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決戦準備(5)




「まずはクラーケンについて調べてきた」(クラウド)


 クラウドが銀色の筒のような物を取り出した。


 銀色の筒には綺麗な装飾が施され、宝石があしらわれていた。


 大きさは500ミリのペットボトルくらいの太さで、長さは約60センチといったところだろう。


 クラウドが筒を捻じると、キャップが外れて、中から巻き物が出てくる。


 クラウドは私達のテーブルの前に立つと、その巻き物を豪快に転がす。


 みんなと一緒になって私も覗き込んでみるが、細かく文字が沢山書いてあるだけで、絵のようなものは無いらしい。


(古い文字なのかな?私には全く読めないや)


「これによると、クラーケンは体長200メートル以上で、体の表面を無色透明な鉱石が覆っている。強靭な体を持ち、ドラゴンを蝿のように叩き落としたと、この巻物に書いてある。海の中では無敵に近いだろう…しかし、海上からの攻撃で、海中のクラーケンにダメージを与える事は難しい。海水を操り津波すら発生させるらしいが、普通の水は操れないようだ」(クラウド)

「で…でか過ぎるだろう」(ジョゼフ)

「津波は厄介ですね…それでは兵を陸に配置する事が難しい」(ジェム)


 私がリオンの方へ顔を向けると、リオンは黙って頷いた。


 クラウドの持ってきた巻き物には、正確な情報が書いてあるようだ。


 もしも津波が街を襲った場合、一体どれくらいの被害が出てしまうのだろうか…


(と、なると…クラーケンさんが大陸にぶつかる前に、何とかしないといけないよね?津波の規模がわからないから、使わせないのが1番良いんだけどな〜……私以上の魔力があると仮定して…んー…やっぱり想像できないや)


「まだ他にもあるのだ…クラーケンは強力な自己再生能力と、毒の墨を吐くと書いてある」(クラウド)

「厄介だな…海の戦いならジョゼフが1番長けているだろうが、今の話を聞いて打つ手はありそうか?」(ダニー)


 ジョゼフは目を閉じて、頭の中で戦いをシミュレーションしているのだろう。


 その表情は険しく、かなり厳しい戦いを想定しているのかもしれない。


 深い溜め息を吐いて、ジョゼフは目を開いた。


「打つ手は…ある…」


 ジョゼフは言葉を静かに放った…無駄に口を開く者が居ないので、静かな会議室にしっかりと響き渡る。


 ジェムの生唾を飲み込む音まで聞こえてきた。

 

「不可能では無いと思うが、それはクラーケンの来る方向がわかってるなら!だ。そのタイミングで水中魔導放雷爆弾をありったけ投下したらいいだろう…だがな…」


 ジョゼフは言葉を切り、再び考えこんでいる。


 私は爆弾の威力がわからないので、これに関しては何も言うことが出来ない。


「考えてる事はわかるさ」(ヴィリーガン)

「…ヴィリーガン」(ジョゼフ)

「ジョゼフが街を離れている間、俺がバリエントの指揮を執ろう。妻子は必ず守ってみせるさ」(ヴィリーガン)

「…ありがとーよ!ヴィリーガンになら任せられる。あと2、3日だったか?」(ジョゼフ)


 ジョゼフは私の方を向いて、確認するように問いただす。


「はい」(花凜)

「…そうか」(ジョゼフ)


 何かを決心をしたかのように、束ねていた灰色の髪をナイフで切り落とす。


「…おい、ばか」(ダニー)

「念のためだよ…」(ジョゼフ)

「受け取らんぞ!」(ヴィリーガン)


 切り落とした髪の毛を、ジョゼフはハンカチで包んだ。


 私でもこれの意味くらいはわかる…もしもの事があった時に、形見として、身内に届けて欲しいという事なのだろう。


「そう言うなよ…な?」(ジョゼフ)

「…」(ヴィリーガン)


 ヴィリーガンは渋々包を受け取り、自分の懐に仕舞いこんだ。


「水狩り族の王様はそう言ってました…海底の溝に沿って進んでいるらしいので、来る方向もわかると思います」(花凜)

「わかった…今はとにかく時間が無い。俺は急いで帰って、直ぐに船を出し、パンメイラへ向かう。間に合わなかったら、とんだ御笑い種だからな」(ジョゼフ)

「失敗したら帰らんで良い…そのまま何処か遠くへ行ってしまえ」(ダニー)

「心配してくれてありがとうよ!ダニーさん」(ジョゼフ)


 ジョゼフは立ち上がり、懐から四角いキューブのような物を取り出した。


 キューブは少し丸みを帯びていて、真っ黒でピンポン玉より少し小さい…


 ジョゼフはリグルートへ体を向けて、深くお辞儀をする。


「死ぬなよ…他にも打つ手を考えておく」(リグルート)

「必ずや期待に応えれるよう、全力を尽くしたいと思います」(ジョゼフ)


