー
何の音だろうか?恐る恐る再び鏡を見ると、頭の上に花が増えていた…
形はたんぽぽのようだが、色はカラフルである。
(まじかよ)
頬から冷や汗が流れた。