 ジョゼフはすぐに姿を消した。


 転移の魔道具を使ったんだと思うが、外から見るのは新鮮だった。


 小さなキューブにジョゼフの体が吸い込まれると、残されたキューブは光の粒子へと変わり霧散する。


(なるほどー)


 もちろん転移の魔道具の仕組みは知らないが、私は鬼の事を思い出したのだ…きっと私を誘拐した時や、私から逃げる時に、同じような物を使ったのだろう。


 転移の魔道具は貴重な物らしい…しかし、今は時間が無いので、ジョゼフも迷わず使用した。


 もし爆弾で仕留めそこなえば、クラーケンの反撃で、ジョゼフの艦隊は全滅する可能性が高い。


 全員その事に気付きながらも、ジョゼフを止める者は居なかった。


 ジョゼフが消えた空間に、私達は敬意を込めてお辞儀をしたのだ。


「ジョゼフさんの攻撃を合図に、私とリオンと水狩り族で、クラーケンに水中戦を仕掛けます」(花凜)

「おい…水狩り族はわかるが、どうやって水中で戦うつもりだ?」(ダニー)

「えーっと…普通に?」(花凜)

「何か策があるのか?」(リグルート)


 私に作戦などは無い…クラーケンの狂気に満ちた魔力を感じても、動ける者が私達以外にいるだろうか?


 これは消去法で、私達がやるしか道は無いのだ。


「作戦という作戦は無いんだけど、弱ってたらその場で倒しちゃおうかなと思います」(花凜)

「何を馬鹿な事を言っているんだ!出来るわけがないだろう」(ジェム)


 私は少し考える…あまり無駄な時間をここで使う訳にはいかないのだ。


 理解してもらえるかわからないが、私は魔力を解放した…手加減など一切していない。


 いきなり過ぎる私の行動で、会議室の中の沢山の貴族達が気絶してしまった。


(ごめんね…)


 リーファウスの弟も、私の魔力には流石に耐えきれなかったようで、糸の切れたあやつり人形のように、その場で倒れ気を失う。


 リーファウスは何とか踏みとどまっていたようだが、流石に顔色が良くない…


「答えはこれです…クラーケンさんの魔力は私よりも圧倒的で、しかも狂気で溢れていると思うの」(花凜)

「バカな…」(ダニー)

「そ、そんなにきょ、強大だって言うのか?」(ジェム)

「…勝てないわけだ」(ヴィリーガン)

「すごい…」(アシュリー)


 これ程近くで私の魔力を感じ、普通に返答出来ただけでも凄いと思う。


 流石は大貴族…戦えばそこら辺の冒険者よりきっと強いのだろう。


 でも彼等が死んだ場合、その後出る影響を考えれば、クラーケンの前に出す訳にはいかない。


 これでわかってもらえただろうか?


「クラーケンさんに爆弾のダメージが無く、戦っても勝てないと思ったら、釣り上げます」(花凜)

「「「「は?」」」」(ほぼ全員)


 そのまま倒せそうなら倒したいと思う。


 無理なら釣り上げた方が良いはずだ。


 海水はクラーケンのフィールドで、尚且つ私は水中戦を経験した事がない…だから私も安易に勝てるとは思っていないのだ。


 だから釣り上げようと思ったんだけど、みんなが何故か目を見開いて驚いている。


(あれ?変じゃないよね?)


「体長200メートルを超える巨体を釣り上げるだと?」(リグルート)


 リグルートが驚きの声を上げる。


 問題はそんな事が出来るのかどうかであって、釣り上げる事に反対な訳では無いらしい。


「んー…釣り上げるって言うか、転移をして砂漠のど真ん中に落とします」(花凜)


 私は魔力を遮断した。


 会話は何とか出来ていたが、辛そうにしている人も多かったのだ。


 これでもう少し会議に集中出来るだろう。


「悪くない作戦だな」(リオン)

「もうこれしか無いかなーってね…」(花凜)

「転移など無理に決まってるだろう!そもそも水中で詠唱など出来ないし、魔道具を使っても3人を運ぶのが限度だ」(アシュリー)


 今度はアシュリーに否定されてしまう。


 説明するよりも見せた方が早いのだ。


 私はリーファウスの弟の場所へ転移をした。


「消えた…どういう事だ?」(アシュリー)

「花凜は何処だ?魔道具を使ったように見えなかったが…」(ヴィリーガン)


 急に私を見失った事に、また全員が驚いている。


 リーファウスの弟が気を失った時に、盛大に頭をぶつけていたので、怪我をしていないか気になっていたのだ。


(創造生命魔法)


 頭にコブが出来てしまっているようなので、優しく仰向けに転がして、頭を撫でるように治療をしてあげる。


(今度お名前教えてね)


 流石にリグルートは落ち着いている。


 ただ私の姿が見えなくなったので、目で辺りを見渡しているようだ。


「詠唱なんていりませんよ」


 リグルートが振り返り、みんなも私の声が聞こえた方向に顔を向けた。


 私はすぐに、ヴィリーガンの隣へ転移で戻る。


「こんな感じです」(花凜)

「なん…え?一体何をしたのだ?」(アシュリー)


 ドリアードの特殊な魔法のお陰で、私は人物を指定した転移が可能なのだ。


「問題はどうやって体に取り付くかだな…とりあえずやってみなければわからないか」(リオン)


 リオンがゆっくりとこちらに歩いてくる。


 ジェムはリオンの美しさに、思わず見とれているようだ。


 ジョゼフの席が空いていたので、リオンはそこに腰を下ろした。


 あまりにも堂々とした態度なので、みんな呆気にとられている。


 ドクとミーはぐっすりお休み中なのだが、周りに気絶した貴族が沢山いるので、気づかれる事は無いであろう。


「私ならそれが出来ます。だから、もしもの時の事を考えて、誰か砂漠に戦力を集めてくれないかな?」(花凜)

「…その役目、私がしよう」(ダニー)


 ダニーが深い溜め息と共に立ち上がった。


「この中で1番長く生きてる私が、1番安全な役回りをする事になるなんてな…全員私より早く死んだら許さんぞ!」(ダニー)

「怖い怖い…ダニーさんに付き合ってたら、100歳過ぎても死ねないんじゃないか?」(ジェム)

「…120まで死ななそうだ」(ヴィリーガン)

「もはや何も言うまい…私がソルを守ってやる」(アシュリー)


 アシュリーも立ち上がる。


「ならクラウド様の補佐を私がやります」(ジェム)


 ジェムも立ち上がり、その表情は決意に満ちた顔に変わっていた。


「く…あっはっはっはっは…」(リグルート)


 リグルートが急に笑いだしたので、私を含め全員の視線がリグルートに釘付けになる。


 一体どうしたというのだろうか…


 クラウドはリグルートのそんな様子を見て、少し顔がにやけているようだ。


「ああ、なんて日だ…余はこの窮地に、花凜が居てくれた事が嬉しい。これといった対策も決まらずに、最悪の事態になる事すら、覚悟していたというのにな。全く…」(リグルート)


 リグルートが立ち上がると、後ろの席の貴族達も立ち上がった。


 私の魔力を感じても、気絶しないで話を聞いていた者達だ。


「これは間違いなく、この国の歴史上最大の危機だ。海の魔物もどんどん押し寄せて来ている…ヴィリーガン!アシュリー!ジェム!」

「「「は!」」」

「住民の被害を最小限にとどめよ!」

「「「仰せのままに!国王陛下!」」」


 ヴィリーガン、アシュリー、ジェムはリグルートに跪く。


 そしてすぐに3人とも転移の魔道具で姿を消した。


 リーファウスが複雑な表情をしている…私はまたリーファウスに心配をかけてしまうのだろう。


 戦いが始まる前に、1度リーファウスと2人で会話する時間を作りたいものだ。


「花凜さん、何か必要な物はあるかな?」(クラウド)

「んー…」(花凜)

「何でも言ってみよ」(リグルート)

「この戦いが終わったら、水狩り族のみんなを入れてパーティーがしたいな」(花凜)

「よし!わかった」(リグルート)

「戦いに必要な物を聞きたかったんだがな…」(クラウド)


 戦いに必要な物…急に言われても思いつかない…


 リオンの方へ顔を向けてみるが、リオンは軽く首を振った。


「何か必要な物があれば、すぐに言いに来い」(リグルート)

「うん、ありがとー」(花凜)

「では私はこれにて」(ダニー)


 ダニーはまずリグルートへ、その後クラウドにお辞儀をする。


 転移の魔道具を使ったようで、すぐにダニーの姿は見えなくなった。


 消える瞬間、ダニーが微笑みかけてくれたような気がしたが、見間違いだったのだろうか…


「じゃあまたね♪」(花凜)


 私達はリグルートに手を振った後、ロナウド達のいる客間へ移動した。


 あまり長居をしていると、リーファウスが止めに来るかもしれないので、とりあえずソルに戻った方がいいかもと思う。


「おかえり、花凜」(ロナウド)

「花凜ちゃん」(ローザ)

「おかえりなさいませ!妖精王花凜様」(スナッキ)

「みんなただいまー」(花凜)

「早めに出るぞ」(リオン)


 リオンも私と同じ事を考えていたようで、急いで1箇所へみんなを集める。


「ソルに戻ったら、みんなにしてほしい事を説明するね」


 やはりリーファウスは、この部屋に向かって来ているらしく、魔力が近づいて来るのを感じた。


(リーファウス…)


「どうかしたのか?」(ロナウド)

「ううん、大丈夫だよパパ」(花凜)


 私達は館に転移する。





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